日々進化する治療・ケアにかかわる用品がもたらした変化、活用する際の注意点などを紹介!今回は迅速検査キット(急性心筋梗塞マーカー)を取り上げます。使い方のポイントや注意点を確認しましょう。

 現在、日本人における死亡原因は「悪性新生物(がん)」が最も多く、次いで「心疾患」となっています。
 その心疾患のなかでも、急性冠症候群(ACS)は最も重要な疾患です。特に急性心筋梗塞(acute myocardinal infarction、AMI)の場合には、できるだけ早期に血栓溶解療法、経皮的冠動脈形成術(PTCA)などの再灌流の処置を実施することが推奨されています。

急性冠症候群を早期に処置するため、迅速検査キットの開発が進む

急性冠症候群(acute coronary syndrome、ACS)
①安静時不安定狭心症(unstable angina at rest、UA)
②非ST上昇型心筋梗塞(non-ST elevation myocardial infarction、NSTEMI)
③ST上昇型心筋梗塞(ST elevation myocardial infarction、STEMI)
※②③を合わせて「急性心筋梗塞(AMI)。できるだけ早期の診断・治療が必要

 早期の処置を行うためには、適切かつ迅速な診断が重要です1。かつてACSの診断は、「自覚症状」「他覚症状」「心電図」「心エコー」などを組み合わせて行ってきましたが、非典型例などでは診断に苦慮する症例も多い状況がありました。そのようななか、AMIの診断マーカー*1の有用性が報告され、ACSの診断、そして予後予測に有用な心筋マーカーがつぎつぎと発見されました。
 その後の研究の進歩は著しく、新たなマーカーの発見、迅速測定キットの開発が行われ、採血1つでわかるマーカーが、ACSの診療を大きく変えました(表1)2
 
 『急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)』の「バイオマーカー」の項目において、「ACS が疑われる胸部症状を示す患者の早期リスクの層別化に、心筋トロポニンを測定する」3は、「推奨クラスⅠ」*2とされています。

表1 心筋マーカーの種類と心筋マーカーの選択

心筋マーカーの種類と心筋マーカーの選択
(文献2より引用、一部改変)

心筋トロポニン、H-FABPをそれぞれ測定できるキット

 AMIの迅速確定診断に用いられる心筋バイオマーカーは心筋トロポニンH-FABPであり、心筋トロポニンTは「トロップT センシティブ」(図1)、H-FABPは「ラピチェック®H-FABP」(図2)にて迅速測定が可能です。
 いずれも15分程度で検出可能。「コントロール(確認)ライン」と「シグナル(判定)ライン」の有無を目視にて判定します。

①トロップ T センシティブ

 「血中心筋トロポニンT」および「血中心筋トロポニンI」は、骨格筋のトロポニンと交差反応を示さず、心筋特異的であるという点で他のバイオマーカーよりも優れており、心筋障害の検出に非常に優れています4

 ACS症例では、心筋トロポニン濃度は2~4時間程度で上昇しはじめ、しばらく持続します。トロップT センシティブは、150μLのEDTAもしくはヘパリン添加静脈全血を滴下するだけで、約15分以内で短時間にAMIの診断ができ、より的確な治療方針が立てられます。
 
 ただし、心筋トロポニンTの濃度がトロップTセンシティブの検出感度(0.1ng/mL)まで上昇するのに3~5時間かかるため、梗塞発症初期では陰性の結果を示すことがあります。検査結果が陰性の場合でも、心筋梗塞が疑われる場合は時間をおいて再検査をしてください。

図1 「心筋トロポニンT」を検出するための検査キット
トロップT センシティブ(画像提供:ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)

トロップT センシティブ

②ラピチェック® H-FABP

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