専門職だけでなく、ナースにもベッドサイドで“少しの時間で”できるリハビリテーションがあります。 本特集ではこれを“ちょっとリハ”と名づけ、日常ケアの延長でできるアイデアとして紹介します。
その“ちょっと”で患者さんは自身の力を取り戻す
看護師が行う生活支援は非常に重要です。
それによって、患者さんの昼間の活動性を高め、 夜の良眠を誘います。朝起きてから、「トイレに行き」「顔を洗って」「食事をとる」。ほかにも「歯を磨いたり」「服を着替えたり」といった生活行為を促していきます。
さらに可能ならば、売店に行ったり、散歩に出たり、と生活の幅を広げる……。このような生活支援が、じつは有効なリハビリテーション(リハ)なのです。
「生活行為にまさる訓練なし」と言われるように、日々の生活に不可欠な身体の動きを可能にすることが重要であり、病棟生活にかかわる看護師の役割はとても大きいものです。
この特集では、看護師にできる生活支援としての環境調整や運動指導などを紹介します。 「ちょっとした」かかわりではありますが、その「ちょっと」が繰り返されることで、患者さんは自身の力を取り戻していくことができるのです。
治療のあとには「生活」があり、病棟の先には「人生」がある
病院を受診する患者さんは高齢者が多く、たとえ短期間の入院治療であっても、その間の環境の変化で、心身の機能を大きく低下させてしまうことが多くあります。
手術や検査など、何らかの侵襲が加われば、それが大きなストレスとなってその後の生活に大きく影響します。
「肺炎はよくなったが、立てなくなった」
「骨折は治ったが、ご飯が食べられなくなった」
「手術は成功したが、起きられなくなった」
などといったことに、私たち医療者はしばしば遭遇します。
病院での治療の目的は、病気を治すこと(あるいは病状を落ちつかせること)であり、それによって本人にふさわしい生活を再び取り戻すことです。治療のあとにあるもの、病棟の先に続くもの、それは患者さんが望む生活の実現です。
リハは、脳卒中などの麻痺や骨折などの運動障害に対して行われるだけではありません。肺炎などの呼吸器疾患や心不全などの循環器疾患、そのほか、各種の消化器疾患や血液疾患、さらに眼科や泌尿器科、婦人科などすべての疾患において、その生活障害が対象となります。
患者さんが再び生活を取り戻していけるよう、日々の看護にリハのアプローチを取り入れていきましょう。
「とりあえず安静」のときにもできることがある
入院中のリハは理学療法士(PT)や作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)などのセラピストが担うものとみなされてはいますが、そうした職種のみならず、患者さんの病棟生活に深くかかわっている看護師の役割は非常に大きいです。
例えば、入院中の患者さんで「肺炎で熱が高い!」といった場合、誤嚥が疑われたならば、「とりあえず安静で絶食とし、点滴しながら経過をみる」ということになりがちです。この安静臥床と絶食は、 患者さんの体力を著しく低下させてしまいます(図1)。

臥床した状態では十分な咳も出ません。“咳が出なければ痰も吐き出せない”ということになり、肺炎を助長させてしまうことになりかねません。肺炎の患者さんは寝たままの状態にせず、可能な限り座位をとり、呼吸が楽にできるようにしてあげなくてはなりません。
絶食は、患者さんの身体に重大な影響を与えるもので、たとえ1日の絶食であっても、患者さんの体力の消耗は非常に大きく、特に高齢者で2~3日の絶食が続いただけで、立てなくなることさえあります。
さらに絶食が続けば、舌、咽頭、喉頭の筋力は著しく低下して、いよいよ食べられなくなってしまいます。 不必要な安静や、安易な絶食を避け、できるだけ早く患者さんを起こすこと。そして、口腔ケアを正しく行いながら、口の動きや呼吸の状態を低下させないようにしていくことが大切なかかわりとなります。これは肺炎に限らず、すべての疾患に対してあてはまることです。
リハを「練習」でなく、「復活」の足がかりとして機能させるために

図2で提示したのは、軽い左片麻痺のある患者さんです。今回、左の躯幹に帯状疱疹ができて皮膚科に入院しました。
痛みがあるため、臥床して過ごすことが多くなることから、廃用予防の目的でリハの依頼が出ました。この患者さんは訓練室では一生懸命に歩行訓練を行うものの、 病室に戻ればじっと寝ている状態です。
この患者さんのベッドは左側から起きるような配置になっていたため、左片麻痺と帯状疱疹の痛みがある患者さんでは起き上がることができず、身動きすらできない状態で過ごしていました(図2・左)。
それに気づいたスタッフはベッドを少しだけ左側に動かしました。こうすると患者さんは、いつでも右側に起き上がれるようになりました(図2・右)。起き上がって座位をとることができるようになり、そこから杖をついてトイレまで移動できるようになりました。こうして、患者さんの生活の幅は大きく広がりました。
訓練室で歩行や立ち上がりなどが「できる」ということは大切ですが、じつは「できる動作」よりも「している行為」が生活をつくっていくのです。ベッドの向きひとつを例にとっても、患者さんに与える影響は非常に大きなものがあります。
看護師が、環境を調整し、患者さん自身の行う「生活行為」を保障することは大切です。そこでの“ちょっとした配慮”が患者さんの生活を広げていくのです。 次回から具体的なかかわり方を紹介します。これらを参考に、病棟看護師ならではのリハを展開していただければと願っています。
- 1.小山珠美:経口摂取標準化ガイド̶脳損傷に伴う摂食 ・嚥下障害.日総研出版,愛知,2006.
2.西尾正輝:摂食嚥下障害の患者さんと家族のために,改訂第3版.インテルナ出版,東京,2008.
3.稲川利光 編:ナーシングケアQ&A 病棟でできるリハビリテーションの基礎知識Q&A.総合医学社,東京,2013.
この記事は『エキスパートナース』2013年9月号特集を再構成したものです。
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