3月30日(月)より放送が始まる、連続テレビ小説『風、薫る』。第1週完成試写会が3月9日にNHK放送センターで行われ、主人公を演じる見上愛さん、上坂樹里さん、脚本を手がける吉澤智子さん、制作統括の松園武大さんが登壇しました。

※本記事では当時の時代背景をかんがみて、歴史的な表現として「看護婦」という名称を使用しています。

明治期に看護の道を切り開いたバディの物語

 『風、薫る』は明治期、バディとなって看護の道を切り開いていった一ノ瀬りん(演:見上愛さん)、大家直美(演:上坂樹里さん)の物語。りんは大関和(おおぜき・ちか)さん、直美は鈴木雅(すずき・まさ)さんをモチーフとしながら、再構成されたストーリーとなります。

 会見の冒頭では、見上さんが「撮影が始まって半年がたちました。毎日撮影をしていて、自分本人としてより、りん役としてセリフを話しているほうが長いんじゃないかと思うような日々を過ごしています。第1週のできごとがあって、りんは看護師をめざそうと思ったんだなとあらためて認識し、身が引き締まります」とあいさつ。

 上坂さんも第1週について、「1人で完成の映像を見るのは緊張してしまって……。見上さんと撮影のときに、『同じ日に見ようね』と言って、休みの日に見ました。いろいろな方がかかわって1つの作品をつくり上げてくださっている、その一員に自分もなれているんだという気持ちがわき上がりました。皆さんに見ていただけるのが楽しみです」と語りました。

医療従事者へのリスペクトと演じる覚悟

 まずは、見上さんと上坂さんにインタビュー。撮影を通しての変化や、それぞれの役どころ、出演にあたっての思いを聞きました。

――第1~2週の物語は、りんと直美のその後の人生にどう影響する

見上 りんには第1週であるできごとが起きるのですが、そのとき何もできなかった無力感が、彼女が看護婦をめざすキーになります。困っている人を助けたい、苦しんでいる人がいたらすぐに手を差し伸べたいというのが、りんのずっと変わらない思いです。また、のちに子どもが生まれますが、人生の選択肢を増やせるように子どもに教育を受けさせるためというのも、看護師をめざす理由になります。

上坂 第1~2週、直美は今の環境に生きづらさを感じています。狭い世界を生きている直美が、りんと出会ってどんどん視野が広くなり、のちに2人で看護という道を切り開いていきます。直美はりんと出会うことで“始まる”ので、その部分に注目してほしいなと思います。

――撮影を通して自分のなかの価値観など、変化が生まれたことは?

上坂 直美として生活している時間が今の軸になっているので、最初のころに比べると台本に書かれている直美の行動やセリフの奥に、自分と重なったり通じたりする部分ができました。直美だったらこう言うだろうな、こう行動するんだなということが、体に染みついてきました。これからも直美とともに成長していけたらいいなと思います。

見上 顔が変わったって言われたよね。

上坂 そうなんです! ここ最近そう言われることが多くて。自分では無意識だったので、不思議な気持ちになりました。そうしたところも、直美を演じていくなかで変わってきたものだと思います。

見上 医療従事者の方々への感謝の気持ちはもちろん以前からありましたが、看護婦養成所でのシーンや、働き始めてからのシーンを撮影していて、1つのミスも許されない緊張感のなかで、看護とは何かということと、人としての正しさを考えながら働くというのはものすごいことだなと思うようになりました。リスペクトがさらに増しましたし、その覚悟を余さずに演じなければと思っています。

――お2人にとって連続テレビ小説とはどういう存在?

見上 1日が始まる朝の時間に物語が必要だと多くの人が感じているからこそ、続いてきたのだと思います。バトンタッチ式というものがあるくらい、いろいろな人にバトンがつながっていっているので、自分も受け取るだけではなく、次にバトンを渡せるように最後まで気を抜かずに物語をつくっていきたいです。

上坂 小さいころから、私にとって朝の日常の一部でした。なので、“朝ドラ”の主人公になるというのはずっと一番の夢として掲げていました。今こうしてお話ししているのも夢のよう。長く愛され続けてきた連続テレビ小説の一員になれることが光栄です。私も次にバトンをつなげられるようにがんばります。

見上愛さん(左)と上坂樹里さん

脚本家・吉澤智子さんが語る『風、薫る』

 続いては、脚本を手がける吉澤智子さんにインタビュー。脚本を引き受ける際の思いや、ナースを描くうえでの意識、働く女性へのメッセージを聞きました。

――脚本を担当するに至った経緯は?

 「このお話をいただいたとき、テーマはすでに決まっていました。私事ですが夫をがんで亡くしていまして、当時出会った医療関係者の方と今でも仲良くさせていただいています。それもあり、ぜひやってみたいなと思いました。また、脚本家になったときから女性2人のバディものを書きたかったこともあり、こんないいお話はないなと二つ返事でお受けしました」

――ナースへの取材で印象に残ったことや、ナースを描くうえで大事にしていることは?

