看護師自身の身を守るために気をつけたい抗がん薬の曝露予防対策。曝露が起こる場面や、ガイドラインの発刊など曝露対策のこれまでの動き、ヒエラルキーコントロールなどについて解説します。

抗がん薬の曝露が起こる場面とは?

 抗がん薬の曝露は、調製時、輸液ライン接続・交換など薬剤投与時だけでなく、患者の排泄物を扱うときや、使用した物品の廃棄処理時などに起こります。
 
 抗がん薬の調整は薬剤師の業務ですが、看護師が行うこともあります。2025年現在、診療報酬上の要件として悪性腫瘍に用いる注射薬に閉鎖式接続器具を用い無菌製剤処理を行う場合、揮発性の高い薬剤(イホスファミド、シクロホスファミド、ベンダムスチン塩酸塩)にかかわらず、一律180点加算が算定できるようになっています(令和6年度改定診療報酬「無菌製剤処理料」)。これは適切な知識や技術のもと、安全な環境で調製を行う必要があることを示しています。

 看護師が行う、輸液セットを取りつけ、ラインに接続(スパイク)する際にも、抗がん薬の漏れが起こる可能性が報告されています。処置や排泄ケアも曝露の機会になり、その対策はきわめて重要です。

抗がん剤曝露対策の動き

1)労働安全からの「通達」の発信

 2014年5月29日、厚生労働省労働基準局安全衛生部・化学部室対策課長名で、各関係団体の長あてに『発がん性等を有する化学物質を含有する抗がん剤等に対するばく露防止対策について』が発信されました。
 ここには、「これら(シクロホスファミド等揮発性の高い薬剤)を取り扱う(調剤、投与、廃棄等)薬剤師や看護師等の労働者が意図せず、それらの気化した抗がん剤の吸入ばく露、針刺し、あるいは漏出した抗がん剤への接触による経皮ばく露した場合等に健康障害を発症するおそれがあるため、必要なばく露防止対策を実施する必要があります」1としたうえで、薬剤師や看護師等の労働者のばく露防止対策の留意事項が5つの項目にとりまとめられています。

2)NPO 法人「抗がん剤曝露対策協議会」の発足

 2014年4月30日、NPO法人抗がん剤曝露対策協議会が発足しました。
 設立の目的は、「抗がん剤曝露対策の重要性を啓発し、医師、看護師、薬剤師等の医療従事者および抗がん剤使用者家族への被ばく対策により安全性を確保すること」2であり、関連学会、研究会等への広報・告知活動を行うとともに、「抗がん剤曝露対策に関する既存のエビデンスと新規エビデンスを蓄積して、より安全な被ばく対策を推進する」2とされています。教育セミナーの開催、教材の作成をしています。また、趣旨に賛同する会員をホームページで募集しています。

3)曝露対策のガイドライン

 2015年に『がん薬物療法における曝露対策合同ガイドライン』(日本がん看護学会、日本臨床腫瘍学会、日本臨床腫瘍薬学会)、2019年に改訂版『がん薬物療法における職業性曝露対策ガイドライン 2019年版』が発刊されました。2019年版ではガイドラインの利用対象者を明確にするため名前を改題しています。
 詳しくは各学会ホームページを参照ください。

ヒエラルキーコントロールとは?

 曝露対策を行ううえで、ぜひおさえておきたいのが「ヒエラルキーコントロール」という考えです(図1)。これは職業性曝露を排除または最小限にするためのリスクマネジメントの概念で、事業者(病院長など)は職員の健康を守るために、効果の高いほうから対策をとる必要があることを示したものです。

図1 ヒエラルキーコントロール
ヒエラルキーコントロールの図
(文献3より引用)

抗がん薬曝露予防対策

 抗がん薬からの曝露予防として最も効果があるのは除去/置換です。つまり毒性がない薬などに変更していくことですが、現段階ではこの対策は不可能です。
 次に効果があるのは曝露源を封じ込めるために「安全キャビネット/アイソレーター」「閉鎖式薬物移送システム(Closed System Drug Transfer Device:CSTD)」などの機械・器具を適切に使うことです。

 そして組織全体(組織管理的コントロール)として、指針や手順、職員の教育・訓練を行い、適切な業務実施を図り安全に取り扱っていくことが大切です。また、個人として自身を守るために適切に個人防護具(Personal ProtectiveEquipment:PPE)をつけることも忘れてはならないことです。

安全キャビネット/アイソレーター
●抗がん薬調製(混注)時に用いる装置
●安全キャビネット内は陰圧に保たれており、HEPAフィルターを通した清浄な空気が給気されることで無菌状態が保たれている

閉鎖式薬物移送システム(CSTD)
●薬剤を調製・投与する際に、外部の汚染物質の混入を防ぐと同時に、液状あるいは気化/エアロゾル化した抗がん薬が外部に漏れ出すことを防ぐ構造をもつ器具
●一連の輸液システムとして、さまざまな部品がある

(第1回)

1.厚生労働省労働基準局安全衛生部化学物質対策課長:発がん性等を有する化学物質を含有する抗がん剤等に対するばく露防止対策について(基安化発0529第1号、平成26年5月29日).
2.NPO法人抗がん剤曝露対策協議会 ホームページ.
http://www.anti-exposure.or.jp/(2025.10.6アクセス)
3.日本がん看護学会,日本臨床腫瘍学会,日本臨床腫瘍薬学会編:がん薬物療法における職業性曝露対策ガイドライン 2019年版.金原出版,東京,2019:5.

※この記事は『エキスパートナース』2015年8月号の特集を再構成したものです。当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載および複製等の行為を禁じます。