2024年4月から新しくなった「災害支援ナース」の制度。どんな目的で、どのように変わったのでしょうか。災害支援ナースの役割、しくみ、養成研修などについて紹介します。

POINT1

新制度におけるしくみの変更
●新たな制度下では自然災害発生時のほか、 新興感染症が発生・まん延した被災地に派遣される
●新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生時の経験をふまえ、 迅速に看護職員を確保できる体制の整備を行った

災害支援ナースの役割が明確化

 2024年4月1日より、改正医療法に基づいて災害支援ナースの登録・派遣体制が変わりました。改正事項のなかで最も重要視されているのが、災害時の医療従事者の確保です。今まで法令等の根拠がなかった応援派遣のしくみが、本改正により迅速に調整できるように整備されました1

 災害支援ナースとは、厚生労働省医政局が実施する災害支援ナース養成研修を修了し、厚生労働省医政局に登録された看護師の総称を指します。災害支援ナースは、被災した看護職の心身の負担を軽減し支えるよう努めるとともに、被災者の健康が維持できるように、被災地での適切な医療、看護を提供する役割を担います2。具体的には、被災者の体調管理や感染症予防などの環境調整、服薬に関する指導や助言などを他職種と連携しながら行い、心に寄り添うケアができるように支援します。

 新たな災害支援ナースは、DMAT*1DPAT*2と同様に「災害・感染症医療業務従事者*3」として位置づけられ、自然災害だけではなく、新興感染症が発生・まん延した被災地にも派遣されます。

*1【DMAT】disaster medical assistance team:災害派遣医療チーム
*2【DPAT】disaster psychiatric assistance team:災害派遣精神医療チーム
*3【災害・感染症医療業務従事者】厚生労働省令で定める基準を満たした医療従事者を指す。ここでの基準とは、厚生労働大臣から委託を受けた者が実施する、災害などに関連する研修を修了していることなどが挙げられる。改正医療法(令和 4年改正、令和6年4月1日施行のもの)を根拠とし、国が養成・登録する人材として位置づけられる。

COVID-19の経験をふまえ、 しくみが更新された

 今までの災害支援ナースによる応援派遣は、日本看護協会が主体となり活動していました。ただし、応援派遣時の法令などの根拠がなく、ボランティア活動として位置づけられていたため、手当の支給や事故にあった際などの補償が不明確な場合が多く、活動上の課題となっていました。

 そのようななか、2020年1月に国内ではじめて新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が発生、その後全国的に感染が拡大して医療機関が逼迫・マンパワー不足となり、医療職のほとんどが疲弊しながら働いていました。こうしたCOVID-19に関する状況下での取り組みをふまえ、2022年12月に感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)が改正されました(「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律等の一部を改正する法律」〈令和4年法律第96号〉として公布、施行)。

 以上の経緯から、従来の災害支援時の応援派遣に加え、新興感染症発生時にも対応できる看護職員を養成し、有事の場合、迅速な看護職員等の確保を図るための体制整備の一環として、災害支援ナース制度の登録・派遣体制が更新されました3

POINT2

災害支援ナースとして活動するために必要な手順
●従来はボランティア等、 各施設が決めた形態で災害支援活動に従事していたが、 新制度では形態統一され、 業務の一環として派遣元の看護職員として従事する
●養成講習の修了者をリスト化し、 災害発生時に迅速に看護職者を派遣できるしくみがつくられた

都道府県内派遣を原則としつつ、 場合により都道府県外派遣も実施

 災害支援ナースの派遣の基本的な考え方としては、被災地などが属する都道府県内で活動すること(都道府県内派遣)が基本となります。ただし、都道府県を超えた協力が必要な場合には、他の都道府県において活動します(都道府県外派遣4

 2024年4月から開始となった災害支援ナースのしくみを表1に示します。特に派遣形態や経費について大きく変更されました。派遣の対象に新興感染症が加わったほか、養成・登録の機関が国になったことなども大きな変更点です。

表1 災害支援ナースのしくみの主な変更点

災害支援ナースのしくみの主な変更点
(文献5より一部改変して引用)

災害支援ナース養成研修の受講手順

1.受講対象

 災害および新興感染症の発生時に他の医療機関などに応援派遣され、災害支援看護業務および新興感染症支援看護業務に従事することをめざす看護師が対象となります6新たな災害支援ナース養成研修の受講を希望する場合、所属長の推薦が必要です。また、これまでに災害支援ナースとして登録された人が、「災害・感染症医療従事者」としての活動を希望する場合は、現行の災害支援ナース養成研修を受講する必要があります(一部免除、表2参照)1,6,7,8

表2 研修の構成

研修の構成
(文献1,6,7,8を参考に作成)

