『高血圧治療ガイドライン2019』における、降圧管理目標を確認。過度の降圧による危険性についても説明します。

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降圧管理目標のエビデンスについてのイラスト

高血圧患者の人数は?

 厚生労働省による最新(平成29年)の患者調査1の結果では、高血圧性疾患をもつ患者さんは993万7,000人で、主な傷病の中で最も多い患者数です。

 また、国が循環器疾患基礎調査対象者に長期追跡研究を行う「NIPPON DATA(National Integrated Project for Prospective Observation of Non-communicable Disease And its Trends in the Aged)80」では、 高血圧をもつ人の平均余命は、正常血圧の人より短いことが報告されています2

『高血圧治療ガイドライン2019』における降圧目標は?

 日本高血圧学会の『高血圧治療ガイドライン2019』3では、正常血圧は「収縮期120~129mmHg」「拡張期血圧は80mmHg未満」とされています。

後期高齢者では重要臓器の血流障害を考え、慎重な降圧を

 高血圧患者の降圧目標は表13に示す通りです。

表1 降圧目標(日本高血圧学会;2019)

診察室血圧:<130/80mmHg
家庭血圧:<125/75mmHg
●75歳未満の成人
●脳血管障害患者(両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞なし)
●冠動脈疾患患者
●CKD患者(蛋白尿陽性)
糖尿病患者
●抗血栓薬服用中

診察室血圧:<140/90
家庭血圧:<135/85
●75歳以上の高齢者
●脳血管障害患者(両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞あり、または未評価)
●CKD患者(蛋白尿陰性)

(文献3より引用)

 なかでも心血管病のリスクが高い糖尿病患者、蛋白尿陽性の慢性腎臓病患者はより厳しい130/80mmHg未満の設定になっています。  
 反対に後期高齢者では、重要臓器の血流障害をもたらす可能性があるので、症状や検査所見の変化に注意して慎重に降圧治療を進め、140/90mmHg未満を降圧目標とし、忍容性があれば130/80mmHg未満を目標としています。

過度の降圧ではかえって死亡率が増加する傾向に

 一方、降圧目標の下限については、過度の降圧により脳卒中、心筋梗塞、腎機能低下など、死亡率が増加する傾向が示されている病態があることが明らかになっています3

 例えば韓国で定期健診を受けた約123万人を対象に、収縮期血圧の値と虚血性心疾患や脳卒中などのアテローム性の血管病変による死亡との関係を検討した研究4では、収縮期血圧が100mmHgを超えると死亡は増加しました。ところが「収縮期血圧90~99mmHg」のグループと「収縮期血圧90mmHg未満」のグループを比べると、90mmHg未満群のほうが死亡のリスクが有意に高いという結果になり、“Jカーブ”という現象として報告されています。

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