9月に発売された『自立と生活機能を支える 高齢者ケア超実践ガイド』(前田圭介、永野彩乃 編、照林社発行)では、高齢者が直面する機能変化にスポットを当て、適切な評価とケアの方向性を解説。高齢者ケアにかかわるすべての専門職が活用できるガイドブックです。
今回は特別に試し読み記事を公開!テーマは「フレイルのケア」です。
*
フレイルのケアとして、栄養と運動の複合的介入、社会参加の2つの視点が挙げられます。本項では、看護師が高齢者ケアをすぐに実践で活用できるように、栄養と運動の複合的介入と社会参加の概要と具体策について解説します。
身体的フレイルに対する栄養と運動の複合的介入
高齢者が身体機能、社会参加、QOL(quality of life:生活の質)を高い状態に保つために、栄養と運動の複合的介入が推奨されています1)。運動に加えて、経口栄養補助食品を摂取することによって、身体的機能を改善させることが報告されています1)。複合的介入が重要である理由は、運動を伴わない栄養補給は、筋力や身体的フレイルを改善しないことが挙げられます1, 2)。
①栄養介入とケア
栄養のケアでは、低栄養是正の視点が大切です。成人とは異なり、高齢者では加齢・低栄養・炎症によって、代謝バランスが筋肉を分解する生理的機能(異化)に傾き、筋肉量の減少が起こり続けてしまうからです。したがって、栄養の枯渇を防ぐことと、補給することがケアの目標となります。
まず、栄養の枯渇を防ぐケアでは、不要な禁食(絶食)を避け、患者個別の1日の目標エネルギー量を基準として、食事摂取量の正確な記録とモニタリングをすることが大切です。もし患者さんが継続的に1日に必要な栄養量を満たせない場合には、管理栄養士および多職種チームへ相談することによって、不十分な摂取の原因を評価し、問題点を探索する手がかりになります。
次に、栄養補給のケアでは、筋肉量獲得のため体重増加が目標となりますが、目標エネルギー量に注意が必要です。例えば、体重を1kg増やす目安は、成人では7,500kcal必要である一方、高齢者では8,800~22,600kcalが必要です2)。高齢者を例とすると、これを30日間で割り、1日当たり290~750kcalとなることから、1日必要エネルギー量+290~750kcalが、目標エネルギー摂取量となります。エネルギーアップの方法はさまざまですが、栄養補助食品(アイソカル®、クリミール、テルミール、リハたいむゼリー、など)の追加などが候補として挙げられます。栄養補助食品の形態はさまざまであり、患者さんの嗜好の観察や管理栄養士との相談が大切です。
特に、食事摂取において重要な栄養素は、タンパク質です。一般的に高齢者に推奨されるタンパク質摂取量は1日当たり0.8~1.2g/kgとされています2)。タンパク質は量だけでなく、質も重要です。良質なタンパク質の1つである、分岐鎖アミノ酸(branched chain aminoacid:BCAA)を積極的に摂取することによって、骨格筋の減少を抑制でき、運動によって骨格筋合成を促進します。例えば、BCAAは肉類、乳製品、レバーなどに多く含まれます。
その他の栄養ケアの具体策として、日々のケアの中で、入院前の食生活や患者自身の嗜好や提供形態への思いを聴取することもよい手がかりになります。この情報によって、可能な範囲で患者さんの嗜好に合わせた食事を提供したり、より栄養価の高い食品の提供を検討したりできます(図1)。また、口腔内環境を観察し、義歯不適合や咀嚼力の低下があれば、適切な食形態を選択することもできます。



②運動介入とケア
運動のケアでは、必要以上の安静を避けること、運動療法への参加を促すことが大切です。例えば、安静1日当たりに筋肉量・筋力が2%低下すると、これらを元の状態に改善させるためには安静時間の2倍の訓練時間を要することが報告されており3)、運動療法の具体では多因子要素運動プログラム(レジスタンス運動、バランストレーニング、機能的トレーニングの組み合わせ)が推奨されています 1)。
注意点としては、十分な栄養補給がされていない中で運動のみ実施すると、エネルギーとタンパク質を補うために骨格筋を分解(異化)する一方で、運動が不十分であると骨格筋合成(同化)刺激ができないことが挙げられます。こういった背景から、栄養と運動の複合的な介入が推奨されています1)。
リハビリテーション専門職に任せるだけではなく、検温の際に患者さんの状態をみながら、離床や下肢のレジスタンス運動を、患者さんにとって無理のない範囲で行うことも大切です(図2)。


社会的フレイルに対する社会参加
高齢者にとって、「外出」や「交流」などの社会参加は大切である一方で、現状は十分行われているとはいえません。令和5年度高齢社会白書によると、高齢者のうち、社会活動に参加したことがない割合は約5割と多い傾向であることが示されています。社会参加による有用性について、運動と栄養の複合的介入を、教室参加型で行った高齢者は、自宅で行った高齢者と比較して、身体機能が改善したことが示されています4)。
地域包括支援センターのケアマネジャーもしくは市町村の保健師との連携も手がかりになります(ただし、市町村によりシステムに差があります)。この理由は、介護保険法に基づいて、地域包括ケアシステムの実現に向けて、一般介護予防事業が市町村単位で取り組まれていることが挙げられます。この事業には、地域の通いの場となるコミュニティカフェや支え合い活動が含まれており、ケアマネジャーもしくは保健師は患者さんの住所から適切な場所に関する情報をもっている可能性が高いです。
これらへの参加勧奨によって、患者さんの社会参加を促進できる可能性があり、高齢者が退院した後でも、身体構造や心身機能、活動低下のリスクを低減できることが期待されます。病院で働く看護師が直接的にケアできる範囲とはいえませんが、市町村と連携することによってフレイルを改善する機会になるかもしれません。
- 1)Satake S, Arai H. Special issue: Clinical guide for frailty.Geriatr Gerontol Int 2020; 20 (Suppl S1): 1-37.
2)Nakahara S, Takasaki M, Abe S, et al. Aggressive nutrition therapy in malnutrition and sarcopenia.Nutrition 2021; 84: 111109.
3)Vigelsø A, Gram M, Wiuff C, et al. Six weeks’ aerobic retraining after two weeks’ immobilization restores leg lean mass and aerobic capacity but does not fully rehabilitate leg strength in young and older men.J Rehabil Med 2015; 47: 552-560.
4)Watanabe Y, Yamada Y, Yoshida T, et al. Comprehensive geriatric intervention in community-dwelling older adults: a cluster-randomized controlled trial.J Cachexia Sarcopenia Muscle 2020; 11: 26-37.

自立と生活機能を支える
高齢者ケア超実践ガイド
前田啓介、永野彩乃 編
B5・304ページ、定価:3,850円(税込)
照林社
当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載および複製等の行為を禁じます。
そのほかの試し読み記事
高齢者の歩行・移動、ADL低下に対するケアのポイント
高齢者の転倒リスク評価のポイント:転倒の要因と評価方法
高齢者の転倒予防ケアのポイント:転倒後の観察項目とケアの具体例
高齢者の口腔ケアのポイント:義歯の管理とケアの実際