朝ドラ『風、薫る』で直美が始めようとしている「派出看護」。大関和の著書『派出看護婦心得』の内容を紹介しながら、派出看護先での注意点や、赤痢の感染対策、患者との向き合い方など、現代にも通じる看護の考えを読み解きます。
※本記事では当時の時代背景をかんがみて、歴史的な表現として「看護婦」という名称を使用しています。
『派出看護婦心得』とは
『風、薫る』の主人公・一ノ瀬りんのモチーフである大関和(おおぜき・ちか)が、1899(明治32)年に出版した『派出看護婦心得』(初版のタイトルは『看護婦派出心得』)。看護の知識や業務について、詳しく解説したものです。

「派出看護」とは、患者の家や入院先の病院に出向いて行う看護のこと。現在の訪問看護の原点といえます。
『風、薫る』のもう1人の主人公・直美のモチーフとなった鈴木雅(すずき・まさ)は、1891(明治24)年に、日本で最初の派出看護婦会「慈善看護婦会」を立ち上げました。その後、「東京看護婦会」に改称してから、和も経営を手伝うようになっています。
和は、派出看護婦たちにどのようなことを伝えているのでしょうか。1919(大正8)年に出版された『派出看護婦心得 第6版』の内容の一部を見ていきます。
●二、病室についての注意
第一に、清潔と消毒の方法、空気の入れ換え、室温を適切に保つことなどに注意すること。●三、病人についての注意
第一に、体温・脈拍・呼吸に注意し、次に薬の使用や食事、治療などはすべて時間を守って行うこと。また、睡眠・不眠の状態や、あらゆる排泄の状態に注意すること。●六、看護婦自身についての注意
立ち居ふるまいは静粛にし、心を平静に保ち、言葉を慎み、よく忍耐し、自分の体を清潔に保つこと。また、食事や労働においても衛生を心がけるように努めること。(文献1、p2-3,5を参考に作成)
『風、薫る』でも描かれた換気の大切さや、患者さんとの接し方の基本が取り上げられています。そのほか、医師や患者さんの家族との接し方、地方の病院に派遣された際の心得、遺体の取り扱い方などの項目もあり、具体的な注意点が丁寧に説明されています。

なかでも詳細に書かれているのが、患者さんの自宅で1日を通して行う看護の手順と、赤痢病棟における勤務スケジュールについてです。
患者さんの家での看護の手順
患者さんの家での看護の手順について、朝食までに行うこととしては、下記が記されています。
①患者の体温を測り、脈拍、呼吸を測定し、日誌に記載すること。
②患者にうがい、手洗いをしてもらい、すぐに食前の薬を飲ませること。
③患者の顔にほこりがかからないよう、ハンカチなどで覆ってから掃除をし、窓や戸を十分に開けて換気をする。患者の病状が重くなければ、寝具を交換するとよい。換気のために窓や戸を開ける時間は6分間をめやすとすること。
④牛乳やスープなどの滋養のある食事を与える場合は、このタイミングで提供する。その後、朝食を提供する。患者の食事は、すべて看護婦が責任をもって提供しなければならない。薬や食事の前後には、必ず患者にうがいをしてもらう。ただし、患者の都合によっては、看護婦が先に食事をとることもある。その場の状況や、その家の習慣、または患者の希望に応じて対応すること。
⑤患者に朝食を提供した後、看護婦自身が食事をとること。
(文献1、p5-7を参考に作成)
このように、換気、服薬・食事の管理など、患者さんの生活環境の整備が重視されていました。また、看護婦自身の食事のタイミングは臨機応変に対応するように書かれるなど、患者さんの暮らしを尊重してケアを行う姿勢が求められていたことがうかがえます。
赤痢病棟における勤務スケジュール
赤痢病棟では、「薬や食事を担当する係」「清潔・消毒を担当する係」、必要に応じて「日誌を記録する係」を決めるとされています。さらに、人数が多い場合は、それぞれの担当に補助者をつけることも必要だと、和は述べています。
「清潔・消毒を担当する係」の業務内容について、下記に挙げます。
●まずは看護婦自身が、うがいと手洗いをして清潔にし、衣服を整えてから病室に入る。
●最初に重症患者のおむつを交換する。腰まわりが汚れている場合は、お湯に石炭酸水を加え、やわらかい手ぬぐいで静かに拭き取るのがよい。
●重症患者のおむつ交換が終わったら、便器を消毒室へ運ぶ。その際、それぞれに名前を書いたり、順番を決めたりして、取り違えないようにする。
●患者ごとの記録用紙に便質を詳しく記載する。粘血便、粘液の多い便、軟便、褐色の軟便に粘液や血液が混じるもの、黒色の軟便に粘液が混じるもの、水様便に少量の粘液や血液が混じるものなど、便の性状を記載する。
●記録後、便は汚物容器に廃棄し、便器をよく洗ってから少量の石炭酸水を入れ、病室に備える。(後略)
(文献1、p13-14を参考に作成)
赤痢は粘液や血液が混じった下痢(粘血便・血便)が特徴。上記のとおり、粘液・血液の混入や、便の色・硬さなど、便の性状を観察し、記録することが重視されていました。現在の感染管理や看護記録に通じる考え方が、すでに提唱されていたことがわかります。
消毒薬、流動食のつくり方など、付録も充実
さらに、『派出看護婦心得』には「消毒薬のつくり方」「病室の消毒」「流動食のつくり方」「看護婦規則施行細則」「市立病院派出看護婦の心得」などが付録として掲載されています。看護婦の仕事の基礎から実践まで学べる、当時のナースたちにとっての必携書だったといえそうです。

『派出看護婦心得』は、国立国会図書館のウェブサイトで閲覧できます!
●『派出看護婦心得 第6版』
https://dl.ndl.go.jp/pid/935171
- 1.大関和:派出看護婦心得 第6版,大関看護婦会,東京,1919.
- 1.川嶋みどり,川原由佳里,鈴木紀子,平尾真智子,名原壽子:座談会 明治と令和・看護に通底するもの その2.オン・ナーシング 2026;5(1):40-47.
2.山下麻衣:「看護婦」の近代社会史 誇りが拓いた自立への道,朝日新聞出版,東京,2026.
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