特に意識して水分出納(in-out)を確認すべき状況や病態とは?今回は溢水による呼吸不全を疑った場合の、水分出納管理のポイントを解説します。溢水によるバイタルサインや血圧・心拍数への影響などを確認しましょう。

「in-out(水分出納)をみるのはこんなとき!」の連載まとめはこちら

溢水(in>out)

輸液負荷による溢水の状態

溢水による呼吸不全を考えて輸液量をチェック

 呼吸不全が起こったときは、輸液量をチェックすることが重要です。なぜなら、水分の入れすぎ(溢水)による呼吸不全が考えられるからです。
 
 過量の輸液や輸血では、右房への静脈還流量が増えるので、右室の血液が増えます。その結果、肺胞毛細血管が上がり、肺毛細血管に血液がたまることによって肺うっ血をきたします(表1)。肺うっ血が起こると酸素摂取能が低くなり、労作時に呼吸困難になります。

 この状態は、過量の輸液でin-outのバランスがプラス(体液量が過剰な状態)となっているために起こります。よって、「輸液量」と「尿量などで排出される量」のin-outバランスを観察することで、体液量が過剰な状態なのかどうかを判断していく必要があります。

表1 輸液負荷による溢水→呼吸不全

①過量の輸液や輸血によって右房への静脈還流量が増加する
②右室の血液が増え、右室が強く収縮することで右室拍出量が増える
③肺動脈圧が高まり、肺胞毛細血管が拡張してそこに血液がたまる
→肺うっ血を生じ、酸素摂取能が低下して労作性呼吸困難が生じる

(文献1を参考に作成)

溢水による呼吸不全を疑ったときのin-outの見方のコツ

out:輸液過多(=out減少)の徴候を確認する

 腎機能が“正常”であれば、あまり細かな輸液量調整を行わなくても、腎臓によって水分バランスの調整が行われます。適切な輸液であればめやすとして、尿量は0.5~1.0mL/kg/時となります。
 このとき輸液が“過量”であれば、輸液量(in)より尿量などの排出される量(out)が少なくなります。また全身の浮腫が起こり、特に下肢の浮腫が著明になります(表2)。また頸静脈の怒張もみられます。

 なおカラダの中の状況としては、血管透過性が亢進しており、水分が血管外に漏れて細胞外液が増加し、血管内のボリュームを維持できていない状況にあります。

表2 浮腫の観察
●脛骨動脈前面や足背を10秒以上、指で圧迫する
●そののち、圧迫痕がしばらく認められるようであれば浮腫と考える
*尿量減少とともに下肢の浮腫がみられれば、outの減少を疑う

in:肺うっ血(=in増加)の徴候―姿勢をみる

 呼吸する姿勢を観察することも大切です。肺うっ血などであれば、臥位での呼吸が困難であることから、起坐呼吸になります。
 これは、上半身を起こすことで静脈還流量が軽減し、肺静脈圧が下がり、呼吸困難感が臥位に比べて軽減するためです。

in:肺うっ血(=in増加)の徴候―循環動態を推察する

 心臓へ戻ってくる水分量が多いほど、心臓はよく膨らみ、縮もうとする力がより多く生じます。そのため基本的には、体液量が過剰な状態になると血圧は上昇します。そして1回に拍出される血液量が多くなるため、心臓の収縮力が上昇することから、心拍数はやや低下します(図1-①)。なお、心拍出量が増大していると、四肢が温かく湿潤しています。

 さらに心臓へ戻ってくる水分量がある一定量を超えると、過剰に戻ってきた水分に心臓の筋肉が伸ばされた状態になります。そのため、極端に体液量が過剰な状態になると1回心拍出量は低下し、血圧は低下します。その下がった血圧を補うために、心拍数が増加します(図1-②)。

図1 溢水による血圧・心拍数への影響

溢水による血圧・心拍数への影響

●溢水が起こると血圧が上昇し、心拍数はやや低下する
●さらに重度となると、血圧は低下、心拍数は増加する

in:肺うっ血(=in増加)の徴候―呼吸不全の状態をみる

 呼吸不全の徴候が、“体液が過剰な状態であることによる呼吸状態の悪化”であるかアセスメントします。溢水による呼吸をはじめとするバイタルサインへの影響(症状)を表3に示します。

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