基準を満たすかどうかではなく、その人に合った生活のヒントを

 発達障害は、自分の得意なことで活躍していく人もいます。二次障害や生きにくさが出なければ問題ありませんので、置かれている状況や環境との相性で大きく困りごとが変わるとも言えます。

 この言い方は、「しんどいのはすべて環境の責任だ、まわりが悪い」という誤解を生む可能性があるので、そうではないとお伝えしておきます。

 病名の有無にかかわらず、環境に慣れていくようにしつつ(本人因子への対応)、より相性がよい環境を探すこと(環境因子への対応)をしていきましょう。

 発達障害は得手不得手があり、ASD(自閉スペクトラム症)は危険が伴わない技術系・専門知識系に相性がよいことが多く、ADHDは日々単調にならないクリエイティブな業務に相性のよいことが多いです。とはいえ、本人の興味具合で相性がまったく合わない場合もあるため、断定できない部分が大きいです。

 ですから、発達障害の基準を満たすか満たさないか自体はさほど重要ではないため、私は日常で発達障害の人向けの生活のヒントを、発達障害でない人にも伝えています。 発達障害の人向けの生活のヒントは、不器用な人でもできるようになるヒントでもあるからです。

 「ウチの子は勉強に集中できないので発達障害ではないだろうか」と心配して受診される方がいます。ADHDなら治療薬がありますが、そうでないと治療薬は使えません。

 一方で、発達障害の人に有用なヒントはどのような人にも使えます。発達障害であろうがなかろうが、どんどんヒントを活用して人生を豊かにしていけばよいと思います。

 例えば、パーカーのフードを被ると左右の視界が遮られて目の前のことに集中でき、勉強がはかどるADHDの人がいますが、こういうヒントはADHDではない人でも利用できます。

 もし、ご自身の子どもが発達障害ではないかと疑っている人がいらっしゃれば、「ウチの子は発達障害とは診断されていないので発達障害の本なんて読みたくない」というのではなく、ぜひ発達障害にかかわる知識を増やして、よいところ・よい方法を取り入れていくことをおすすめします。

 また、医師はよく病気をベースに見てしまいがちになりますが、人そのものを見ることに長けている看護師は、特性という枠にとらわれず、その人そのものをみて支援できる方が多いかもしれません。
その人が「ある病名そのもの」ではなく、 「その人の一部にその病気をもっているという部分がある」だけなのです。 発達障害という枠をいったん外して、その人に何が今必要かを考えて支援を進めてみてください

診断・病名は治療薬の決定のために大切なもの

 「うつ病」「躁うつ病」「適応障害」の薬物療法は、診断に基づき適切な治療を行うことが必要です。
 一方で、これらの精神療法や心理的アプローチについては、基本的にどの疾患でも共通した対応で問題はありません。代表的なものが共感・傾聴を軸とした支持的精神療法や、認知行動療法などです。

 診察当初では「適応障害」と診断していたものが、うつ病の診断基準を満たし、「うつ病」になる場合もあります。「うつ病」と診断していたものが、躁状態が出現して「躁うつ病」になる場合もあります。

 精神疾患の薬物療法は根治薬というものが存在せず、内服をしたからといってウイルスが消えるように疾患が消失するわけではありません。

 例えば、うつ病は一度よくなってから再発せず一生を過ごされる人もたくさんいますが、再発緩解を繰り返す場合もあります。よくなってからも内服を継続するのは、治療薬を飲みながら再発を抑えるという考え方のためです。

 内服の継続が必要な代表的なものは、双極性障害や統合失調症です。 診断・病名は治療薬を決定するのに大切なものになってきます。