呼吸サルコペニアの病態、原因、診断基準、介入方法などを紹介。看護師が知っておきたいこと、予防できることを解説します。

●呼吸サルコペニアとは?
●呼吸サルコペニアの病態の定義
●呼吸サルコペニアの原因
●呼吸サルコペニアの診断基準
●呼吸サルコペニアに対する介入方法は?
●ナースとして知りたいこと、かかわれることは?

呼吸サルコペニアとは?

 呼吸サルコペニアとは、呼吸にかかわる筋肉である呼気筋と吸気筋に、筋量減少と筋力低下が生じた状態です。呼気筋には内肋間筋、腹横筋、内外腹斜筋、腹直筋、吸気筋には横隔膜、外肋間筋などがあります。サルコペニアは四肢体幹の筋肉だけでなく、これら呼吸筋にも生じます。

 「呼吸」というと気管支や肺をイメージしがちですが、呼吸には呼吸筋も必要です。本稿では呼吸サルコペニアの定義、原因、診断、研究の現状、臨床ナースに知っておいてほしいことについて解説します。

呼吸サルコペニアの病態の定義

 2023年に日本呼吸ケア・リハビリテーション学会、日本サルコペニア・フレイル学会、日本呼吸理学療法学会、日本リハビリテーション栄養学会の4学会が、『呼吸サルコペニア 4学会合同ポジションペーパー』1を作成、公開しました。このポジションペーパーでは、「呼吸サルコペニアとは、呼吸筋力低下と呼吸筋量減少の両方が示唆される病態」と定義しています。これは全身性サルコペニア(以下、単に「サルコペニア」と表記する場合、全身性サルコペニアを指す)の診断と同じ流れです。

 2024年には、サルコペニアの国際的な集まりであるGlobal Leadership Initiative in Sarcopenia(GLIS)
から、サルコペニアの概念的定義に関するコンセンサス論文が発表されました2。このなかで、筋量と筋力はサルコペニアの構成要素とされた一方、身体能力は構成要素ではなくアウトカムとされました。そのため、今後のサルコペニア診断は、筋量と筋力の2つだけで行う方向性となりました。

 アジアのサルコペニアのワーキンググループであるAsian Working Group for Sarcopenia(AWGS)2019では、筋量減少を認め、筋力低下もしくは身体機能低下を認めたものをサルコペニアと診断していました。
 しかし2025年11月に公開されたAWGS 2025では、筋量減少と筋力低下を認めたものをサルコペニアと診断することになりました。身体機能低下は、サルコペニアの診断基準から除外されています。

AWGS 2025について、詳しくは『エキスパートナース』2026年5月号特集「今知っておきたいAWGS 2025のポイント」をチェック!

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呼吸サルコペニアの原因

 呼吸サルコペニアの原因は、全身性のサルコペニアと同様に、加齢低活動低栄養疾患急性炎症カヘキシア〈悪液質〉神経筋疾患など)に分類できます。

 加齢によって全身の筋肉だけでなく、呼吸筋にも筋量減少と筋力低下を生じます。また、呼吸筋が最も低活動となるのは、人工呼吸管理で筋弛緩薬を使用している場合です。人工呼吸管理下では、呼吸筋の活動が低下することで、呼吸筋に廃用性の筋量減少と筋力低下を生じます。さらに、運動や身体活動を行わないと、呼吸回数や呼吸の深さが増えることはないので、呼吸筋の活動が少なくなり、萎縮しやすくなります。

 そして、エネルギーやタンパク質の摂取量が少なくて飢餓状態になると、全身の筋肉だけでなく呼吸筋も萎縮して、筋量減少と筋力低下を生じます。

 急性感染症や手術後などで急性炎症を認めると、異化が亢進して全身の筋肉や呼吸筋に筋量減少と筋力低下を生じます。

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経筋疾患では、呼吸筋にも筋量減少と筋力低下を生じて、進行すると人工呼吸管理が必要となることもあります。呼吸器疾患の1つである慢性閉塞性肺疾患(COPD)も、図1のように全身性のサルコペニア、呼吸サルコペニアとの相互作用を示します1

