あらためておさえたい!「軽度認知機能障害(MCI)」の概要と分類
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おさえておきたいこと

MCIの診断と予防・治療・ケア
●予防・治療法ともに確立されていない
●看護師は、 患者背景や教育歴も知るようにしたい
●患者の様子が急に変化して認知機能が低下するような場合は、 治療可能なことがある

診断:画像診断や認知機能検査により診断される

 MCIは、あくまでも患者さんやご家族の訴えと、他覚的な検査から確認されるものです。通常は、頭部MRI、認知機能検査(MMSE、HDS-R等)などを用いて診断されます。医療機関の規模や、認知症に力を入れている施設であるかなどによって、検査の内容や規模も異なると考えられます。

 看護として重要な点は、MCIと診断されていても、ある程度経過を見ていかないとわからないことも多くあることです。患者さんの状態、家庭環境などの背景をよく知っていただく努力が必要です。

 患者さんの教育歴なども重要な情報です。筆者が診療していた方は、非常に高い教育歴をおもちでした。臨床的には健忘型MCIでしたが、通常行う認知機能検査はいつも満点で、簡便な検査では異常を見いだせなかったこともあります。

予防:高血圧、 糖尿病、 喫煙習慣への介入が重要

 治療ともかかわりますが、MCIの予防方法は確立されていません。

 MCIを生じている脳の変化が進行性疾患であれば、いずれは認知症になることから、認知症の予防方法はMCIの予防方法に通じるかもしれません。
 認知症の危険因子と予防因子として考えられているもの(下記参照)のなかで、可能なことを日常生活で注意していくことが重要だと思います。
 特に、修正可能な危険因子である、血圧糖尿病、喫煙習慣などは、ほかの疾患のリスクでもあり十分な介入を要するものと考えます。

<認知症の危険因子と予防因子(確立していないものも多い)>

危険因子と考えられているもの
●遺伝子異常
●ApoE4
●加齢
●高血圧
●糖尿病、過食(高カロリー)
脳卒中、動脈硬化
●喫煙
●ビタミン不足(B6、B12、C、D、E)
●アルミニウム
●慢性腎臓病
*高血圧、糖尿病、喫煙習慣などには介入したい

予防因子として可能性があるもの
●長い教育歴
●魚、牛乳
●緑黄色野菜
●運動
●地中海料理
●ビタミンB
●ワイン
●コーヒー

治療・ケア:治療可能なMCIもあるため、 看護師の観察が重要

1)患者が説明を理解しているかを確認する

 予防と同様に、MCI全般の効果的な治療方法は確立されていません。しかし、アルツハイマー病による軽度認知障害の進行抑制として抗アミロイドβ抗体が使えるようになりました。アルツハイマー病の根本治療薬や運動の効果などは明らかになっていません。

 看護師がかかわるMCIの患者さんは、“MCIだけがあって受診されている方”と、“ほかの疾患を併発するなかで、MCIもある方”とに分かれると思います。

 前者は、検査入院を除けば、外来が主体です。多くの患者さんは自分の認知機能低下の状況に納得できていませんし、社会的な背景もさまざまな方がおられます。患者さんの背景をよく知って、対応方法を変化させることが重要です。

 後者の場合は、例えばがん治療などで入院されている患者さんがMCIということもあります。MCIということに、入院して気づかれることも多いと思います。

 がん治療の目的で入院されている場合は、その治療に対する説明が理解できているのかどうかを看護サイドでも確認していく必要があります(アルツハイマー病でかなり認知症が進行していても、通常の会話は成り立つので、ご理解いただいているように見えることは、よく経験されると思います)。

 また、背景にある脳の変化によっては、術後にせん妄を生じやすいということもあり得ます。病院によっては、「認知症ケア加算」によって、認知症サポートチームといった体制をつくっているところもあると思いますので、ぜひ活用すべきでしょう。

2)睡眠薬、慢性硬膜下血腫、貧血、小さい脳梗塞、てんかんなどに注意

 アルツハイマー病などの進行性の疾患以外に、MCIという状態は治療可能な状況から生じることもあります。医師の診断がなされたMCIは、治療可能な病態は除外されていると思います。

<治療可能な認知症(認知症の症状を認めるが、実際は治療可能な病態があって症状を改善しうるもの)>

病態別
●うつ病
●せん妄
●慢性硬膜下血腫
●ビタミン欠乏
(B₁、B₁₂、ニコチン酸)
●甲状腺疾患
低血糖
●慢性アルコール中毒
心不全などの慢性疾患
●肺機能障害
●低酸素血症
●肝不全、腎不全
●貧血
●悪性腫瘍
●大腿骨頸部骨折
●感染症

認知機能を低下させる可能性のある薬
●降圧薬
●胃薬(H₂ブロッカー)
●抗精神病薬
●睡眠導入薬
●抗不安薬
●抗不整脈薬
●排尿障害薬
●コリンエステラーゼ阻害薬

 しかし、患者さんの様子が急に変わって認知機能が低下するような場合は、上記の病態が出ていないかを考えておくことは重要です。

 そういった変化に気づいたら、ぜひ主治医へ教えてあげてください(主治医は気づいていないことが多いです)。あるいは、ご家族から言われることもあります。心配ないなどと思わずに、よく状態を観察してください。

 新たに投与が開始された睡眠薬、手術にならないほどの慢性硬膜下血腫、貧血、小さい脳梗塞など、めずらしくありません。薬のせいであればそれを中止すればよいですし、経過を見ていれば改善することもあります。

 また、高齢者のてんかんなども認知症と間違えられますが、症状の変動などに注意をすれば診断可能で、治療もできるのです。

 MCIの方は当然ながら高齢者が多いのですが、医療スタッフが患者さんに対して、なぜか子どもに接するかのような対応をする光景をよく目にします。こういった態度に対して、不満をもたれる患者さんも多くいらっしゃいます。
 自らも品格を保ち、身なりを正し、患者さんの人生に敬意を払い、丁寧な対応が必要です。裏付けのない経験などではなく、正しい知識を患者さん、家族に提供することをめざすことが重要です。

この記事は『エキスパートナース』2021年6月号の記事を再構成したものです。
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