 「看護師さんにお話を伺うと、皆さん『看護師は人が好きじゃなきゃできない仕事です』とおっしゃっていたんです。なので、それはベースで大事にしています。明治の看護婦を描いていますが、令和の看護師さんと通じる悩みもあるはず。そうしたことは取りこぼさず、今に通じる医療現場の苦悩や喜びを描いていけたらと思っています」

――第1週はCOVID-19流行下と重なる部分がありますが、このできごとを書いた思いは?

 「おそらく皆さん、連想されるところかと思います。事実、この当時コレラがはやったので、医療の黎明期にたくさんの感染症を経て、今があるということは丁寧に描きたいと考えました。感染者がまわりからどういう目で見られるのかなど、コロナ禍に通じる部分は伝えたいと思っているので、見て感じていただけたら」

――物語を描くうえで、シリアスさとポップさのバランスをどのように考えている?

 「その点は悩み続けています。人が亡くなることはとても大きなことですが、今この瞬間も毎日誰かが亡くなっています。丁寧に、大事に、シリアスに描きますが、看護師さんにとってはそれが日常。そうは言っても毎日泣いていられないという、ほっとするコミカルさも大事にしていきたいです」

――モチーフになった大関和さんと鈴木雅さんの印象や、りんと直美のキャラクターに活かしている部分は?

 「大関さんに関しては『優しくて天使みたいなナース』というよりは、『戦う女性』だったという印象です。また、『泣きチン蛙(ナイチンゲール)』というあだ名があったそうで、わりと直情的な人だったよう。りんの感情豊かさは、大関さんからいただいています。鈴木雅さんは本当は武家の娘さんですが、直美の出自は大胆にアレンジしました。でも、史実のとおり子どもを産むことなどは活かしています。

――令和に働く女性に、この作品を届けることで伝えたい思いは?

 「苦労とつらさは別というか、苦しいけれど楽しいことが、仕事にはありますよね。それが誰かのためになり、最後に喜びとなって返ってくることもあります。女性も男性も関係ないかもしれませんが、そんな苦労しつつ楽しむということを伝えられたらと思っています」

制作統括・松園武大さんが語る『風、薫る』

 最後に、制作統括を務める松園武大さんが、タイトルに込められた意味や、企画のきっかけ、ナースへのメッセージを語りました。

――タイトルである『風、薫る』に込められた意味は?

 「『風』には、栃木に吹く『風』、そして明治という激動の時代に吹く『風』の意味が込められています。ときには向かい風に立ち向かい、ときには追い風に背中を押されて生きていく主人公たちの姿を描けたらと。加えて、りんと直美が学ぶのはナイチンゲール式の看護学です。ナイチンゲールが考える自然治癒力にかかわる『風(空気)』という意味でも、このドラマに合っていると思います」

――本作を企画するきっかけとなった問題意識や課題は?

 「コロナ禍を経験する前と今とでは、この物語の感じ方は全然違うのではと思います。明治期の感染症の史料を見て、何人が亡くなったという数字の情報以外にどんなことが起こったのかは、今だからこそ感じられるのではないでしょうか。コロナ禍の当時に感じていた問題意識を、第1週を見て思い出してもらえたら。
 何が正しくて、何が間違っているかは簡単ではありません。医療現場で働いている皆さんも、これが正しい、間違っているといえない局面がたくさんあると思います。そのときに、どれだけ真摯に向き合い、考え続けるかが大事なのではないでしょうか。その視点を見失わずに、ドラマのなかで描いていきたいと考えています」

――大関和さん、鈴木雅さんから設定を変えたところは?

 「モチーフにはなっていますが、りんと直美には大幅な変更を加えています。例えば、2人の“成長物語”とするために年齢設定を変えました。実際のお2人は30歳近い年齢で看護婦養成所に入所しましたが、りんと直美はもっと若いときに入所。いろんなことに悩み、葛藤し、患者さんと向き合って成長していく姿を描いていきます。
 この先、りんの人生を追っていくなかで、大関さんが歩んだ足跡をたどることもありますが、基本的には“りんと直美の物語”として見てもらえたら。ですが、大関さんの情熱、1つのことを突き進めていくエネルギーは、りんにも込められています。このドラマをきっかけに、大関さんと鈴木さんに注目が集まるといいなと思っています」

――ナースに伝えたい本作の見どころは?

 「『風、薫る』では、看護の黎明期に飛び込んでいった2人が体験する壁、その時代特有の難しさが多々描かれます。りんと直美のように、看護の道を切り開いていった人たちの存在が、今につながっていると思います。患者さんやそのご家族に対してどうあるかなど、精神的な部分は明治も今も変わらないのではないでしょうか。そういった点を描くことで、共感していただき、悩んでいらっしゃる看護師の方の背中を支えられたらと考えています」

2026年度前期 連続テレビ小説「風、薫る」

3月30日(月)より放送開始、全26週(130回)※NHK ONEで同時・見逃し配信予定。

脚本:吉澤智子
出演:見上愛、上坂樹里 ほか
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
音楽:野見祐二
主題歌:Mrs. GREEN APPLE 「風と町」
語り:研ナオコ
制作統括:松園武大、宮本えり子
プロデューサー:葛西勇也、松田恭典
演出:佐々木善春、橋本万葉、新田真三、松本仁志 ほか

公式ホームページ:https://www.nhk.jp/g/ts/XWRG4KR6Z2/
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