日本独自の高血圧治療ガイドライン

 日本高血圧学会では、2000年にはじめて日本人向けの高血圧治療に関する治療指針として、『高血圧治療ガイドライン2000年版』を作成しました。

 『高血圧治療ガイドライン』は、日本を含めた世界の臨床エビデンスと日本人の特性をミックスさせて作成している日本独自の高血圧治療ガイドラインであり、4~5年ごとに最新のエビデンスを加えて改訂されています。

 2019年4月に5年ぶりに改訂されたものが『高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)』1 です。この5年の間に、SPRINT試験(Systolic Blood Pressure Intervention Trial)2などの大規模臨床試験が公表され、世界の高血圧ガイドラインに影響を与えました。

 JSH2019では、JSH2014で積み残された課題や実臨床における17課題(clinical question:CQ)について、システマティックレビューを行い、多くのエビデンスを網羅的に検索して現時点での推奨を作成しました。
 また、日本人の疫学データも重要視した結果、血圧の分類やリスク層別化、治療の流れ、降圧目標などにいくつか変更がありました。 本稿では、それらについてまとめます。

おさえておきたいこと

高血圧の定義
●高血圧は、脳心血管病死亡の最大のリスク因子
●JSH2019では、血圧「140/90mmHg以上」を高血圧、「120/80mmHg未満」を正常血圧として定義
●140/90mmHg未満を正常高値血圧と高値血圧に分類

血圧の適切な管理により、 脳心血管病死亡は半分以下になる

 図11に血圧値と脳心血管病死亡の関係を示します。

図1 血圧レベル別の脳心血管病脂肪ハザード比と集団寄与危険割合(PAF)

 120/80mmHg未満の血圧を基準とすると、それ以上の血圧では右肩上がりに死亡率が高まります。特に65歳未満の中壮年者では、血圧の脳心血管病死亡に対する寄与度が高く、140/90mmHgを超えるとそのリスクは3倍にも達します。

 さらに、血圧が高いⅢ度高血圧(定義は表1 1参照)では死亡リスクが9倍近くにもなります。

表1 成人における血圧値の分類

 一方で、すべての人が120/80mmHg未満であった場合に脳心血管病が予防できたと考えられる集団寄与危険割合(PAF)は約60%であり、血圧が適切に管理されていれば、脳心血管病死亡が半分以下になることになります。

 ただし高齢者では、血圧以外の加齢に伴うリスクが増えますので、血圧の寄与度は中壮年ほどはありません。よって、血圧の管理は、年齢により異なることになります。

1.日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編:高血圧治療ガイドライン2019.ライフサイエンス出版,東京,2019.
2.SPRINT Research Group:A Randomized Trial of Intensive versus Standard Blood-Pressure Control.N Engl J Med 2015;373(22):2103-2116.

『高血圧治療ガイドライン』に基づく、現在の高血圧の定義と降圧目標②

この記事は『エキスパートナース』2020年5月号の記事を再構成したものです。
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