この春に発売された新刊書籍『看護のピンチ』(道又元裕編集、照林社発行)は、現場でよく見られるピンチの場面を振り返って、何をどうすればトラブルを防ぐことができたのか、予見と防止のポイントと鉄則を示した1冊です。これから看護業務が本格化していく新人ナースに、久々に病棟復帰した方に、すぐに役立つ内容になっています。

 今回、特別に試し読み記事を公開しました!全5本の記事を順次公開していきますので、ぜひ、この機会に読んでみてください!

 今回のピンチは…せん妄患者が、脳室ドレーンを自己抜去した!

 脳室ドレーン挿入の目的は、脳室に貯留した髄液を外部に排出し、脳室の拡大を防ぎ頭蓋内圧亢進を予防することです。脳室ドレナージ管理は、生命の維持には大変重要です。術後はせん妄によるドレーンやルート類の自己抜去などが起こりやすくなるため、せん妄のリスクをアセスメントする必要があります。

起こった状況

 70歳代、女性、Aさん。くも膜下出血術後にて脳室ドレーンが挿入されICUに入室しています。術後2日目、鎮静薬を中止し気管挿管チューブは抜去されました。脳室ドレーンの他、さまざまなチューブ類が挿入されています。意識レベルはGCS:E3V3M5となり、声かけにはつじつまが合わず、頭を持ち上げる動作も増えていました。準夜勤務に入って間もなく、Aさんはベッド上で座位になり、脳室ドレーンを抜いてしまいました。

どうしてそうなった?

 半覚醒したAさんにはたくさんのチューブが挿入されており、環境の把握もできない状況であると考えられました。覚醒リズムの障害や注意障害によるせん妄が起こるリスクが高い状態です。ベッド上の活動が徐々に増えてきた時点で、ルート類の自己抜去につながらないような対策はとられていませんでした。

どう切り抜ける?

1.患者さんの安全を確保する

 環境の把握ができない患者さんは、予期せぬ行動を起こすことがあります。転倒・転落やその他のルート類の抜去、損傷などの危険があり、看護師はその場を離れず人員を確保する必要があります。
同時にベッド周囲の環境整備を行い、患者さんの安全を確保します。看護師の行動が逆に患者さんの興奮を招いてしまう恐れもあるため、対応は落ち着いた態度と声かけを行い、即座に医師に報告し対応を依頼します。

2.ドレーン挿入部への対応と抜去されたドレーンの観察

 ドレーンが抜去された創部は、外部と脳室が交通されています。即座に消毒し滅菌ガーゼで覆い、さらにフィルム材で覆い、創部と脳内の感染を予防します。医師が到着したら創部を縫合します。抜去されたドレーンのカテ先や破損の有無を確認し、脳内からすべて抜去されているかの確認をします。もしも、カテ先が脳内に残ってしまった状態となれば、再開頭術が必要となってしまいます。

3.ベッドを水平にし、安静を保つ

 ベッドを水平にし、頭蓋内圧を高めに維持し、逆行性感染を予防します。頭を持ち上げず、安静が保てるように整え、バイタルサイン、神経所見の観察をします。

4.頭蓋内圧亢進の観察

 脳室ドレーン抜去後は、頭蓋内圧亢進症状の出現が予測されます。自覚症状としては激しい頭痛や悪心・嘔吐、他覚症状としては意識レベル低下や、クッシング現象(血圧上昇・徐脈)、瞳孔異常、痙攣などに注意が必要です。頭蓋内圧亢進は、脳ヘルニアを起こし重篤な意識障害や命の危機に陥ります。状況によっては、再度ドレナージが必要となり、脳室ドレーンの再挿入、またはスパイナルドレナージでの管理を行うこともあります。

ピンチを切り抜ける鉄則

 脳室ドレーンの安全な管理には、術後せん妄の発症に対する早期対応がカギとなります。光や音などの環境調整や睡眠と覚醒リズムへの対応、ルート類は最小限にすることなどが重要です。また、患者さんの痛みや便秘など苦痛となる症状も取り除く必要があります。
 せん妄評価ツールを用いて、発症リスクをアセスメントし、発症時に早期対応できるように医師と連携し準備をしておきましょう。

1.小川朝生:自信が持てる!せん妄診療はじめの一歩 誰も教えてくれなかった対応と処方のコツ.羊土社,東京,2020:38-47.
3.日本脳神経看護研究学会:マンガで学ぶ脳神経疾患患者の急変対応33場面.ブレインナーシング.メディカ出版,大阪,2022:191-194.

【起こった状況 どうしてそうなった? どう切り抜ける】 3つのポイントで現場の『ヒヤリ』を切り抜けよう! 看護のピンチ

看護のピンチ
道又元裕 編
B5・176ページ・定価 2,750円(税込)