緩和ケアのはじまりは…医療の歴史を知るとさらに深まる面白さ
かげさん 久しぶりに読んでまず驚いたのは、ブラック・ジャックってこんなにも人間臭くて、熱い人だったんだということです。もっとクールで無口なイメージがあったんですけど、意外と少年漫画のような無邪気さもあって怒ったり悲しんだり、感情豊かなんだなぁって。
実際は青年漫画で、手塚先生は医師免許を持っていますが、あり得ないような面白い治療や手術場面があるのは、少年漫画としても読めるようにあえて変換しているのかなと感じました。
あと、『ブラック・ジャック展』に行って気づいたことなんですけど…、原画を見たら、背景の建物は下書きの線が多く入っていたり、ギャグシーンは細かく表情を書き直していたり、修正した跡がたくさんあったんです。
だけど、手術シーンの臓器のイラストなどはほとんど下書きや修正の跡がなく、迷いがないと感じたんですよね。本当に細かなところまで勉強していた人なんだなって、あらためて胸がいっぱいになりました。
白石 イラストを描かれるかげさんらしい視点ですね。
大森ちゃん 私はあらためて、好きなキャラクターはドクター・キリコなのかなと思いました。ブラック・ジャック先生も好きなんですけど、ちょっとスーパーマンすぎるところがあって…。ドクター・キリコは泥臭さみたいなものがベターッとある感じがして、そこが好きです。
ドクター・キリコは安楽死を施す医者ですが、連載当時、緩和ケアや終末期ケアは今ほど注目されていなかったはず。そう思いちょっと調べてみたら、連載が始まった1973年は、日本のホスピス緩和ケアのはじまりだろうといわれているみたいで。1人で心の中で「おおお!」と興奮してしまいました。
白石 すごいですね! 時代背景も知りつつ読むとなお面白そうです。
大森ちゃん 同時期に読み返していた2010年以降の作品『フラジャイル』では、子どもへのがん告知について取り上げられていて、2作品から医療の歴史を感じられました。当時の手塚先生が終末期ケア、緩和ケアのことを詳しく知っていたら、もしかしたらドクター・キリコはまた違う感じのキャラクターだったのかな…と、そんなことを妄想してしまいます。
印象に残っているのは、『のろわれた手術』。ブラック・ジャック先生がミイラの手術が終わった後に、「どうだい、手術がすんで帰れるんだぜ」「サッパリした顔をしてるなおい」と語りかけるんですね。亡くなってからもその人の命を大事にする、魂を大事にするところがすごく好きで、お気に入りのシーンです。
白石 たしかに、死者や動物、自然や環境問題など、スケールが大きい話もあってすごいなと思います。私は、子どもの頃は「外科医の技術を使って悪者をやっつけるかっこいいブラック・ジャック」という印象が強く、高校生くらいになるとピノコのかわいらしさに憧れ、専門学生や看護師になってからは「医学とは、医師とはどうあるべきか」というところに注目するようになりました。
『ときには真珠のように』でブラック・ジャックの恩師である本間先生が亡くなるときの、 「人間が生きものの生き死にを自由にするなんておこがましいとは思わんかね………」というセリフや、『ふたりの黒い医者』での、ドクター・キリコと安楽死の話は特に好きです。自分も似たような葛藤を経験して、だんだんブラック・ジャックやドクター・キリコが見ている景色を見られるようになってきたのかなと嬉しくもあります。
それから、最近は恋愛要素が気になるようになってきて。ブラック・ジャックにとって一番大切な女性って誰だったんだろうと、野暮なことを考えたりしています(笑)
かげさん
あり得ないような面白い治療や手術場面があり、少年漫画としても楽しい!
大森ちゃん
ミイラを治療する『のろわれた手術』が印象的。亡くなってからもその人の命を大事するところがすごく好きです
白石
看護師になってからは「医学とは、医師とはどうあるべきか」に注目。最近は恋愛要素も気になっています(笑)