2.災害支援ナース養成研修の目的と構成

 研修は、「災害・感染症等に関する基礎知識・技術を習得する」「応援派遣の概要を理解し、研修修了者として実際の派遣時に対応できる技能を習得する」ことを目的としています9

 研修の構成は、表2に示すとおりです。総論(A)は、災害支援ナースの土台となる学習のため、研修生全員の受講が必要になります。また、災害各論(B)、感染症各論(C)は、表2に示すとおり一部免除される場合もあります。指定されたオンデマンド研修をすべて受講した後は、各都道府県看護協会で講義と災害演習・感染症演習(D)の集合研修を受講することになります1,6,8

3.災害支援ナース養成研修修了者のリスト管理

 新制度では迅速に看護職を派遣できるよう、研修修了者をリスト化し、発災時に以下のような手順で看護職が派遣できるしくみになっています。指定されたオンデマンド研修および集合研修を修了した看護職を「養成研修修了者」とします。各都道府県看護協会が養成研修修了者リストを作成し、それを都
道府県に提出します。次に、厚生労働大臣が研修を修了した者を災害・感染症医療業務従事者として登録します。

 最後に、都道府県が医療機関と看護職員の応援派遣を含めた協定を締結します。これで、都道府県が養成研修修了者のリストから協定締結医療機関実務を委託できることになります10
 この流れをまとめると、図1のような流れになります8,11

図1 自然災害・感染症支援にかかわる看護職の応援派遣体制の概要

自然災害・感染症支援にかかわる看護職の応援派遣体制の概要
(文献6を参考に作成)

岩手県看護協会での災害支援ナース養成研修の実際

 岩手県看護協会では、2024年3月までに77名の看護職が研修を受講し、演習は2回(11月・2月)に分散し実施しました。参加者の所属先は、病院だけではなく、訪問看護事業所、高齢者施設、クリニックなどさまざまでした。

 1日目は、演習前に「岩手県における災害・感染症にかかわる応援派遣時の看護支援活動」の実際について、災害時地域医療支援教育センター・センター長の真瀬智彦先生から講義をしていただきました。その後、当協会の防災・災害看護委員が講師となり、救護班として出動するときの支援者としての心構えや、派遣決定から出発までの自己完結型の看護をめざすためのグループワークを行いました。2日目は、集中治療管理として呼吸管理や体位変換によるドレナージなどの演習を行い、また、在宅を想定したPPE(個人用防護服)の着脱、ゾーニング、ポジショニング、口腔ケア、看取りなどの演習を行いました(図2)。

図2 災害支援ナース養成研修の実際の様子

研修1
県内の災害時の実態と課題に関する講習
研修2
レスピレータ装着時の呼吸管理演習
研修3
在宅におけるPPE装着と口腔ケアの演習
研修4
ポジショニングの方法についての演習

 研修参加者の施設背景はさまざまでしたが、本研修では演習を通して幅広い専門的知識・技術を身につけることができ、今回、学んだことを他の医療機関で活かすことができます。研修に参加することで看護師としてのやりがいや自信をもつことができ、モチベーションの向上にもつながると思います。今後も、多くの方が受講されることを期待しています。

1.厚生労働省:令和5年度第2回医療政策研修会及び第1回地域医療構想アドバイザー会議 災害支援ナースについて.
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001146146.pdf(2025.4.15アクセス)
2.日本看護協会:災害支援ナースの活動.
https://www.nurse.or.jp/nursing/kikikanri/reconstruction/shiennurse/index.html(2025.4.15アクセス)
3.日本看護協会:災害・新興感染症に対応する 新たな災害支援ナース.看護 2023;75(9):30.
4.前掲書3:28.
5.日本看護協会:協会ニュース2023年10月号 新たな災害支援ナースの活動に向け、国から活動要領などが発出.
https://www.nurse.or.jp/home/about/kyokainews/2023_10.html(2025.4.15アクセス)
6.日本看護協会:協会ニュース2023年3月号 新たな災害支援ナース始まる 感染症発生時の派遣、 養成・登録の仕組みも法制化.
https://www.nurse.or.jp/home/about/kyokainews/2023_03_01.html(2025.4.15アクセス)
7.東京都看護協会:新たな災害支援ナース養成研修に関する変更点(要点).
https://www.tna.or.jp/wp-content/uploads/2023/08/eca8fcff712e3bfbddcf44367243b79b.pdf(2025.4.15アクセス)
8.前掲書3:35.
9.日本看護協会:新型コロナなど新興感染症等に係る看護職員等確保事業 災害支援ナース養成研修 プログラム.
https://www.nurse.or.jp/nursing/training/assets/info/disasteraid-program.pdf?ver=3(2025.4.15アクセス)
10.前掲書1:6,20.
11.前掲書3:34.

※この記事は『エキスパートナース』2024年7月号連載を再構成したものです。当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載および複製等の行為を禁じます。