朝ドラ『風、薫る』の主人公・一ノ瀬りんのモチーフとなった大関和。著書『実地看護法』の内容を紹介しながら、褥瘡予防や患者との向き合い方など、現代にも通じるケアの考え方を読み解きます。

※本記事では当時の時代背景をかんがみて、歴史的な表現として「看護婦」という名称を使用しています。

●『実地看護法』とは
●『実地看護法』で説く看護婦の心得
●『実地看護法』で説く褥瘡の注意
●便器・尿器の図解、看護記録の見本、用語集
●一般に向けた『家庭看病法』も出版

『実地看護法』とは

 大関和(おおぜき・ちか)が1908(明治41)年に出版したのが、『実地看護法』です。

 『実地看護法』は、和が病気療養のために栃木県・那須湯本温泉に滞在していた時期に執筆されました。自身の闘病経験もふまえて、患者の観察方法や食事の介助、感染症への対応などを著した、実践的な看護書です。

 第5版まで出版されたほか、1974(昭和50)年には、医学書院が『実地看護法 復刻版』を発刊しています。

『実地看護法』初版の表紙
大関和 著『実地看護法』(出典:国立国会図書館デジタルコレクション)

 1926(大正15)年出版の『実地看護法 第5版』の内容を見ていきます。

 「第一編 看護法」では、看護婦の心得、病室の環境整備から、褥瘡の注意、服薬、食事、呼吸の測定、皮下注射法まで幅広い看護の知識を網羅しています。続いて、感染症対策について記した「第二編 伝染病」、心臓病、急性肺炎、腹膜炎といった疾患における看護を学べる「第三編 普通内科病」という構成になっています。

 さらに、付録として外傷、創傷、やけど、凍傷などの対応を解説した「救急法」や、こちらの記事で紹介した『派出看護婦心得』も収録されていました。

『実地看護法』で説く看護婦の心得

 「第一編 看護法」内の「看護婦の心得と特に慎むべきこと」では、下記のようなことが書かれています。

●患者は長く付き添ってくれた看護婦と別れる際、おおいに悲しみ、そのことが病気にさしつかえる場合があります。このようなことは、看護を天職と考える者であれば、あってはなりません。そのため、献身と犠牲の精神をもって職務を全うすべきです。

●患者のことを思い詰めすぎると、かえって害となることがあるので、そのようなことは慎まなければなりません。患者と看護師とは、実の親子にもおよばないほど深い関係になるものです。そのため、よいことも悪いことも深く共感し、表情に表れてしまうことがあります。それを患者に気づかれてしまうと、大きな悪影響を与えることがあるため、慎まなければなりません。

(文献1、p4,9を参考に作成)

 献身や自己犠牲が理想とされる一方で、患者さんに感情移入をしすぎることを注意喚起。患者さんに寄り添い、信頼関係を築きながらも、冷静でいる姿勢が求められています。

 その後、「患者さんの家で看護を行う際の心得」でも、献身の大切さが繰り返されます。和は次のようにも記しています。

●看護婦は、1週間に2、3度は屋外に出て新鮮な空気を吸わなければなりません。また、1週間に2、3度は十分な睡眠をとらなければ、健康を害してしまいます。しかし、患者宅でそのような配慮がないからといって、不平を言うことはよくありません。家族によく事情を話し、信頼できる人に患者を頼んで、休息するようにしなければなりません。

(文献1、p19を参考に作成)

 看護婦自身の健康のため、休息の大切さを説いています。患者さんの家で配慮をしてもらえない場合もふまえて、休息時間を確保するための工夫を指南。理想を掲げるだけではなく、現場で実践に結びつけるための方法を伝えようとした、和の思いが感じられます。

『実地看護法』で説く褥瘡の注意

 本書に載っている具体的な看護ケアの1つが「褥瘡の注意」。褥瘡は予防が重要だとしたうえで、具体的な解説をしています。

●褥瘡(床ずれ)は、主に仙骨部、尾てい骨、大転子部に生じるものです。そのため、仰臥、側臥と、ときどき体位を変えるとよいです。しかし、腸チフスや脳膜炎などで体を動かせない患者の場合は、できるだけ寝床を整え、敷布や下着の重なりを伸ばします。そして、床ずれが起こりそうな部分を浮かすように寝床を変えたり、ゴム製の空気輪を用いて圧迫を防いだりします。また、アルコールやでんぷんを塗布し、皮膚の働きを妨げないようにします。

