排泄ケアは、看護の基本としてさまざまな場面で実践されています。快適な排尿または排便となるためには、排泄障害やそれに伴う弊害を最小限にすることが求められます。

 実践している事柄のなかには慣習的に行われているものもあります。今回、「なぜ」そのようにしているのか、本当に「どうする」のかについて考える機会をもつことにしました。

 この特集では、排尿・排便のメカニズムを踏まえて、臨床看護師が気になるような事柄を挙げて解説しました。臨床実践に役立つようにまとめましたので、日々の実践に活用いただければと思います。(編者)

【第2回】抗がん薬で便秘・下痢が起こりやすいのはなぜ?
【第3回】オピオイド誘発性便秘(OIC)への対策はどうする?
【第12回】尿意に合わせたトイレ誘導の方法とは?排尿自立の進め方は?①
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【第1回】腹部の手術前に浣腸が必要なのはなぜ?

POINT

●腹部の手術では、術野や手術室の汚染防止、縫合不全や手術部位感染などの合併症を防ぐために浣腸を実施する。
●場合によっては実施しないこともあるため、対象に応じて確認しよう。

手術野の汚染の防止、合併症予防のために浣腸を行う

 腹部、特に大腸の手術を行う際には、手術時の操作に伴う感染を予防するために、前処置が行われます。全身麻酔下での手術では、筋弛緩薬の使用によって肛門括約筋も弛緩するため、直腸内に貯留している便が排出してしまいます。

 そのため、不意な排泄によって術野や手術室を汚染しないよう、腸管内を空虚にします。具体的な手段として、低残渣食摂取による腸管内容の減量緩下剤の服用や浣腸による腸管内容の排除が挙げられます。

 また、縫合不全手術部位感染(SSI)などの合併症を予防するためにも、腸管内を清浄する腸管洗浄(mechanical preparation)を実施します。

 直腸に機械的な刺激を加えることで便の排泄を促す浣腸は、前処置として一般的に行われるものですが、浣腸の手技による腸穿孔、グリセリン液による溶血などの報告もあり、慎重に行うべき看護技術でもあります 1

 整形外科、心臓血管外科、呼吸器外科、乳腺外科などでは、浣腸を施行した場合と術後の合併症について有意差がないとの報告もあり、浣腸を行わないケースが増えてきました。

 腹部の手術においても低残渣食の摂取のみで浣腸などは省略する場合があります。 腸管前処置によって生じる頻回の下痢により、術前に体力を消耗してしまう可能性もあります。患者さんに応じた前処置(表12の必要性を考慮し、患者さんの理解を得ることが大切です。

表1 腹部手術の術式による腸管前処置の適応
(文献2より引用)