エンド・オブ・ライフをチームで支える

1)意思決定支援

 その翌日、Aさん自身に現状と今後の治療について、急変時にどのような救命措置を希望するかについて説明をしました。

 Aさんの心理的負担が強くならないように、兄家族の返事の内容について伝えながら、急変時対応については決断をすぐにしなくてもいいことを説明しました。
 Aさんの意思決定ができるまでは兄家族の代理意思決定が適切であると判断し、医療者間で共有しました。

 その後、心不全は軽快し、一般病棟に転床しました。主治医とAさんは話し合い、侵襲的な治療はせず、退院後は兄家族の元に転居する予定にしていました。Aさんは定期的に兄家族と連絡を取り合っていました。

 1か月が経過したころ、退院の日にちは決まっていましたが、食欲不振と意欲低下がありました。食事や水分摂取ができなくなり、内服困難になったことから、再度、低心拍出量症候群になり、CCUへ入室することになりました。

 主治医からAさんには、心臓のポンプ機能が徐々に落ちており、CCUに入れば今度は退室できないかもしれないと説明がされました。Aさんは納得のうえ、CCUへの入室を希望しました。

 入室後、前回と同様に肺動脈カテーテルを挿入し、強心薬と硝酸薬を開始しました。Aさんと話をしたうえで兄家族に連絡をとり、DNARの方針になりました。

2)医療チームの合意形成支援

 患者さんの治療と看護ケアの方針については、複数にわたって主治医と受け持ち看護師、リーダー看護師とで話し合い、医療チームで合意ができるように調整しました。

 薬物治療は限界まで行っていること、CRT(心臓再同期療法)は現状では手術リスクが高くてできないこと、年齢的に心臓移植の適応はないこと、末期心不全であり補助循環装置の装着の適応はないことを医療チームで共有しました。

 その結果、基本的な方針として、患者さんのQOLを重視し、患者さんの希望に沿った治療と看護ケアを行うことにしました。

3)苦痛緩和

 胃管を挿入しましたが、不快感が強く、Aさんの意向で抜去しました。

 呼吸困難症状が出現したため、Aさんと兄家族の同意のもと、モルヒネの持続投与を開始しました。しかし、モルヒネ開始の翌日にはせん妄症状が出現し、危険行為が増えました。主治医に相談し、鎮静薬としてデクスメデトミジンを開始しました。

 兄家族はAさんのことをとても気にかけており、週末には来院できるという返事がありました。主治医と検討し、来院までは極力、言葉が交わせるように調整をすることとし、看護師間で情報共有をしました。

 また、看護師が鎮痛と鎮静の調整に迷いを感じていたため、Aさんの呼吸困難とせん妄の症状の違い・薬剤の調整方法を電子カルテ上に記載し、判断に困らないようにしました。 週末の兄家族の来院まではモルヒネで呼吸困難症状を緩和し、せん妄の危険行為に対しては最小限の鎮静薬を使用することができました。