それぞれの職種が解決に向けてできること

みややん(言語聴覚士) 誤嚥性肺炎を繰り返さないために、STとしては食事形態やとろみのつけ方、食事姿勢などを検討する必要がありますね。そう考えると、退院してからも注意してもらいたいことはたくさんあります。
 しかし、施設に対してあまり多くの注意点を伝えても、「対応しきれない」と門前払いをされてしまうこともあります。そのため「これくらいなら守れそう」と思ってもらえるように、相手の立場に立った申し送りが必要だと思います。
 例えば、STからは「使用するスプーンは小さいものにしてほしい」「水分には必ずとろみをつけるようにする」「食事中は食事に集中できるように、話しかけるのではなく見守るようにする」と伝えるなどでしょうか。
 また、施設側のスタッフとして介護士さんや助手さんが対応することもあるため、他職種に通じにくい専門用語などは使わないように気をつけるとよいです。常日ごろから、自分たちが使っている言葉が一般的に伝わる言葉かどうかを考えながら、こちらの考えがなるべくストレートに伝わるよう、工夫できるとよいと思います。

たみお(理学療法士) この患者さんは、まだ入院前の歩行能力まで改善しておらず認知機能も低下しているため、このままの状態で施設に帰るとなると、転倒リスクが高いと考えざるをえません。
 PTとしては、退院前に施設と相談して、転倒しにくいような環境設定を提案することが多いです。例えば、次のよなうものです。
●「歩行器を使いましょう」などのわかりやすい張り紙を目に入りやすいところに設置する
●トイレまでの道順を床にテープで示す

 それでもリスクが高そうな場合は、伝い歩きができるように家具の配置を調整するなどの工夫も提案します。個別に状態を把握してから提案することを考えるので、このような事例で退院支援に困っている場合は、気軽にPTに相談してほしいです。
 また、入院中から環境設定を施設に近づけておくと、患者さんが施設に戻ってからも新しい環境になじみやすいと思います。退院を見越して先手を打っておくことも重要ですね。
 ……とはいっても、施設ごとに居室の形状やマンパワーが違います。情報をケアマネジャーや施設職員などから幅広くリサーチして、実現可能な対策を考えることもPTの腕の見せどころです。

かなこ(看護師) このあとすぐに退院というわけではないと思うので、退院可能な時期の目安を医師とともに確認したうえで、他職種と相談する必要があると思います。
 例えば、医師や薬剤師さんとは「内服は1日1回だけで大丈夫か」「1回だけなら自己管理が可能か」などを確認します。トイレの自立に関しては、PTさんとADLの状況を確認しましょう。ほかにも「病棟内で認知機能が低下していても、トイレとハッキリ書いてあれば行くことが可能なのか」など、施設での生活に合わせるようなかたちで、どこまでできそうかをそれぞれに確認します。
 実際の様子についてはケアマネジャーさんや施設ともやりとりをし、その状況をふまえて施設で受け入れるために何ができるか、患者さんにとってどうするのがよいのか、本人も含めてすり合わせていけるとよいのではないかなと思います。

ぽりまー(薬剤師) 服薬管理でいうと、誤嚥性肺炎の治療中はほぼ看護師さん主体で行っていたかと思いますが、回復後は退院を見据えた管理方法にシフトしていく必要があります。ただ、急に切り替えるのは難しいですよね。
 まずは、受動的な服薬から主体的な服薬に向けて、前向きになれるよう習慣づけの練習ができるとよいのではないでしょうか。病院から施設に移る際、意外とハードルになるのが、調剤方法の違いです。
 今回の患者さんは、もしかしたら入院前はPTPシートから服薬できていたかもしれませんが、入院中はほとんどの場合、一包化されていますし、認知機能を考慮すると退院後も一包化を継続するほうが現実的です。なので、施設や、施設の担当薬局に一包化の際の調剤ルール(日付の有無、服用時間に応じた色分けなど)を確認すると、実践的な服薬管理の練習ができると思います。
 もちろん、看護師さんだけで抱え込まず、調剤ルールについてはぜひ薬剤師に相談してみてください!病院にはたくさん薬剤師がいるので、こういう相談に喜んで乗ってくれる薬剤師がきっといるはずです。

おぬ(看護師) やっぱり、施設との情報共有が大切かなと思います。そのためにはMSWと連携し、現在の患者さんの状態を伝えます。そして、どこまでなら施設側で対応可能か、担当のケアマネジャーさんと再検討し、そのうえで、現在の施設で対応が難しいのであれば、別の施設を探す選択肢もあると思います。
 日々、患者さんと接している看護師だからこそ、患者さんの情報をいっぱいもっているので、どんどん情報共有していったほうがよいですね。このまま元の施設に戻るとしても、日常生活の援助や服薬管理に関しては訪問看護を導入し、服薬状況を確認できる体制が必要です。
 また、10歳年下の妹が県外にいるとのことですが、身内がこの方しかいない場合は、施設の決定や今後についてどれぐらいかかわってくれるかもポイントになるかと思います。いろいろな社会資源を活用すれば、患者さんがよりよい生活を送れると思うので、そのためにも情報共有と連携が必要ですね。

 それぞれの病院の事情があるように、施設にもさまざまな事情があることが伺えます。それをふまえて、お互いにベストではなくともベターなところはどこなのか、患者さんや家族を含めて話ができるといいですね。

この事例のまとめ

●施設によって事情が違うので、退院にかかわるスタッフみんながもっている情報を集めたうえで、患者さんにとって何が最良なのかを考える。
●他施設との連携では難しい専門用語は使わず、お互いが理解できる言葉を選ぶ。
●安全に、かつ相手方の施設が続けていける方法を伝えていく。
●1人の患者さんに使える時間が限られているのも現実。「何を提案するか」も大事だが、「どう伝えるか」も重要。

多職種連携のリアル【第14回】看護師からPT・OT・STへ質問①

この記事は『エキスパートナース』2021年1月号連載を再構成したものです。
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以上の解決方法・対処例は、ケースをもとにメディッコメンバーが話し合った一例です。実際の現場では、主治医の指示のもと、それぞれの職種とこまめに連携をとり、進めていってください。