図1 全身性サルコペニアと呼吸サルコペニア、COPDの相互作用
全身性サルコペニアと呼吸サルコペニア、COPDの相互作用の図
(文献1を参考に作成)

 カヘキシアは、「体重減少、炎症状態、食欲不振に関連した慢性疾患に伴う代謝不均衡」であると、アジアのカヘキシアのワーキンググループであるAsian Working Group for Cachexia(AWGC)によって2023年に定義されました3。AWGCによるカヘキシアの診断基準を表1に示します3。カヘキシアでは全身の筋肉だけでなく、呼吸筋にも筋量減少と筋力低下が生じます。

表1 AWGCのカヘキシア診断基準

●以下の2つは必要条件
①カヘキシアの原因疾患の存在(がん、うっ血性心不全、関節リウマチ、慢性閉塞性肺疾患、慢性腎不全、慢性呼吸不全、慢性肝不全、膠原病、制御できていない慢性感染症)

②3~6か月で2%より多くの体重減少、もしくはBMI21kg/m²未満

●そのうえで、以下の3つのうち1つ以上に該当
①主観的症状:食欲不振
②客観的指標:握力低下(男性28kg未満、女性18kg未満)
③バイオマーカー:CRP >0.5mg/dL

(文献3を参考に作成)

 1人の患者さんで上記の原因を複数認めることは、少なくありません。例えば高齢のCOPDの方が、誤嚥性肺炎で入院して、「とりあえず安静」「とりあえず絶食」「とりあえず水・電解質輸液の点滴のみ」といった不適切な医療行為を受けたとします。そうすると加齢、低活動、低栄養、疾患(誤嚥性肺炎による急性炎症、慢性閉塞性肺疾患によるカヘキシア)を合併します。その結果、全身性のサルコペニアやサルコペニアによる摂食嚥下障害だけでなく、呼吸サルコペニアも急速に進行します。

 そのため入院後2日以内に、ナースなど多職種で適切な評価を行います。そして可能であれば早期離床、早期リハビリテーション、早期経口摂取、入院時からの適切な栄養管理を行えば、部分的にですが呼吸サルコペニアを予防することが可能です。

呼吸サルコペニアの診断基準

 呼吸サルコペニアの診断フローチャートを図2に示します1

図2 呼吸サルコペニアの診断アルゴリズム
呼吸サルコペニアの診断アルゴリズム
(文献1を参考に作成)

 呼吸筋力低下と呼吸筋量減少の両方が存在する場合、呼吸サルコペニアと確定します。呼吸筋力は、 最大呼気口腔内圧(maximal expiratory pressure:MEP)もしくは最大吸気口腔内圧(maximal inspiratory pressure:MIP)による測定を推奨しています。65歳以上の健常成人の平均値は、女性でMEP116cmH₂O、MIP 57cmH₂O、男性でMEP 174cmH₂O、MIP 83cmH₂Oであるという報告があります4。また年齢、性別でみた呼吸筋力の基準値から80%以下の場合には、呼吸筋力低下としてよいと考えます5

 超音波エコーなどによる呼吸筋量の測定が難しい場合には、四肢骨格筋量を代用します。呼吸筋力の低下と四肢骨格筋量の減少が認められた場合、呼吸サルコペニアの可能性が高い(probable respiratory
sarcopenia)と診断します。呼吸筋力低下のみを認め、拘束性換気障害または閉塞性換気障害といった呼吸機能障害を認めない場合は、呼吸サルコペニアの可能性あり(possible respiratory sarcopenia)と診断します。呼吸機能障害を認める場合には、呼吸機能障害による呼吸筋力低下であり、呼吸サルコペニアではない(no respiratory sarcopenia)と診断します。

呼吸サルコペニアに対する介入方法は?

