この春に発売された新刊書籍『看護のピンチ』(道又元裕編集、照林社発行)は、現場でよく見られるピンチの場面を振り返って、何をどうすればトラブルを防ぐことができたのか、予見と防止のポイントと鉄則を示した1冊です。これから看護業務が本格化していく新人ナースに、久々に病棟復帰した方に、すぐに役立つ内容になっています。

 今回、特別に試し読み記事を公開しました!全5本の記事を順次公開していきますので、ぜひ、この機会に読んでみてください!

 今回のピンチは…体位調整したら、急に血圧が低下した!

 ケアを行うときには、さまざまな要因によって起こる「生体内の恒常性を乱す事象」をアセスメントすることが重要です。特に、集中治療室などで高度な侵襲を受けた患者さんには、いっそうの注意が必要です。

起こった状況

 85歳の患者Aさん。食道がん術後2日目に集中治療室から一般病棟へ退出しました。集中治療室で
リハビリ中に気分不良となり、離床を延期した経緯があります。一般病棟へ退出後、痛みで寝返りがで
きないため、介助で右側臥位をとっていました。その際、気分不良の訴えと血圧低下がありました。

どうしてそうなった?

 解剖学的に、右側臥位では重力の影響により、肺や心臓の重さが上下大静脈に加わり、血管や右房を圧迫する場合があります。それにより心臓に戻ってくる血液量が低下するために血圧が低下する可能性があります。このような状況下での血圧低下は、カテコラミン投与中や脱水傾向の患者さんで起こりやすいと言われています。

 ショックは言うまでもないですが、脱水、特に高度な侵襲を受けた患者さんには注意が必要です。高度な侵襲を受けた患者さんは、身体の生体反応として血管透過性が亢進します。血管内の水分が血管外に滲出した状態であり、血管内は脱水となります。血圧が低下したのは、この脱水状況下での右側臥位と考えられます。

どう切り抜ける?

1.患者さんの状況を把握する

 患者さんが、侵襲度の高い刺激を受けていないかどうかを確認します。手術は生体の内部環境を乱す外部からの刺激となります。手術の種類によっても侵襲度は変わってきます。そのため、受け持つ患者さんの侵襲度がどの程度なのかを確認しましょう。また、手術による侵襲以外に、外傷、熱傷、出血、中毒、感染、脱水、強い痛みなどがあります。最も身体に影響を及ぼす侵襲は、ショックです。

2.侵襲度の高い刺激を受けている患者さんのケアは慎重に行う

 侵襲を受けた患者さんは、生体反応により、恒常性を保とうしています。侵襲が高いと生体反応によって酸素の供給と需要のバランスを保つことが難しくなります。そのため、看護ケアは「酸素供給を低下させない」「酸素需要を増加させない」ようにする必要があります。つまり、血圧低下や交感神経を急激過度に刺激するようなケアを避ける必要があります。

 高い侵襲刺激を受けている患者さんは、側臥位になるだけでも血圧が低下します。この血圧低下により酸素供給は低下するので、このような患者さんに対する体位調整は、あえて除圧のみにすることを考慮します。体位調整を行うのであれば、患者さんの負担を最小限にするために数人でゆっくり行いましょう。

 また、身体がずれたり、ねじれたりし、患者さんが不快に思う体位は交感神経を刺激し、酸素需要を増加させます。患者さんが楽と思う体位に調整できるように配慮しましょう。

 体位変換以外にも不要な気道吸引を避ける、保清ケアは寒冷刺激を避ける、痛みのコントロール、睡眠コントロール、せん妄予防など交感神経を刺激しないようにケアを行っていくことが肝要です。

ピンチを切り抜ける鉄則

 体位調整だけでなく、看護ケアを行う際には、患者さんの既往と現在受けている侵襲度をアセスメントし、その状況に応じて慎重に行うことが必要です。時には、ケアを行わない、あるいは最小限にするという判断をすることも大切な選択であることを認識しましょう。可能な限り、患者さんの苦痛を低減するケアを行うことが重要です。

1.星野晴彦,櫻本秀明:体位で血圧は容易に変化するのか?.ICNR 2015:25-29.
2.道又元裕:みる・聞く・読むで楽に学べる 道又元裕のショックと侵襲の講義 実況中継.Gakken, 東京,2016.

【起こった状況 どうしてそうなった? どう切り抜ける】 3つのポイントで現場の『ヒヤリ』を切り抜けよう! 看護のピンチ

看護のピンチ
道又元裕 編
B5・176ページ・定価 2,750円(税込)