たらればさんと編集長に聞きたいこと
特集はどうやって決めているの?
編集長 ここからは皆さんからのご質問にも答えていきたいと思います。まずは事前にいただいていたものから。「特集はどうやって決めているの?」、これはですね、医学系・看護系の専門誌には編集委員という先生方がいて、その先生方が年間の特集企画を考えているのが主流です。でも『エキスパートナース』には編集委員はおらず、編集部員が全部自ら企画を立てています。なので、かなり編集者の意向が出ている雑誌ですね。学会に取材に行ったり、先生に会ったり、読者さんの声を聞いたり、本を読んだりして情報収集をしています。他の雑誌はどうなんでしょうか?
たられば 編集長が決めているところが多いんじゃないかな。専門誌だと特集がルーティンになりがちだから、それをどう壊すか。でも、ルーティンはルーティンでいいとも思いますし、編集長の色が出るのはいいことですよね。
表紙はどうやって決めている?
編集長 『エキスパートナース』は2020年4月号からリニューアルしたのですが、それ以前はこのような表紙でした(下記画像参照)。当時は「表紙なんて誰も見ていない」という考えだったんですよね。
たられば そんなことないでしょ。
編集長 本当なんですよ。専門誌は特集の文字さえ大きければいい、と言われていました。でも、自分が買うときってそうじゃないよな、と思い、リニューアルの際にイラストレーターさんに頼んで表紙イラストを描いていただきました。すると、「私たちを応援してくれているのが伝わる表紙ですね」といったコメントが読者さんから届いたんです。イラストが読者さんのエンパワーメントにつながるのだと、発見でしたね。物語性がある表紙イラストの展開についてもご質問をいただいたのですが…、ストーリーは私が決めています。設定を作って、時にはラノベみたいな小説を書いて(笑)。それをイラストレーターさんが形にしてくださっているんです。
たられば それ面白いね。ラノベ、奥付で公開すればいいじゃないですか。
編集長 (笑)編集部の思いを代弁してくれて、イラストって本当にすごいですよね。時節に合わせた絵にできるのも、雑誌の強みかなと思います。書籍ではここまでタイムリーにはできないので。
著者に期待していることは?
たられば たぶん質問者の意図とは違うのかもしれないけれど…、最近はいい人としか仕事したくなくなってきましたね。なんというか、締め切り通りにいい原稿を書いたら、あとはどうてもいいだろうみたいな人と継続的に付き合っていく元気がなくなってきたというかですね…。こっちもいい人でいるから、最低限の礼儀をわきまえている人と仕事したいなと。すみません、なんかずれている気がしますが。
編集長 わかりますよ。そうですね、『エキスパートナース』の執筆者の特徴なんですが、専属の物書きさんではなく、病院で忙しく働かれている方が合間に執筆していただいている場合が多いです。なので、相手に負担をかけていることは常に意識しています。そのうえで執筆者さんに期待していることは…、まずはなんでも編集者に話してほしいかなって思っていますね。ちょっと原稿が遅れそうとか。やりたいこと、書きたいこととか。本当になんでも。
たられば 原稿を依頼する人、全員に会っていますか?
編集長 遠方だったりと会えない場合もありますけれど、できるだけ会おうとはしています。
たられば 最近、依頼される側になってわかったんですが、 見ず知らずの人から原稿依頼が来るわけですよ。当たり前ですよね、自分もしていましたし。でも、「アカウントいつも見てます」みたいな体で言われても、では、あなたのアカウントは?教えてくれないわけですよね。こうした情報の不均衡が、著者は不安なんだと思います。なので、編集者側もさらしていくことが大事なんじゃないかな。
編集長 こういう依頼のされ方だと楽、というような仕方はありますか?
たられば やっぱり締め切りと原稿料の話は最初にしてほしいですよね。あと何回チェックできるかも、最初に全部書くのがフェアですよ。自分もアンフェアなことやっていたんだなと思いました。
ダイビングの専門誌を作ってほしい
編集長 参加いただいている皆さんも、ご質問があればお願いします。
来場者1 趣味でダイビングをやっているのですが、ダイビングの専門誌ってどんどんなくなっているので、ぜひもっと作ってほしいなと思っています。どうすれば、出版社側は専門誌を作ろうと動いてくれるでしょうか。なんなら、ダイバーとして雑誌に出たり、ライターをしたり、作る側にもなりたいです。
たられば 1番効くのは、クライアント(広告主)にアプローチすること。雑誌に掲載している広告主へ、広告を見て商品を買いました、と言うことですね。雑誌の最大の特徴は、読者とクライアント、業界との架け橋になれること。なので、架け橋だと証明されると、よい方向に動いていくと思いますよ。
編集長 雑誌に出たり、記事を書いたりしたいなら、編集部に直接ご連絡したらいいかもしれません。そのときに、企画書までいかなくても、やりたいことを見える形で示すと、編集部の人も想像しやすいんじゃないかな。あと、ご自身が得意なこととかを伝えると、より話が進みやすいかと思います。
たられば ダイビング雑誌、頑張ってほしいですね。なくなると1つ世界がなくなったのと一緒ですから。未来の読者のためにも、ぜひ応援してあげてください。
医学系出版社でウェブの企画を通すには?