 呼吸サルコペニアという言葉ができたのが比較的最近であるため、呼吸サルコペニアの研究は少ないのが現状です。呼吸サルコペニアの有病率や、死亡や機能予後との関連を調査した研究はいくつか報告されています。しかし、呼吸サルコペニアの予防や治療に関する研究は、現時点ではほとんどありません。そのため、呼吸サルコペニアの予防や治療は、エビデンスに基づいたものではなくエキスパートオピニオンに基づいたものとなることに留意してください。

 呼吸筋トレーニングは呼吸サルコペニアに対する最も有望な介入で、呼吸筋力、呼吸機能、身体機能、および健康関連QOL(quality of life)を改善します。実際には、呼吸筋トレーニングと全身の筋力トレーニングの併用が望ましいと考えます。

 栄養介入は、骨格筋量、運動能力、呼吸筋力に有益な効果をもたらします。また、栄養不良と呼吸サルコペニアを有する高齢者の転帰を改善するためには、運動と栄養介入の両方を組み合わせることが重要です。エビデンスはありませんが、栄養改善をめざして意図的にエネルギー蓄積量を加味した攻めの栄養管理と、呼吸筋や全身の筋力トレーニングを含めたリハビリテーションの併用であるリハビリテーション栄養が、呼吸サルコペニアの予防と治療に重要と考えます。また、身体面への対応だけでなく、心理面や社会面への対応も重要です5

ナースとして知りたいこと、かかわれることは?

 まず、呼吸サルコペニアを知って気づいてほしいです。全身性のサルコペニアを認めた患者さん全員に呼吸サルコペニアを認めるわけではありませんが、全身性サルコペニアを認めた場合には、呼吸サルコペニアの存在も疑ってください。一方、サルコペニアの摂食嚥下障害を認めた場合には、ほぼ全員に呼吸サルコペニアを認めると考えます。

 次に、呼吸サルコペニアはナースの業務内容に直結することを知ってほしいです。重度の呼吸サルコペニアの場合、痰の自己喀出が困難となり、吸引が必要となります。また、誤嚥性肺炎で禁食となった後に経口摂取をめざす場合、サルコペニアの摂食嚥下障害だけでなく呼吸サルコペニアの有無と程度が、経口摂取の可否に影響します。さらに、重症疾患で人工呼吸管理となった場合、人工呼吸管理から離脱できるかどうかは呼吸サルコペニアの程度によることがあります。呼吸サルコペニアは全身性サルコペニアと関連しますので、身体機能や日常生活活動自立度が低いことが多いです。そのため、転倒や骨折のリスクが高いといえます。

 最後に、呼吸サルコペニアはナースの取り組みによって、部分的に予防できることを知ってほしいです。呼吸サルコペニアの原因は加齢、低活動、低栄養、疾患ですが、これらのうち低活動と低栄養はナースの気づきと取り組みで予防、改善できます。または、医師に理学療法士と管理栄養士の介入を依頼するという形でもよいです。

 呼吸器疾患というと慢性気管支炎、慢性閉塞性肺疾患、肺がん、誤嚥性肺炎、間質性肺炎など、気管支と肺に集中しがちです。しかし実際には、これらの疾患の患者さんの多くに低栄養や全身性サルコペニアだけでなく、呼吸サルコペニアも認めます。気管支と肺だけでなく、呼吸筋にもぜひ注目してください。

1.Sato S,Miyazaki S,Tamaki A,et al.:Respiratory sarcopenia:A position paper by four professional organizations.Geriatr Gerontol Int 2023;23(1):5-15.
2.Kirk B,Cawthon PM,Arai H,et al.:The Conceptual Definition of Sarcopenia:Delphi Consensus from the Global Leadership Initiative in Sarcopenia(GLIS).Age Ageing 2024;53(3):afae052.
3.Arai H,Maeda K,Wakabayashi H,et al.:Diagnosis and outcomes of cachexia in Asia:Working Consensus Report from the Asian Working Group for Cachexia.J Cachexia Sarcopenia Muscle 2023;14(5):1949-1958.
4.Enright PL,Kronmal RA,Manolio TA,et al.:Respiratory muscle strength in the elderly.Correlates and reference values.Cardiovascular Health Study Research Group.
Am J Respir Crit Care Med 1994;149(2 Pt 1):430‒438.
5.Miyazaki S,Tamaki A,Wakabayashi H,et al.:Definition,diagnosis,and treatment of respiratory sarcopenia.Curr Opin Clin Nutr Metab Care 2024;27(3):210-218.

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※この記事は『エキスパートナース』2025年6月号記事を再構成したものです。当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載および複製等の行為を禁じます。