外来でのインスリン導入。しかし高血糖状態・体重増加は続く

 私はAさん夫婦の希望と、“Aさんの心理状態では夫と離れての入院生活は困難と考えられる”ということを医師へ伝え、外来でのインスリン療法が開始されました。

 指導の際、Aさんに注射器に針をつけてもらいましたが、手の動きが緩慢でうまくつけることができず、Aさん自身も“自分の体に針を刺すのは怖い”と言い、インスリン注射を自分ですることを拒否されました。

 そこでご主人にインスリン注射の手技指導を行いました。指導の間も、Aさん自身は興味を示されず、注射から目を逸らし、眠たい様子でうつらうつらされていました。

 このように外来受診による1日2回のインスリン注射療法が開始され、ご主人は毎日のインスリン注射と血糖値の測定を欠かさずにAさんに実施されました。しかし、血糖値はなかなか下がらず、Aさんの体重はどんどん増加していきました。

 血糖値が改善しない原因として、間食が多いという問題がありました。しかし、Aさんに間食を控えるように説明しても、なかなか改善されない状況でした。

 私は、これまでのAさんの状況から、Aさんは自分の身体の状況に関心がないので、説明だけでは、Aさんの行動が変わることは難しいのではないかと考えました。 そこでAさん自身が自分の身体に関心をもつことができるように支援することを始めました。

フットケアの継続で起こった変化

 Aさんの足には爪肥厚があり、神経障害からの下肢痛も訴えていました。自分の身体への関心をもつための支援として、私が直接Aさんの身体に触れることではたらきかける“フットケア”を行うこととしました。

 私はフットケアの時間を利用して、Aさんの手をきれいに洗い、爪を切り、伸びた髪の毛もきれいに結いました。

 Aさんに「とてもきれいになってすっきりしましたね。髪型もかわいくなって、若返りましたよ」と少し冗談を交えて伝えました。Aさんは大きな声で笑い、うれしそうにきれいになった手を触っていました。次にAさんへ、足浴や爪切りなどのフットケアを実施しました。

 私は、ケアが終了したあとにAさんに、ケアした部分に触れて確認するように促し、「きれいになりましたね。どうですか?」と問いかけました。このようなフットケアを月に一度、半年ほど継続しました。

 7回目のケアのとき、Aさんから「お父さんに毎日注射してもらっているけど、なかなか血糖値が下がらない。血糖値はどうしたらよくなるの?」という質問がありました。

 私はAさんの行動変化の契機が訪れたと判断し、血糖値と間食やジュースなどの関連を説明しました。そのあとから、Aさんはジュースをお茶に変えるようになり、しだいに血糖値も改善していきました。
 私はAさんに、「Aさんが血糖値を下げたいと思ってお茶に変えられたことで、血糖値が下がりましたね」と伝え、このことを継続するように説明しました。

 Aさんからは「気をつければ、血糖値も下がるのね。お茶は続ける」という言葉が聞かれ、ご主人も「ジュースをお茶にしたのがいいみたいですね。続けるようにします」とご夫婦で血糖コントロールに取り組まれるようになり、血糖値も安定しました。

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この記事は『エキスパートナース』2016年10月号特集を再構成したものです。
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