Step1 各行程における支援課題をおさえる

発症期の支援課題

精神的支援は不可欠

 神経難病の患者さんは、診断が確定するまでに、多くの医療機関や診療科の受診を経ていることがあります。違和感があるまま現状の生活を優先し、かなり症状が進行したところで受診したことにより、診断とほぼ同時期に医療処置の選択が必要となる人もいます。

 診断がつくことで「何かおかしい」と感じていた理由が明らかになり、新たなスタートとなる一方で「進行性で、根治できる方法がなく、医療処置が必要となる疾患」だと知ることで受けるショックや不安は、計り知れません。
 この時期は、患者さんの精神的動揺が大きいため、看護師は、患者さん・家族の精神的支援を行い、その後の治療や生活のための支援体制を構築していく役割を担います。

 症状が軽度で、健康問題や生活障害が比較的軽い時期でもあるため、訪問看護師が介入することは少なくなっています。しかし、早期に支援に入ることで、今の不安を受け止め、1つでも解決に導くことにより新たな不安の軽減につなげられます。

この時期の支援課題
□疾患の理解や受容
□今後の生活に見とおしを立てるための情報提供
□精神的支援
□家族支援
□制度利用の紹介
□通院先の集約化の検討
□就労・就学継続に関する相談先の紹介

これまでの生活を知り、情報提供を行う

 患者さんや家族がこれまでどういうことを大切に生活してきたか知ることで、その後の「その人らしい生き方・生活」を支える大きな力になります。
 患者さんの就学・就労をできるだけ継続できるような支援や、必要な制度を利用できるようなはたらきかけも必要となります。

 現在、患者さんや家族は、インターネットなどから自ら情報を得ることが容易となりました。しかし、その一方で、どれが正しい情報かわからなくなるリスクも増加しています。
 疾患を正しく理解して不安を軽減できるよう、必要に応じて専門医につなぐことや、難病相談支援センターなどを紹介し、疾患や生活に関する正しい情報をていねいに提供していくことが大切です。

ワンポイント

発症期のように診断がつく時期に出会う看護師は、病棟・外来看護師、入退院支援看護師などです。
その後、保健所に医療費助成を申請したあとに地域ではじめて出会う専門職は、保健所等の保健師です。

進行期の支援課題

先を見とおした支援体制を築く

 症状コントロールがしにくい不安定な時期です。呼吸障害、摂食嚥下障害、運動障害、認知機能障害、自律神経障害などが進行し、健康問題や生活障害が重度化していきます。
 患者さんは「できなくなることが増えていく」ことと向き合うことになり、ライフサイクル(進学・就職・出産など)にも影響します。

 家族・介護者にとっては、介護量が質・時間ともに増えていくことになります。この時期、看護師には、症状のモニタリングを行い、病状の進行と家族の介護負担に応じ、先を見とおした支援体制を構築していくことが求められます。

「できなくなる」つらさに配慮する

 例えば「パソコンのキーボードが打ちづらくなる」「歩けなくなる」「1人ではトイレに行けない」などの症状・障害に対しては、福祉サービスの紹介、訪問看護や訪問介護を増やすこと、手段や方法を変えることを提案できます。

 しかし、病状の進行に伴う変化を受け入れるのは簡単ではありません。「いずれ自分1人ではトイレに行けなくなる」と認識していても、「今の自分が、1人でトイレに行くのは難しい(危険が伴う)」とは受け入れがたいものです。

 「毎夕の散歩は続けたい」「トイレで用を足したい」「口から食べ続けたい」「コミュニケーション機器のスイッチは、これでなければ」など、患者さんの希望を尊重したうえで、看護師は、安全性を十分に検討し、効果が得られる代替案を提案していくことが求められます。

この時期の支援課題
□症状の進行を予測した対応
□合併症の予防と対応
□医療処置・治療法の理解
□生活(ケア用品や住環境など)の工夫
□ケア技術指導
□精神的支援
□家族支援
□支援チームの構築
□緊急時・災害時の備えと対応
□療養の場の情報提供

支援チームの体制を整える

 進行期の大きな課題として、呼吸障害や球麻痺症状の進行による気管切開、人工呼吸療法、経管栄養法などの医療処置の選択があります。患者さん・家族の十分な理解のもと、繰り返し対話し、話し合ったことを病院・地域で共有することが必要な時期です。

 専門医による診療や、かかりつけ医、リハビリテーション職、訪問介護などの多職種とともに重症化を防ぐこと、新たな合併症を引き起こさないこと、苦痛緩和につとめることが、継続して必要となります。
 異常の早期発見と対応を、支援者で共通認識をもって行えるように、日ごろからの共有や連携体制を整えておくことが重要です。

緊急時・災害時に備える

 支援体制を整備した信頼関係のなかで、緊急時を想定した対応も求められます。
 また、在宅療養の安全を守るため、家族やヘルパーへの技術指導は看護師の重要な役割です。患者さんと家族の病気や介護の向き合いかた、精神的な状態を配慮し、継続して支援チームで環境調整を図ります。
 災害時の備えについても課題を整理しておきましょう。