意識障害に早期に気づくためには、まず意識混濁を見抜くことが重要です。意識障害の症状、メカニズム、鑑別のポイントを、意識混濁を中心にわかりやすく解説します。

 前回の記事では、意識障害は意識混濁と意識変容に分類されると説明しました。
 しかし、意識障害をとらえる際に、意識変容が単独で現れることは少なく、多くの場合、意識混濁が存在しています。つまり、意識障害に早期に気づくためには、まず意識混濁の有無を見抜くことが大切です。
 今回は、意識障害の観察と対応のために重要な、意識混濁を中心に解説します。

意識障害の症状・徴候は?

 意識混濁の症状は、覚醒(清明度)の程度によって「傾眠」「昏迷」「半昏睡」「昏睡」とさまざまです(表1)。また症状が軽度の患者であっても、意識変容などが併存していることが多く、患者は自分の状態を正確に伝えることができない状態にあります。

表1 意識混濁の分類(Mayo Clinicの分類)

傾眠
●刺激を与えないと閉眼して眠ってしまう状態
●呼びかけや身体を揺すると容易に覚醒し、指示に従うことができる

混迷
●強い刺激を与えるとかろうじて開眼し、指示にある程度反応できる
●十分には覚醒させることができない状態

半昏睡
●強い刺激を与えると、回避しようとしたり、顔をしかめるなど、ある程度合目的な反応を示す状態
●指示に応えることはできない

昏睡
●強い刺激(痛覚刺激)を与えても、除脳硬直の姿勢をとるなどの反射的な動き以外、反応がみられない状態
●自動的な動きは消失

 さらに、意識障害の症状に加えて呼吸・循環・代謝などにも障害をきたしている場合も多く、その原因は中枢神経系にとどまらず多彩です(前回の記事・表1参照)。
 意識混濁の原因の鑑別は難しく、私たち看護師には“観察する力”と“観察したことを的確に伝える力”が求められます。

意識障害の事例

●60 代男性、既往に心房細動あり
●訪室すると倒れていた
●大声で呼びかけると開眼するが、「ウ~」という発語があるのみ。痛み刺激を与えると右手で払いのける動作あり
●脈拍数:60回/分(リズム整)、血圧:180/100mmHg、呼吸数:20回/分(リズム整)
●左片麻痺がみられた

事例が起こったのはなぜ?

■「中大脳動脈の閉塞」による“上行性網様体賦活系の障害”からくる意識混濁

「中大脳動脈の閉塞」による“上行性網様体賦活系の障害”からくる意識混濁の画像

①意識混濁の有無:意識混濁あり
②A(気道)、B(呼吸)、C(循環)の評価:現在のところ生命危機に直結するABCの異常なし
③意識レベル:JCSⅡ-20」、GCSE3・V2・M5
④AIUEOTIPS:血圧上昇片麻痺が観察されることから、脳卒中などの頭蓋内疾患による意識混濁が疑われる
●MRI拡散強調画像から、右中大脳動脈の閉塞により脳幹が脳浮腫に圧迫され、上行性網様体賦活系(覚醒機能の維持)が障害されたと考えられる
●ただし、意識障害(意識混濁)は「脳」以外にもさまざまな要因で生じる。「意識障害」=「脳」と短絡的に捉えないよう気をつけたい

意識障害のメカニズムとは?

 身体の覚醒機能のメカニズムについて、図1に示します。身体の各部からの感覚の刺激は神経線維の活動電位(インパルス)となって脳幹を上行し、大脳皮質へ伝えられます。

 このとき大脳皮質へ向かう体性感覚インパルスの一部は、視床と脳幹(中脳・橋・延髄)にかけて存在する上行性網様体賦活系に伝えられます(図1-①)。上行性網様体賦活系は体性感覚インパルスによって興奮し、視床を経由して、大脳皮質や大脳辺縁系に刺激を送ることで覚醒を維持しています。つまり、覚醒機能は上行性網様体賦活系によって維持されており、上行性網様体賦活系が存在する脳幹が障害を受けることで、意識混濁(覚醒機能の障害)を生じます。

 また、大脳皮質(図1-②)は体性感覚インパルスが投射されることで認知機能を形成する役割を担い、視床下部には睡眠・覚醒の基本リズムをつくる視床下部賦活系(図1-③)が存在しています。このように、上行性網様体賦活系と視床下部賦活系と大脳皮質が正常に機能することで意識を清明に保つことができ、これらの一部または複数の障害によって意識障害が生じます。

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