来場者2 私も医学系の出版社で編集をしています。働き始めて1か月半くらいの新人なんですが、会社でウェブの企画をしたいなと思っていまして。でも医学系の出版社って保守的と言いますか、なかなか当社でも難しいなと感じています。『エキスパートナースweb』はどのようなことを意識して企画を通されたんでしょうか。
編集長 専門メディアでウェブを作るのって非常に難しいですよね。弊社はウェブに積極的だったのでやりやすかったところはあります。始めてみて、雑誌が再評価されていると感じているんですよ。ウェブを窓口にしてクライアントからの問い合わせがきたけれど、やはり雑誌に広告を出すことになったり。なので、雑誌とウェブの両方で広告を得る、雑誌をPRするためにウェブイベントを行うなど、いろいろやりたいことの1つにウェブがあります、とプレゼンすると通りやすいかもしれません。
第2のたらればさんをめざすには?
来場者2 たらればさんにお聞きしたいんですが、私もSNSで匿名編集者のアカウントを持っています。実名を出し、自分が企画した本を宣伝している編集者が多いので、匿名のたらればさんは珍しいなと思い、実は第2のたらればさんをめざしているんですけど…。どうモチベーションを保っているかなど、教えていただきたいです。
たられば 本を売るためにフォロワーを増やす、というやり方だとうまくいかない。順序が逆なんです。自分が好きなもの、得意なものをずっとつぶやき続けて、まずはタイムラインの皆さんに信用してもらうことが大事です。「あいつが紹介するんだったら本を買ってみようかな」と思ってもらえるように。今僕が新米編集者だったら、信じてくれる人100人、150人に届けることをめざします。今は何かを好きになることのハードルが上がっていますが、いいものを紹介したいと思っているのは1つの武器ですよ。あと、僕が匿名なのは単なる偶然というか、言うきっかけを失ったという感じです。
定期購読と電子版について知りたい
来場者3 『エキスパートナース』の購入率は、一般書店と定期購読、どちらのほうが多いのでしょうか。
編集長 一般書店のほうが多いですね。でも、定期購読を何十年も続けている方もいらっしゃって。長年『エキスパートナース』のファンでいてくださっている層を大事にしながら、新しいことにも挑戦していきたいと思っています。
参加者4 私は看護師ではないのですが、病院に勤めていまして、雑誌を何冊か定期購読しているんです。今は電子版も増えていますよね。個人的には勉強するにも紙のほうがいい。でも、今後電子版の値段が下がったら、コストを考えると紙を推奨しづらくなります。電子版のほうが安くなっていくのでしょうか。
たられば どの雑誌でも電子版の価格が下がるとは思いますね。
編集長 そうですね…。『エキスパートナース』でも電子版は課題。皆さんのニーズに合わせて対応を考えているところなので、ぜひ参考にさせていただきます。
若い読者を増やす方法は?
来場者5 出版社に勤めています。小中学生向けにタレント雑誌を出していましたが、定価が上げられず休刊に。類誌も売れなくなってきていて、読者が離れていると感じています。若い読者を増やす方法があれば教えていただきたいです。
編集長 そうですよね。私にとっても課題です。若い人は1,200円でも高くて払えないっておっしゃるので。そもそも雑誌を知らない世代になってきています。
たられば よくわかります。雑誌を安いまま出す方法は、それで食べないこと。つまり別の事業をなんとか作って、その余力で雑誌を出す。これしか僕は思いつかなかったです。ここ10年くらい、一生懸命考えた現時点の結論ですね。しんどいけれど、考え続けるしかないから。
編集長 本当にその通りです。そろそろお時間ですね。このイベントをきっかけに、専門誌、ひいては雑誌全体に興味持っていただければうれしいです。これからも業界を盛り上げ、頑張っていきたいと思っております。本日はありがとうございました。
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