『ICUナースが書いた 補助循環の管理がもっとできるようになる本』は、ICUで「おさえておくべき必須テーマ」をていねいに、わかりやすく解説した新シリーズの1冊目。補助循環管理を行っている患者さんを受け持つときにICUのエキスパートナースが、何を、どうみて、動いているのかがわかります。

 今回は特別に、試し読み記事を公開します。ぜひチェックしてみてください!
 第1回は、補助循環管理における看護師の役割についてです。

補助循環管理を行う患者と家族には、どう接する?

 補助循環管理に関する成書の多くは、治療や機械的な管理に焦点が注がれています。
しかし、臨床で看護を提供するうえで重要なのは、補助循環管理を行っている患者は「生と死の狭間におかれている」ということです。この事実にどのように向き合うべきか、そして、そのなかで複雑に生じうる倫理的な側面にも注目しながら看護を実践していかなければなりません。

補助循環管理が必要な患者と家族は複雑な心境を抱えている

 補助循環管理を行う患者やその家族*が見つめるかもしれない世界観のイメージを【図1】にまとめました。「すべてこのとおり」になるわけではありませんが、患者と家族は、生と死の狭間複雑な思いを抱えることを、まずは理解することが大切です。
*最近では、「家族」は「血縁関係だけ」という解釈ではなくなってきています。

特に注意が必要なのは「回復困難な状態に陥った場合」の対応

 治療によって身体的な回復がみられた場合、その喜びにより、患者や家族の複雑な心理状況も、時間が解決してくれる可能性が高いです。
 しかし、回復困難な状態に陥った場合、特に注意が必要です。治療が奏効しないことへの悲しみや、それまで抱いていた医療への期待が、容易に違う心情の形(怒りなど)に変化しうるからです。患者や家族の傾向を理解して信頼関係を構築し、真のニーズを明らかにし、支援していくことが重要です。患者や家族の将来までを支援するのは難しくても、将来をよりよいものにするきっかけづくりはできるはずです。急性期看護実践では、この視点を必ず念頭に置くべきだと考えます。

「頭で理解できても、心では理解できない」状態だと理解する

補助循環管理の合併症によって救命困難になる場合もある

 残念ながら、心筋細胞の障害が不可逆的な場合、病態が深刻であればあるほど、救命できない確率や、救命できても大きな障害(心不全)が残る確率が、非常に高いのが現実です。
 救命治療によって心臓がよい方向に改善してきた場合でも、補助循環管理自体の侵襲性の高さから、合併症により救命困難になるケースもあります。一見、臨床状況が安定していても、さまざまな合併症が起こる可能性があります。出血や脳梗塞などが起こり、患者の状態が容易に悪化する可能性があります。

患者と家族は心理的危機状態にあることを理解してかかわる

 患者と家族が、刻々と変化する身体状況(複雑な生体反応や治療の状況、治療上の潜在的なリスク)を適切に把握するのは容易ではありません。心理的危機に直面し、「頭で理解できても、心では理解できない」といった心情に苛(さいな)まれることも考えられます。
 初期(病気の発症や補助循環管理の導入など)の臨床場面で、今の状況を受け入れる(受容する)方もいますが、「心身状態の紆余曲折」を経験する方が多いと思います。

 このようなときの心理的な反応は、個人・家族内での関係性、生活背景・個人史、将来への希望、健康への価値観・信念などによって異なります。患者と家族は、どのような世界観から現状を見ているのか、今の困難を乗り越えるためにはどのような具体的な支援を必要としているのか、病状的に許される時間的猶予を看護者がアセスメントしながら、信頼関係を構築しつつ段階的にどのように支援すべきかなど、各所のニーズにきめ細かく寄り添える看護が必要になります。

ICUでも「患者は全人的な存在」という前提をもってかかわる

 補助循環管理を行っている患者のベッド周囲には、たくさんの医療機器・薬剤・モニターがあり、管理・準備・診療の補助とやることがてんこ盛り…これが臨床のリアルです。特に、救命・集中治療は一刻一秒を争うことも多く、どうしても身体面に関することに注目しがちですが、「患者は全人的な存在」という前提を忘れてはなりません。
 患者個々のニーズを満たす適切な医療・ケアを実施するためには、急性期でも全人的苦痛(トータルペイン)が生じうる、と考えるべきです。
 例えば、心筋梗塞患者の主観的体験に基づくニーズとしては、以下の要素が考えられます。

 ICUという特殊な療養環境下であっても、患者を全人的にとらえ、かかわっていくためには、日々の業務の忙しさに忙殺されないように立ち止まり、考えていくことが重要だと私は考えます。

現状だけでなく「少し先の予後」までアセスメントする

 よりよい看護を行うためには、迅速・適切な思考のフレームワーク(思考の枠組み)を身につけることも重要です。病気を理解するためには、病態・治療はもちろん、治療によるよい反応、病態悪化によるよくない反応を把握し、中長期予後を見きわめるアセスメント力が必要です。

 また、病気を理解するだけでは、揺れ動く患者と家族の心身を支援できません。どのように患者の病態・治療などの全体像をアセスメントしていくべきか、病気だけでなく「病気になっている人」や、患者を支える家族などにも注目し、最良の看護をチームで実践していくことが重要です。
 看護実践の多くは、勤務帯や担当制などにより、輪番で担当します。だからこそ、チームで共有できる情報や、標準的な思考過程(とらえ方)を基盤に、緻密な継続看護を実践していくことが求められます。

ICUナースが書いた 補助循環の管理がもっとできるようになる本
齋藤大輔 著、山下 淳 医学監修
B5・128ページ・定価 2,420円(税込)
照林社

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