(文献1、p43-44を参考に作成)

 さらに、便や尿を失禁する患者さんや、神経麻痺の患者さんに対する褥瘡の注意も呼びかけました。

 このように、褥瘡が生じやすい部位を示したうえで、体位変換や、失禁後の清潔の保持など、現在の褥瘡予防にも通じるケアが紹介されています。一方で、ゴム製の空気輪や樟脳水の使用など、当時ならではのケア方法も。予防の基本的な考えは受け継がれながらも、時代とともに、効果的なケアへと発展してきたことがわかります。

便器・尿器の図解、看護記録の見本、用語集

 基本的にはテキストで解説された『実地看護法』ですが、付録の「便器および尿器の取り扱い方」には、図が用いられました。西洋式・和式の便器、尿器の使用方法が詳しく説明されています。

『実地看護法』便器・尿器の図解
大関和 著『実地看護法 第5版』(出典:国立国会図書館デジタルコレクション)

 例えば、差し込み便器については、下記のように紹介されています。

・腸チフスや腹膜炎など、体を動かせない患者に、仰臥のまま差し込んで使用する

・通常はブリキ製。

・金属部分が直接腰部に当たらないようにする。白木綿約3尺を用意し、第八図(左ページ中央の図)のような形に先端を縫う。その部分に綿を詰め、両端にも均等に綿を入れて、便器にはめ込む。両端を折り返し、綿を詰めた部分が便器の縁にかかるようにし、後ろの持ち手部分に巻き付けて結ぶ。

(文献1、p307を参考に作成)

 差し込み便器の概要に加えて、患者さんの苦痛を和らげるための工夫もレクチャーしています。

 そのほか、付録には看護記録の記入例も載っています。項目としては体温、脈拍、呼吸、薬、食事、便があり、具体的な記入の方法がわかるものです。

 さらに、用語集も掲載。「呼吸系用語」として咳嗽、喘鳴、喀痰、「消化系用語」として食欲亢進、食思、噯気、「循環器用語」として溢血、徐脈、チアノーゼなどが収載されました。

『実地看護法』看護記録の例と用語集
大関和 著『実地看護法 第5版』(出典:国立国会図書館デジタルコレクション)

 このように、『実地看護法』は、和が現場で培った経験や知識が集約された1冊でした。後輩ナースたちのため、実践で役立つ情報をわかりやすく届けようとした和の思いが伝わってきます。

一般に向けた『家庭看病法』も出版

 和は1915(大正4)年に、キリスト教の精神に基づく女性団体「矯風会」が出していた雑誌「婦人新報」の連載を書籍化した『家庭看病法』も出版しています。

 『派出看護婦心得』『実地看護法』は看護婦に向けた内容ですが、『家庭看病法』は名前のとおり、家庭における看病について解説したものでした。一般にも、看護の大切さを広めようと考えていたのでしょう。

 看護を「天職」と考え、理想を唱えるだけではなく、現場で役立つ実践的な知識を詳細に書き残した和。よりよい看護を次世代へ伝えようとしたことが、著書から読み取れます。

 看護の原点を感じられる和の著書に触れてみると、『風、薫る』をより楽しむことができそうです。

『実地看護法』は国立国会図書館のウェブサイトで閲覧できます!

●『実地看護法 第5版』
https://dl.ndl.go.jp/pid/921870

前回の記事:『風、薫る』で注目の「派出看護」―大関和の『派出看護婦心得』が伝える赤痢の感染対策、患者との向き合い方

1.大関和:実地看護法 第5版,新友館,東京,1926.
1.川嶋みどり,川原由佳里,鈴木紀子,平尾真智子,名原壽子:座談会 明治と令和・看護に通底するもの その2.オン・ナーシング 2026;5(1):40-47.
2.山下麻衣:「看護婦」の近代社会史 誇りが拓いた自立への道,朝日新聞出版,東京,2026.

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