がん疼痛のある進行肺がん患者さんの体験についての研究結果をもとに、実践したいケアを紹介しています。

【第45回】がん疼痛のある進行肺がん患者さん[前編]研究から明らかになったこと

自律した存在として生活を送りたいという患者さんの願いを支えるケアを行う

ケアのポイント

●前向きな態度に苦悩が隠されていることがあるため、感情表出しやすい機会をつくる
●患者さんの行動の背景にある考えを理解し、がんから解放される機会をつくったり、快の欲求を満たすために清潔援助などを行う
●患者さんの希望の実現に有用な情報を提供し、現実的に可能なものをともに考える

患者さんの回復意欲を促進し、希望のなかで実現可能なものを考える

 これまで、がん疼痛のある患者さんに対しては、不安や恐怖心、抑うつなど情動のネガティブな側面が強調されてきました。 しかし、患者さんが自己コントロール力を発揮して悲観的意識を回復への期待感に転じることができたのは、周囲からの心に響くかかわりや、これまでの苦難を乗り越えてきた自分自身への信頼によるものと考えられます。

 また、療養への取り組みの背景には、たとえがんは完治できなくともできる限り心身を健やかに保ち、自律した存在として生活を送りたいという願いがあり、死を覚悟のうえで肯定的に生きようとする思いや、仕事がしたい・自宅で過ごしたいという希望が存在しています。

そこで、下記のような心理社会的ケアが必要となります。

①がん疼痛の体験をありのまま語る機会をつくる

●痛みの体験を言語化できるよう助ける
●語りのなかにある患者さんの精神性に敬意を払う
●意図的に感情表出を促して、こころのケアの機会を逃さない

 研究結果には、痛みの存在にがんの完治できない現実を認識し死を覚悟しつつも、自己コントロール力を発揮して回復意欲を促進し、前に向かって生きようと努力する患者さんの姿が表れており、そこには人間のもつ高い精神性を見てとることができます。このような患者さんの姿を包括的に理解することは、ケアを行ううえで有用であると考えます。

 しかし、感情表出に躊躇(ちゅうちょ)する患者さんの場合、前向きな態度に苦悩が隠されていることがあります。例えば、いつも明るく振る舞う患者さんでも、「夜、眠ろうとするとがん細胞が身体中を巡っているように感じられて怖い」と話されることがあります。
 そのため、看護師は身体的な痛みのアセスメントに加えて、患者さんががん疼痛の体験をありのまま語ることができる機会を作り、ケアの機会を逃さないことが必要です。

②回復への期待感を高めて回復意欲を促すケアを行う

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