あらためておさえたい!「軽度認知機能障害(MCI)」の診断と予防・治療・ケア
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おさえておきたいこと

MCIの概要
●アルツハイマー病、レビー小体型認知症、 脳血管疾患などによって、 認知機能が低下する
●MCIは、 正常ではないけれど認知症でもなく、 いずれは認知症に移行するかもしれない前段階の状態

MCIの段階では、 認知症になるかどうかはまだわからない

1)認知症では、どのような疾患が認知機能低下を引き起こしているかが重要

 軽度認知機能障害(MCI)を定義する前に、「認知症」という用語をあらためて確認します。

 認知症は1つの疾患を表す用語ではなく、個々の患者さんの状態です。具体的には、注意、記憶、実行機能、言語、視空間認知などの機能が以前と比べて明らかに低下し、それも、いくつかの機能低下が組み合わさり日常生活が困難になることです。

 この症状は、せん妄・うつ病などで生じているものではない、といった条件も必要です。

 こういった認知症という状態になる理由は、何らかの変化が脳に起こっているためですが、その変化としてよく知られているのが、アルツハイマー病(AD)レビー小体型認知症脳血管疾患といった病気です。
 そのため、認知症と診断するだけでは、何も診断していないのと同じことで、どういった疾患によって症状が出ているのかを考えておくことが重要です。

2)MCIの進行が予測できれば、早期介入に役立つ可能性がある

 認知症に至る前は誰でも正常なわけですが、正常から突然認知症になるのではなく、徐々に進行していくことは容易に想像できます。そこで、正常ではないけれど認知症でもなく、いずれは認知症に移行するかもしれない前段階の状態として、「MCI」が導入されました。

 もともとは、アルツハイマー病への前段階を前提に考えられていたので、「物忘れ」を主体にした用語でした。しかし、物忘れで始まらないアルツハイマー病もありますし、認知症をきたす疾患はアルツハイマー病だけではありません。たくさんの病気が認知症をきたします。

 現在はほかの認知症をきたす疾患も含めて、MCIについては下記1,2のように考えるのがよいと思います。

<軽度認知機能障害(MCI)が疑われる症状>

  • 患者さん自身から認知機能低下の訴えがある(例:「最近なんか物忘れがあるんですよね」)
  • 家族・医療者などから、他覚的な認知機能低下があると認識されている(例:「夫の物忘れが目立つようになってきました」)。認知機能が同年齢と比べて低下している
  • 神経心理学的検査などによって認知機能低下が確認できる(例:HDS-R25点など)
  • 認知症の定義を満たさない(例:物忘れはあるけれど、ほかはまったく問題なく自立できている。金銭の管理、薬の管理などが可能)
  • せん妄や精神疾患(うつ病、統合失調症など)ではない

(文献1,2を参考に作成)

 したがって、MCIも認知症と同様に患者さんの状態を表す用語ですが、MCI全例が認知症になるわけではありません。軽度という用語から、「軽い認知症」というイメージをおもちかもしれませんが、まだ認知症になるかどうかがわからない状態なのです。

 どういったMCIなら将来アルツハイマー病になる、あるいは、ならないといったことが予測できれば、認知症の治療に対する早期の介入ができるようになると考えられます。

MCIから、 正常に戻る患者もいる

 MCIの有病率は12~18%ぐらいとされ、年齢とともに増加します。日本では400万人ぐらいMCIの人がいますが、高齢化によりますます増加すると考えられます。

 繰り返しになりますが、MCIは必ず認知症へ進行するわけではありません。アルツハイマー病の初期病変が脳内に出現してMCIになったのであれば、いずれは進行してアルツハイマー病となる可能性は高いでしょう。しかし、別の脳病変がMCIの原因であれば、あまり進行せずに、数年間変わらないということもあり得ます。

 後述しますが、MCIの原因が治療可能な病態・疾患によるものであれば、その原因を解除すればMCIが改善することもあります

 MCIから認知症へ移行する患者さんは、1年あたり5~16%、MCIから正常に戻る患者さんは1年あたり15~40%ぐらいとされています。重要な点は、正常に戻る方もいるということです。

 筆者の外来でも、MCIの段階から10年以上拝見している方が多数おられますが、なかには高度のアルツハイマー病になられた方、わずかに進行しただけで自立した生活が継続している方、正常に戻られ10年間まったく変化のない方など、さまざまです。

物忘れの有無と、 記憶障害かその他の高次機能障害かで4つに分類される

 MCIは、物忘れを主訴とする 健忘型(amnestic MCI)非健忘型(non-amnestic MCI)に大きく分かれます(図11,2
 さらに、健忘型であれば、記憶だけが障害されているのか、記憶以外の高次機能に障害があるのかによって、分かれます。非健忘型でも同様です。よって、4つに分類できることになります。

図1 軽度認知機能障害の分類のフローチャート
(文献1,2を参考に作成)

 それぞれの背景にある“疾患”として、図1に示したようなものが考えられていますが、絶対というわけではありません。どの疾患もそれぞれにMCIの状態を生じる可能性があります。詳細には触れませんが、1人の脳の中に、いくつかの病気が同時に出現していることもまれではありません

 例えば、アルツハイマー病と脳梗塞といったことです。なぜか、頭の病気というと1人1疾患のように思い込みがちですが、高血圧、脂質異常症、糖尿病を同時にもっている人がめずらしくないことを考えれば、納得いただけると思います。

1.Petersen RC:Mild Cognitive Impairment.Continuum(Minneap Minn)2016;22(2 Dementia):404-418.
2.高尾昌樹:軽度認知機能障害の神経病理.神経内科 2013;78(6):703-715.

この記事は『エキスパートナース』2021年6月号の記事を再構成したものです。
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