降圧薬治療による予後の改善を基準に、 血圧の基準を分類
『高血圧治療ガイドライン』に基づく、現在の高血圧の定義と降圧目標①・図1より、血圧が高いほど脳心血管病死亡が増えることがわかりました1。では、高血圧の基準はどうしたらよいでしょうか。
高血圧の基準は、疫学的なデータや降圧薬治療効果などにより決められてきました。米国では2017年のガイドライン2で診察室血圧130/80mmHg以上を高血圧と規定しましたが、ヨーロッパ3では140/90mmHg以上とされており、世界で統一されていない状況となっています。
今回JSH2019では、リスクのない人が降圧薬治療により予後が改善される血圧値を高血圧の基準として考え、140/90mmHg以上を高血圧として定義しました(『高血圧治療ガイドライン』に基づく、現在の高血圧の定義と降圧目標①・表1)。 Ⅰ度高血圧からⅢ度高血圧に分けてリスク管理することも、JSH2014と同じで変更ありません。
140/90mmHg未満の血圧分類の変更について
一方、140/90mmHg未満の血圧分類が変更になりました。
『高血圧治療ガイドライン』に基づく、現在の高血圧の定義と降圧目標①・図1で示したように日本人を対象としたコホート研究で、120/80mmHg未満と比較して、それ以上の血圧では明らかに脳心血管死亡が多いため、「正常血圧」を120/80mmHg未満としました。
また、さまざまな合併症を有する患者さんの降圧目標が130/80mmHg未満であるとともに、米国での高血圧基準が130/80mmHg以上であることを鑑み、130/80mmHg未満の血圧を「正常高値血圧」としました。
さらに、正常高値血圧と高血圧の間の130~139/80~89mmHgを「高値血圧」として分類し、高血圧に準じて注意すべき血圧と考えられます。
なお、家庭血圧値の分類も『高血圧治療ガイドライン』に基づく、現在の高血圧の定義と降圧目標①・表1に記載しています。
JSH2014までは診察室血圧-5mmHgを家庭血圧値分類に用いましたが、今回、高血圧領域の血圧では、家庭血圧のほうが診療室血圧より低くてもリスクが高いことを反映し変更されているため、注意してください。
降圧目標
●75歳未満の成人における降圧目標は、基本的に「130/80mmHg未満」
●フレイルのある高齢者や終末期の高齢患者では個別の判断が必要
下痢や脱水時の過度な血圧低下時などは、 降圧薬の中止も検討する
表14に各病態における降圧目標を示します。
多くの方の降圧目標が130/80mmHg未満となりました。脳血管障害患者や冠動脈疾患患者では、降圧目標が厳格化され、米国や欧州と同等の目標です5。
降圧薬を用いた治療をする場合は降圧目標を達成することも大切ですが、副作用や忍容性に注意することが大切です。風邪をひいたり、下痢で脱水などを生ずると過度な血圧低下を引き起こす危険性があり、一時降圧薬の内服を中止することも考慮します。
また、歩行困難なフレイル高齢者や要介護状態にある高齢者の降圧目標は個別に判断すること、エンドオブライフにある高齢者では予後改善を目的とした降圧薬治療の適応はないため、中止も積極的に検討することが提案されています。
JSH2019は、高血圧の疫学から高血圧基準、降圧目標、降圧薬の特徴に加えて、さまざまな病態における血圧管理に関する情報が網羅されています。
CQに対する推奨もエビデンスとともに示されており大変わかりやすいものとなりました。看護師の皆様にもぜひ、一度手にとってご覧いただきたいと思います。
高血圧患者さんは本邦に4,300万人存在するといわれています。高血圧を深く知ることにより、成人の半分を占める高血圧患者さんに対して自信をもって対応できるでしょう。どうぞよろしくお願いいたします。
- 1.Fujiyoshi A,Ohkubo T,Miura K,et al.:Blood pressure categories and long-term risk of cardiovascular disease according to age group in Japanese men and women.
Hypertens Res 2012;35(9):947-953.
2.Whelton PK,Carey RM,Aronow WS,et al.:2017 ACC/AHA/AAPA/ABC/ACPM/AGS/APhA/ASH/ASPC/NMA/PCNA Guideline for the Prevention,Detection, Evaluation, and Management of High Blood Pressure in Adults:Executive Summary:A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Clinical Practice Guidelines.Hypertension 2018;71(6):1269-1324.
3.Williams B,Mancia G,Spiering W,et al.:2018 ESC/ESH Guidelines for the management of arterial hypertension.Eur Heart J 2018;39(33):3021-3104.
4.日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編:高血圧治療ガイドライ2019.ライフサイエンス出版,東京,2019.
5.Hirawa N,Umemura S,Ito S:Viewpoint on Guidelines for Treatment of Hypertension in Japan.Circ Res 2019;124(7):981-983.
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この記事は『エキスパートナース』2020年5月号の記事を再構成したものです。
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