終末期の支援課題
神経難病の終末期は予測しづらいため、終末期の始まる時期は、「いつから」と示せるものではありません。
一般的に死の直前にみられる症状(呼吸の変化、脈拍を触知できない、血圧を測定できない、意識レベル低下、乏尿・無尿など)は、神経難病では必ずしも出現しません。人工呼吸器などの医療処置を行っていても、終末期を想定していないなか、突然の死を経験する場合もあります。
こうした可能性があることを患者さん・家族が理解し、終末期に「どこで、どのようなことを大切にして生活していくか」意思・意向を共有する必要があります(表1)。そのためにも、発症期から継続して支援する、つなぐ看護が必要です。
【表1】終末期の意思・意向の内容の例
- 治療内容
- 治療の中止や変更
- 最期まで長く過ごす場所
- 状態悪化時の対応
- 病理解剖・遺伝子検査
症状コントロール・苦痛緩和が重要
最期に苦痛が待っていると想像することは、恐怖につながります。苦痛緩和のための治療・ケアがあることを示し、症状コントロールと精神的支援を行うことが重要です。
看取りに向けた準備とグリーフケア
死が身近には経験しにくい時代に変化した現代においては、家族で終末期を支えることは大きな重圧となります。家族の精神的支援も看護師の重要な役割です。長い経過を支えてきた家族の喪失感はきわめて大きく、大切な人を亡くしたときの悲しみも深いものとなります。グリーフケアは死から始まるものではありません。診断がついたときから、患者さん・家族まるごとの経過を支えることがグリーフケアにつながります。
医療処置や最期の療養の場などの意思決定について、家族が患者さんの意思を尊重し後押ししてきたとしても、本当にその決定でよかったのか、家族として何か他の手立てはなかったかと葛藤が生じ、ふさぎこむこともあります。
また、医療者へのグリーフケアも大切です。長い療養経過を支えてきた看護師をはじめとする医療職・介護職にもケアが必要となります。経過をカンファレンスなどで振り返ることで、課題の明確化や妥当性の検証、今後のケアの質の向上につながるほか、燃え尽き症候群の予防にもつながります。
病理解剖に関する支援のありかたは、大きな課題となっています。患者さんの死亡時に、医師から病理解剖を行うと聞いた家族が「本人が、未来につないでほしいと考えるだろうと思って同意したが、生前に意向を聞きたかった」と話すこともあります。一方で、病理解剖を断ったあと「今考えると、本人が生きた証を残せばよかった」などと話す家族もいます。
生前から病理解剖について話すのは難しいことが多いでしょう。しかし、ブレインバンクや献体を早期から希望する患者さんもいます。医療者の思い込みで情報を提供しないよう、検討が必要となります。
Step2 対応策を立てる
療養行程を用いると支援課題がみえてきます。課題を整理したら「どのように対応策を立てるか」というステップになります。
神経難病の患者さんは個別性が高く、情報が複雑に絡み合った全体像をとらえていくことになります。課題解決のためには、糸口がどこにあるのかと悩むことも多くなります。
事例検討会や多職種でのカンファレンスが、よい手段となります。それでも難しい課題については、対応策探究シート(などを活用し、広い視点をもって、解決の糸口をみつけていきましょう。
- 1.Nakayama Y , Shimizu T , Matsuda C , et al: Non-Motor Manifestations in ALS Patients with Tracheostomy and invasive ventilation. Muscle Nerve 2017; 57 : 735-741.
2. 厚生労働省:人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン.2018.
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10802000-Iseikyoku-Shidouka/0000197701.pdf(2024.7.31.アクセス).
3. 厚生労働省:人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン解説編.2018.
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10802000-Iseikyoku-Shidouka/0000197702.pdf(2024.7.31.アクセス).
4. 松田千春,林健太郎,中山優季,他:筋萎縮性側索硬化症患者の遺族が捉える病理解剖の意味.https://www.shf.or.jp/wp-content/uploads/2021/09/4f6aa675c92515e8661fa7f5afcbbe85.pdf(2024.7.31アクセス).
5. 中山優季,原口道子,川村佐和子:難病看護の専門性と特徴―難病看護の定義に向けて―.日本難看会誌2016;21(1):54.
神経難病の病態・ケア・支援がトータルにわかる
中山優季、原口道子、松田千春 編著
髙橋一司 医学監修
B5・248ページ、定価:4,070円(税込)
照林社
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