②運動介入とケア

 運動のケアでは、必要以上の安静を避けること、運動療法への参加を促すことが大切です。例えば、安静1日当たりに筋肉量・筋力が2%低下すると、これらを元の状態に改善させるためには安静時間の2倍の訓練時間を要することが報告されており3)、運動療法の具体では多因子要素運動プログラム(レジスタンス運動、バランストレーニング、機能的トレーニングの組み合わせ)が推奨されています 1)

 注意点としては、十分な栄養補給がされていない中で運動のみ実施すると、エネルギーとタンパク質を補うために骨格筋を分解(異化)する一方で、運動が不十分であると骨格筋合成(同化)刺激ができないことが挙げられます。こういった背景から、栄養と運動の複合的な介入が推奨されています1)

 リハビリテーション専門職に任せるだけではなく、検温の際に患者さんの状態をみながら、離床や下肢のレジスタンス運動を、患者さんにとって無理のない範囲で行うことも大切です(図2)。

図2 看護師が入院中にベッドサイドでできる運動ケア

社会的フレイルに対する社会参加

 高齢者にとって、「外出」や「交流」などの社会参加は大切である一方で、現状は十分行われているとはいえません。令和5年度高齢社会白書によると、高齢者のうち、社会活動に参加したことがない割合は約5割と多い傾向であることが示されています。社会参加による有用性について、運動と栄養の複合的介入を、教室参加型で行った高齢者は、自宅で行った高齢者と比較して、身体機能が改善したことが示されています4)

 地域包括支援センターのケアマネジャーもしくは市町村の保健師との連携も手がかりになります(ただし、市町村によりシステムに差があります)。この理由は、介護保険法に基づいて、地域包括ケアシステムの実現に向けて、一般介護予防事業が市町村単位で取り組まれていることが挙げられます。この事業には、地域の通いの場となるコミュニティカフェや支え合い活動が含まれており、ケアマネジャーもしくは保健師は患者さんの住所から適切な場所に関する情報をもっている可能性が高いです。

 これらへの参加勧奨によって、患者さんの社会参加を促進できる可能性があり、高齢者が退院した後でも、身体構造や心身機能、活動低下のリスクを低減できることが期待されます。病院で働く看護師が直接的にケアできる範囲とはいえませんが、市町村と連携することによってフレイルを改善する機会になるかもしれません。

1)Satake S, Arai H. Special issue: Clinical guide for frailty.Geriatr Gerontol Int 2020; 20 (Suppl S1): 1-37.
2)Nakahara S, Takasaki M, Abe S, et al. Aggressive nutrition therapy in malnutrition and sarcopenia.Nutrition 2021; 84: 111109.
3)Vigelsø A, Gram M, Wiuff C, et al. Six weeks’ aerobic retraining after two weeks’ immobilization restores leg lean mass and aerobic capacity but does not fully rehabilitate leg strength in young and older men.J Rehabil Med 2015; 47: 552-560.
4)Watanabe Y, Yamada Y, Yoshida T, et al. Comprehensive geriatric intervention in community-dwelling older adults: a cluster-randomized controlled trial.J Cachexia Sarcopenia Muscle 2020; 11: 26-37.

高齢者の歩行・移動、ADL低下に対するケアのポイント

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