2024年11月下旬、冷たい雨が降り、真冬並みの寒さとなった日。紀伊國屋書店新宿本店で『エキスパートナース』主催のトークイベントを開催しました。
人々の学習環境や情報収集の方法が変化している今、雑誌の役割も問われているところ。読者の皆さんに、「もっと専門雑誌のことを知ってほしい」。そんな思いから、このイベントが生まれました。
スペシャルゲストとしてお迎えしたのは、編集者のたらればさん。古典文学などについてつぶやく犬のアイコンを、Xで見かけたことがある方もいるのではないでしょうか。
たらればさんと『エキスパートナース』編集長が、いまの時代だからこそ専門雑誌を読んでほしい理由を語り合いました。
たらればたられば
古典文学をはじめ、さまざまな情報をSNSで発信する編集者。フォロワー数は23万人以上。かつて『エキスパートナース』のなかでその名前が掲載されたことも。@tarareba722
『エキスパートナース』編集長えきすぱーとなーすへんしゅうちょう
『エキスパートナース』本誌とwebの編集長。エキナスの公式Xでいつも漫画の話をしている。@ExpertNurse_EN
雑誌と時代
たられば 雑誌って時代性がとても反映されるものなので、10年後に読み返すと古くなっている。なので、読んですぐに捨ててもいいと思うんですよ。作り手として、個人的には全然ありだと。目の前でビリッと破られたら泣くかもしれないけど(笑)。
編集長 それは泣きます(笑)。時代性といえば、『エキスパートナース』は2020年4月号にリニューアルをしたのですが、直後コロナ禍になりました。リニューアルしたのに緊急事態宣言などもあって雑誌自体が発行できないかもしれない事態に。そして、未曽有の事態に医療従事者の皆さんにとっては、とてつもなく大変な時期でした。一次情報が1日の間にどんどん更新されていき、情報が氾濫するなかで、なんとか現場で立ち向かわれている医療従事者の皆さんの役に立ちたいと思い、5月20日発売の号(2020年6月号)で、COVID-19についてのその時点での情報をまとめたんです。たぶん業界で1番最初でした。リニューアルする前は「雑誌ってもうインターネットより古いよね」みたいなことをたくさん言われたんですが、この号を出したら「雑誌ってやっぱり内容が新しいよね」と言われるように。雑誌の価値は自分たちで変えられるし、時代に合わせてやれることがあるんだというのが学びでしたね。
たられば そうですね。
編集長 表紙も悩みましたが、「医療現場で働いてる人たちを応援するイラストにしてほしい」とイラストレーターさんに伝えたら、この絵が上がってきて。ああ、私が言葉にするよりも描いてもらったほうがよほど通じるなと。雑誌の力だな、雑誌やっててよかったなと、本当に思いました。
雑誌の未来は
編集長 雑誌の今後についてはいかがでしょう。
たられば よく言われる話ですが、2~3年後はイベント、通販を手がける雑誌が増えていると思います。それから、オーソライズ、権威化ですね。ブランドを使った商法がマネタイズとしては生き残っていくんでしょう。でも、それが本質的に雑誌の未来かというと、違う気はしています。1つ言えるのは、もっと読者や書き手、クライアントと近づかないといけないだろうなということ。
編集長 雑誌に限らず、メディア全般に言えることでしょうか。
たられば どうなんでしょうね。テレビとYouTuberって全然違うじゃないですか。雑誌と読者・SNSはその関係に近くなるように思います。
編集長 専門誌は必要とされている情報を提供している、との思いはありますが、それがこちらの独りよがりにならないよう、現場の方たちが困っていることを記事にしていきたいので、ずっと雑誌を残してはいきたいなとは思っているんですよね。
たられば おっしゃる通りだと思います。なので、雑誌は社会になければならないと言っていかなきゃいけない。僕が新入社員だった頃は出版社が情報流通を独占していたので、それが当たり前だったんですよ。価値を証明する必要はなかったし、クライアントも特別に広告を入れてくれた。その特別な地位がなくなったときに我々の手に残ってるのは何か、ということをこれから5年、10年で試されるんだなと思うと…、いや、わくわくしますね(笑)。
編集長 わくわくします(笑)。
たられば 質を担保し続けられるかどうかですよね。
編集長 雑誌の今後については、本当に答えがないですよね。編集部でも今、1,430円の価値をどのように表現したらいいのかを考えています。
たられば どこかでジャンプをしたほうがいいです。ジャンプというのは、勇気をもって言いきるというか。価値を考え出すと、無限の螺旋階段を落ちていくしかなくなるんですよね。インターネットによって、表示空間は無限に広がりました。無限にコンテンツがあり、無限に広告が載せられる余地がある。そこに並んで、コンテンツの価値をどんどん下げざるを得なくなってくる時代が、地獄の釜が開いたようにきてしまった。でも、ここで競争しようと思わないことが大事です。より高尚なものと価値を比べたほうがいいですよ。