溶血・凝血の検査値への影響とは?生化学検査、血液一般検査、凝固検査について解説します。また、採血の際に生じる溶血・凝血の原因も紹介します。

Q. 溶血・凝血は見た目でどの程度だと採血しなおす?

A.
少しでも凝血物や異常な色を確認した場合は、正確な数値を得られず誤診につながるため、採血しなおしになります。

 正確な患者の病態を知るためには、スムーズな採血と検体の取り扱いが重要です。外観では判断できない溶血・凝血でも、検査値に影響を与えます
 検査頻度の多い「生化学検査」「血液一般検査」「凝固検査」を中心に、溶血・凝血の実際とメカニズムについて整理しましょう。

溶血・凝血の影響とは?

①生化学検査

 生化学検査は、疾患の発見、診断などを目的に、血液のさまざまな成分を分析する検査です。血液を完全に凝血させてから遠心分離した上清(血清)が検査対象です。
 健常人の血清は淡黄色です(図1-①)が、赤血球が壊れると赤血球内の成分が流れ出し、赤くなります図1-②)。

 赤血球内にはK(カリウム)、Fe(鉄)、AST(アスパラギン酸トランスフェラーゼ)、LD(乳酸脱水素酵素)が多量に含まれます。そのため、これらが本来の数値より高い値になります。

図1 溶血・凝血が生化学検査に与える影響
溶血・凝血が生化学検査に与える影響

②血液一般検査

 血液一般検査は、赤血球、白血球、血小板の数を数え、貧血や白血病などを調べる際に行う検査です。採血した血液は抗凝固剤(EDTA)により、凝血が阻止されています。採血後に試験管内の抗凝固剤と十分に混和したあとの血液(全血)が検査の対象になります。

 しかしこのとき採血する血管が細かったり、細い針で穿刺したりすると、血小板が活性化し、凝集を起こします図2-①)。さらに進行すると、凝固系が活性化しフィブリンが析出します(図2-②)。
 そのため、凝血物に赤血球、白血球、血小板が取り込まれ、本来の数値より低い値(偽低値)になります。

図2 溶血・凝血が血液一般検査に与える影響
溶血・凝血が血液一般検査に与える影響

③凝固検査

 採血した血液を抗凝固剤(クエン酸ナトリウム)入りの採血管で採取し、十分混和したあとに遠心分離した上清(血漿)が検査の対象になります。
 血清と異なり抗凝固剤により凝血が阻止されているため、凝固検査に必要な凝固因子やフィブリノゲンが含まれています。
 こちらは血清と同じく採血が困難な状況にあると血漿中の凝固系が活性化するため、本来の患者の凝固能が反映されません図3)。

図3 溶血・凝血が凝固検査に与える影響
溶血・凝血が凝固検査に与える影響

採血による溶血・凝血の原因とは?

 検査科において、生化学検査における溶血は、血清の色で判断するため、遠心分離をしないとわかりません。一方、血液一般検査と凝固検査は、採血管のキャップを開け、裏側に凝血物がある場合やスポイト等で凝血物が吸引される場合は凝血と判断できます。しかし外観上で凝血物が目視できなくても、小さな凝血が起きていることがあり、検査が終了しないと判断できない場合もあります。

 溶血・凝血は、ときに誤診や不必要な治療につながる可能性もあります。正しい操作による採血と検体の取り扱いが重要です(表1)。

表1 採血の際に生じる溶血・凝血の原因

皮膚消毒液が乾燥する前に穿刺
溶血(機序):影響あり(水分との接触)
凝血(機序):影響なし

細い血管での穿刺
溶血(機序):影響あり(物理的ダメージ)
凝血(機序):影響あり(血小板の活性化)

細めの針での穿刺
溶血(機序):影響あり(物理的ダメージ)
凝血(機序):影響あり(血小板の活性化)

急激な吸引
溶血(機序):影響あり(物理的ダメージ)
凝血(機序):影響なし(緩慢な吸引では逆に凝固活性化し凝血を起こす)

泡立つような転倒混和
溶血(機序):影響あり(気泡の影響)
凝血(機序):影響なし

転倒混和不足
溶血(機序):影響なし
凝血(機序):影響あり(抗凝固剤の作用不足)

真空採血管内の圧力
溶血(機序):影響あり(圧力の影響)
凝血(機序):影響なし

輸送時の衝撃
溶血(機序):影響あり(物理的ダメージ)
凝血(機序):影響なし

 溶血は患者の赤血球膜の異常や熱傷、心臓人工弁による機械的障害を反映している場合もあるため、注意が必要です。検査室から「溶血のため再採血」という連絡があったときは、採血の実施状況を細かく確認し、患者が病態として溶血を引き起こす原因はないか、主治医との相談が必要です。

1.猪狩淳:― 検体採取から検査まで―.臨床病理 臨時増刊号1996;103:1‐7.
2.藤井喜榮子:採血で、凝血・溶血させないための手技は?.エキスパートナース2011;27(4):56‐57.

※この記事は『エキスパートナース』2014年7月号特集を再構成したものです。当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載および複製等の行為を禁じます。