看護チームでの意識の変革
その後、病室の外で担当・リーダー看護師(以下、リーダー)とAさんのケアについて話をしてみることにしました。
筆者「今日はすごく表情がよくて、いろいろと話してくれているね」
担当「そうなの。昨日、生まれたばかりのお孫さんの写真を家族が持ってきてくれてから」
筆者「なるほど、家族の力ってやっぱりすごい!」
担当「本当。炎症も落ち着いてきたし、いくぶんか体も楽なこともあってか、ちょうどタイミングがよかったね」
筆者「そういえばリハビリ、どんな感じだろう?」
担当「いま呼吸器はCPAP『8』、PS(プレッシャーサポート)『8』で、血液ガス分析も問題なく経過できているんだけど、端座位から立位になると呼吸回数が増えてSpO2も低下して。30秒位で“だめ”って感じで」
筆者「そうかあ。リハビリも進まないね。この際、呼吸器つけながら歩いてみない?Aさんも前向きだし」
担当「え? 立位もできないのに……? あまり呼吸器つけたまま歩いたりっていうのはしたことがない」
筆者「確かに気管切開だし、危ないよね。でもAさんの真の気持ち、必要なケアって何だろう」
担当「……そうだね。この間の夜勤のとき、奥さんとこんなこと話してたよ。“孫のお宮参りには歩いていかないとね、車椅子とかだとかっこわるいよね”って」
筆者「なるほど。踏み出そうとする気持ち、感じられるね。どうだろう、なおのこと、その気持ちに寄り添うケアは作れないものだろうか?」
「一番いいのは呼吸器を離脱して、吹き流しにでもして、離床、歩行練習だよね。でも、Aさんの病態やこれまでの呼吸機能の経過を見ると、一筋縄ではいかなそう……。でも、だからと言って、ずっとベッド周囲っていうのは、心をふさぎこむのを促しちゃうよね」
リーダー「私もそう思っていたんですよ。どうすればAさんが一番望むこと、希望に寄り添いながらリハビリを進めてあげられるかって。ここで離床できないことは、負の連鎖を産むだけだって思う。長くICUにいればいいってわけでもないしね……」
筆者「移動用の、PEEPがかかる呼吸器もあるしね。環境は整えられる」
担当「でも、リハビリ中の痛みがくせものだよね」
筆者「平常時の痛みのコントロールは良好だよね。問題は運動時。そしたら先生やICU薬剤師と話し合って、その前にレスキューで鎮痛薬を考慮してもらったらどうかな。少なからず負荷で痛みは生じてしまうけど、軽減させて、それでAさんが成功体験をつかめられたら、きっと納得しながらステップアップできると思う」
担当「たしかに。そうしたら先生と薬剤師と相談してみる」
リーダー「じゃあどうしようか、離床のこと」
筆者「ICU医師と主治医、機器の安全面などもあるので、CE(臨床工学技士)も含めて、あとPT(理学療法士)にも意見を聞いてみよう」
「病態的には、運動負荷による酸素需要量増大と、高心拍になったときに無気肺も残存しているから、よけいにⅠ型の呼吸不全が進行している。そして、遷延した敗血症で呼吸筋の疲弊が顕著で、リハビリで運動負荷をかけると呼吸仕事量と呼吸器サポートとのミスマッチを起こして、Ⅱ型呼吸不全にシフトしているように思う」
「まずはAさんが成功体験を得られるように、呼吸器サポートと酸素濃度のレベルを上げれば、離床の機会やきっかけを作れそうじゃないかな。段階的に進めて、その時間軸で病状もより安定化して、結果的にリハビリも進みながら、呼吸器離脱は進められると思う」
「栄養は経口摂取もできるようになったし、術前の全般的な栄養状態や、もともとの職業柄の筋力量をみても、全身の回復可能性は早期に期待できる。この点はNSTにも意見を求めてみよう」
リーダー「そうか、そういったことを話し合って、リスクも考えながら、全体でケアプランを立てていければいいですね」
多職種カンファレンスをもとに離床機会が増える
この後、多職種カンファレンスが開催されました。安全面についても十分に話し合われ、複数の医師と看護師を調整して集めて行っていく計画を練りました。
そして、薬剤師には薬剤効果と調整のモニタリング、CEには移動式人工呼吸器の準備、トラブルシューティング、ICU医師にはAさんの運動負荷に追従できるよう呼吸器サポートレベルの適宜調整指示が得られるよう調整しました。
その結果、Aさんの可動性は飛躍的に向上し、せん妄や二次的合併症の発症はなく経過し、離床ができるようになりました。
さらに段階的に人工呼吸器からも離脱ができ、第32病日に一般病棟へ転棟、第40病日には軽快し、Aさんは退院することができました。
共有したいケア実践事例【第6回】臨床がなかなか進まなかった患者さんの事例をめぐるQ&A
この記事は『エキスパートナース』2016年2月号特集を再構成したものです。
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