がん終末期における清潔ケアでは、患者の苦痛に配慮することが大切です。皮膚トラブルを予防するためのポイントもわかりやすく解説します。

「がん終末期ケアの“やってはいけない”」の連載まとめはこちら

がん終末期ケアのNG

患者さんの苦痛に配慮せず清潔ケアを行ってはいけない
〈理由〉清潔ケアによる体動が疼痛などを増強させ、スキントラブルも起きやすくなっているから

 終末期にある患者さんは、予後予測1か月ごろより倦怠感や疼痛、呼吸困難などの症状が出現してきます。それに伴いセルフケア能力が低下し、体動により症状の増強も出てきます。そのため、清潔ケアも患者さんの苦痛となり、十分にはできない状態になってしまいます。

 しかし、動いていなくても発汗や分泌物で皮膚や寝具は汚染するので、患者さんに苦痛の少ない方法で清潔ケアを行うことが大切です。

 また、がん終末期では低栄養状態、腹水などによる血漿膠質浸透圧の低下やがん悪液質症候群によって、炎症性浮腫の病態となります1。患者さんの多くは浮腫による苦痛を抱え、スキントラブルを起こしやすい状態にあります。そのため、脆弱な皮膚表面を傷つけないスキンケアを行うことがポイントとなります。

終末期の清潔ケアのポイントは?

 終末期の清潔ケアの大きな目的は、患者さんに快刺激を与え、 身体の清潔を保つことです2。ケアが患者さんの苦痛となってしまわないように、その日の患者さんの状態を観察し、思いを支持しな
がら清潔の方法を考えていきましょう。終末期の清潔ケアのポイントを表1に示します。

表1 終末期の清潔ケアのポイント
●ケアの前に鎮痛薬の予防的投与を検討する
●ケアの優先度を考え、短時間で行う
●看護師2人で行うなど、患者の負担を少なくする
●スキントラブルの予防的なケアも行う(①清潔、②保湿、③保護)
●臭気の発生しやすい身体部位(腋窩部、手指、足指、陰部)を集中的にケアする
●患者の思いを支持する

(文献2を参考に作成)

皮膚トラブルを予防するには?

 表1で示した通り、清潔ケアを行う際にはスキントラブルの予防的ケアの視点も大切です。①清潔、②保湿、③保護について以下に示します。

①清潔

 弱酸性の洗浄剤による洗浄が基本となります。皮膚に機械的な刺激を加えないように、泡立てた洗浄剤を皮膚に乗せ、汚れを落とすようにし、不織布などの柔らかいガーゼで押さえるようにして水分を取るなどの工夫を行います。ケアによる患者さんへの負担を最小限にするために、洗い流しが不要な洗浄剤を使用することもあります。

②保湿

 洗浄後、皮膚が水分で潤っているうち(約5分以内)にたっぷりと保湿剤を塗布します。乾燥が著明な場合は、1日2回以上、こまめに保湿剤を塗布します。皮膚からの水分喪失を防ぐため、保湿剤は油性成分が高いものが効果的です。

③保護

 摩擦などの機械的刺激から守るため、靴下や弾力チューブ包帯などで保護します。ゴムなどの締め付けがないものを選択するとともに、毛羽立っているものは掻痒感を生じやすいため、素材にも注意します。

家族と一緒に清潔ケアを行う

 なお、終末期患者さんのご家族は、「自分は何もしてあげられない」といった自責の念を抱いていることがあります。
 清潔ケアの際は、顔を拭いてもらったり、髭剃りをしてもらったり、保湿クリームを塗るなど、ご家族が参加できる方法を一緒に行っていくことも大切です。

まとめ

●鎮痛薬の予防投与や時間の短縮など、清潔ケアが苦痛にならない方法を検討する
●保湿剤、靴下や弾力チューブ包帯などを使用し清潔・保湿・保護に努め、スキントラブルの予防的ケアを行う
●家族が参加できるケアを考え、一緒に行う

(第10回)

1.清水けい子:特集・がん終末期における創傷・スキントラブルとケア.がん看護 2009;14(7):751-754.
2.田中桂子 編:特集・がん終末期の治療・ケア ここからできる! 解決へのアプローチ.エキスパートナース2007;23(10):35.

次回の記事:【最終回】終末期せん妄への対応ー身体的拘束の弊害と非拘束ケアの実践法(12月16日配信予定)

※この記事は『エキスパートナース』2015年6月号特集を再構成したものです。当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載および複製等の行為を禁じます。