がん治療を行いながら就労している人が増加していることにより、アピアランスケアのニーズは増加しています。しかし、患者さんに質問されても、意外と答えに困ることも。
 そこで、アピアランスケアで看護師が患者さんに尋ねられることについて、どのように答えればよいか解説します!

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社会生活におけるアピアランスケアの重要性

 近年のがん治療はめざましく進歩し、薬物療法においてもさまざまなメカニズムの薬剤が投与されるようになってきました。以前なら、抗がん剤投与に伴う外見の変化といえば、脱毛と色素沈着が主なものでした。しかし、分子標的薬の登場で、有害事象により皮膚障害に悩まされる患者さんも多くなってきました。

 また、新薬の開発により多くの薬剤の選択肢が出てきたことから、がん化学療法を継続する期間も長くなっています。さらには、がん化学療法の支持療法の開発も進み、嘔気嘔吐をはじめとした身体的に苦痛な副作用症状や、発熱性好中球減少症のような重篤化すれば命にかかわるような副作用も、制吐剤やG-CSF(Granulocyte Colony Stimulating Factor:顆粒球コロニー形成刺激因子)製剤の投与によりコントロールしやすくなったこともあり、がん治療の場は入院から外来へ移行しています。
 そのため、患者さんは仕事を継続したり、家族内での役割を果たしたりしながら治療を継続されています。

 これらの背景から、がん患者さんが社会生活と治療を両立していくにあたり、外見の変化に伴う苦痛やそれらに対する支援がクローズアップされるようになってきました。そして、この課題が社会的にも認知され、第4期がん対策推進基本計画(令和5年3月28日閣議決定)のなかでも「がんとの共生」という目標があり、がん患者等の社会的な問題への対策の1つにアピアランスケアが盛り込まれています1

アピアランスケアでがん患者さんの希望する生活を支援

 「アピアランスケア」とは、「医学的・整容的・心理社会的支援を用いて、外見の変化を補完し、外見の変化に起因するがん患者の苦痛を軽減するケアである」2 、と定義されています。

 がん患者さんにとって、外見の変化に起因する苦痛とは、どのようなものでしょうか?1つはボディイメージの変化による喪失感や自分自身のとまどい、それともう1つは、外見が変化したことにより、他者から自分がどのように見られるのか、ということに関連した人間関係のなかで生じる苦痛です。
 これらの苦痛はとても個別性の高いものです。同じように脱毛した患者さんであっても、それぞれの患者さんの社会生活や価値観によって、脱毛という症状のとらえ方や、重大さは異なります。

 したがって、アピアランスケアにおいては、「脱毛する患者さんには整容のためにかつらを紹介する」という画一的なかかわりや、外見を病気になる前の元の姿に戻すことだけをケアのゴールにするのは適切ではありません。外見の変化に起因する苦痛に対するケアは、化粧や身なりを整えることにとどまらず、がん患者さんがこれまでどおりに社会や家庭で人とかかわりながら生活していくことや、希望する生活を送れるための支援だということを念頭に置いておきたいものです。

 そして、美容の専門家ではなく看護師がアピアランスケアを行う意義は、看護師は病気や治療について理解があり、そのプロセスを患者さんと共有しているからこそ、個々の患者さんに合ったアピアランスケアが行えるということではないでしょうか。

1.厚生労働省:第4期がん対策推進基本計画について.
https://www.mhlw.go.jp/content/11907000/001127422.pdf(2024.6.7アクセス)
2.野澤圭子,藤間勝子編:臨床で活かすがん患者のアピアランスケア.南山堂,東京,
2017:7.

この記事は『エキスパートナース』2020年10月号特集を再構成したものです。
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