代表的な意識変容である「せん妄」。その症状・徴候、メカニズム、鑑別のポイント、対応方法について、看護師が知っておきたいポイントを紹介します。
意識障害の一部としての意識変容(せん妄が代表的)
(生命の危機状態のサインであることに気づこう!)
●意識変容の有無
●せん妄の原因(直接因子、準備因子、促進〈誘発〉因子)
●せん妄スクリーニングツール(CAM など)
↓気づきたいポイント
●そわそわしていて落ち着きがない、不穏状態
●すぐにチューブ類を触り、注意を保てない
●失見当識や幻覚・妄想が出現した
●会話や思考にまとまりがなく、一貫性がない
●興奮→傾眠など、症状が変化する
意識変容の症状・徴候は?
意識混濁が「意識の覚醒(清明度)」という“量的”な変化であるのに対し、意識変容は意識の“質的”な変化とされ、さまざまな程度の意識混濁の背景のうえに、落ち着きのなさ(不穏)・興奮・幻覚・妄想などの認知・言語・行動・感情の異常が加わった状態とされます。
注意すべき点として、意識変容では、ある程度意識レベルがある状態で生じることに加え、患者が過活動となることがあるために比較的軽症と判断されがちですが、意識混濁と同様に意識障害の一型には違いなく、生命危機の徴候と同義として認識する必要があります。実際に筆者の施設では、急変して心肺停止に至った患者の約半数が、急変前に意識変容を生じていました。意識変容に気づいた際には、必ず意識障害の原因となる全身状態の悪化がないか観察し、適切に対応していくことが重要です。
意識変容は一般的に、「せん妄」「もうろう状態」「アメンチア」「夢幻状態」などに分類されます。なかでもせん妄は最も代表的な意識変容であり、予定手術患者の43%に発生するという報告1もあります。そのため、本記事ではせん妄について解説していきます。
せん妄の事例
●70代女性。胃切除術後3日目。術後肺炎のため、経鼻酸素を2L/分投与中
●訪室すると、鼻カニューレを外していた
●そわそわして落ち着かず、説明しても「家に帰る」と言い、再び鼻カニューレを外してしまう
●脈拍数:120回/分(リズム整)、血圧:80/40mmHg、呼吸数:28回/分(努力性)、体温:39.0℃
事例が起こったのはなぜ?
■意識障害の一環としての「せん妄」の発生(“肺炎の増悪”からくる)
①意識変容の有無:CAM①~④が該当し、せん妄「あり」
②せん妄の原因のうち、「直接因子」による全身状態の悪化が原因でないかを検討する:脈拍数・呼吸数増加、血圧低下を認めており、肺炎が増悪してせん妄の直接因子となっている可能性がある
③せん妄の原因のうち、その他の要因(準備因子・促進〈誘発〉因子)はないかを検討する:準備因子として「高齢」が、促進〈誘発〉因子として「入院および手術による環境の変化」「痛み」などが関与している可能性がある
●以上のことから、肺炎の増悪が、全身状態の悪化とせん妄を発生させた可能性がある。高齢や術後の痛み、環境の変化などの因子もせん妄の原因になっている可能性がある
●せん妄の直接因子による全身状態の悪化は生命の危機状態に直結するため、肺炎の増悪の可能性に対して最優先に観察し対応する必要がある
意識変容のメカニズムは?
意識変容(せん妄)の発生メカニズムは明らかになっておらず、現在では、神経伝達物質の異常、血液脳関門の透過性変化、炎症反応の亢進、酸化代謝の減少、信号変換異常、内分泌異常などが関係していると推定され2、検討が続いています。
せん妄のメカニズムが明らかになっていない理由の1つに、せん妄は単一の要因から生じるものではないことが挙げられます。つまり、2人の患者にせん妄が発生して、その症状は同じであったとしても、“患者Aさん”と“患者Bさん”のせん妄の原因は異なり、発生メカニズムも異なる可能性があるということです。
せん妄は単一の病態を示すものではなく、複数の要因が絡み合って生じる複雑なものなのです(図1)。

せん妄の要因は?
せん妄は症状であり、せん妄の背景には必ず何らかの原因(1つとは限らず複数)が存在しています。
せん妄の原因は「直接因子」「準備因子」「促進(誘発)因子」に分類3されますが(図1参照)、これらの因子が存在しているようであれば、“せん妄が生じる可能性が高い”ということを意識して患者に接します。
せん妄の分類は?
せん妄は精神運動行動をもとに、「低活動型せん妄」「過活動型せん妄」「混合型せん妄」の 3つのサブタイプに分類されます(図1参照)。
なかでも低活動型せん妄は過活動型せん妄に比べて静かで目立たない一方で、生命予後悪化との関連が大きいことが明らかになっており1、見逃さないよう注意が必要です。
せん妄の観察のポイントは?
せん妄に気づくためには適切なスクリーニングツールを活用し観察することが重要であり、これまでにさまざまなツールの有用性が検証されています。
その一例として、Wongらはシステマティックレビュー 1において11のツールを比較し、CAM(表1)1が最も有用であると報告しています。しかし、どのツールにも一長一短があり、優劣つけがたいのが現状で、自施設の事情に合ったツールを選択することをお勧めします。
どのツールを選択するのかは重要ですが、何らかのツールを用いた観察を“習慣化する”ことのほうが、せん妄の早期発見のためには大切です。
表1 せん妄スクリーニングツール:CAM
(confusion assessment method)
①急性の発症と症状の変動
ふだんの患者の精神状態からの急激な変化はありますか?症状が出現したり消失したり、増加したり減少したりする傾向はありますか?
②注意力の欠如
患者は注意を集中させることが困難な状態にありますか?例えば、容易に気がそれたり、または話されている内容についてくることが困難な状態はありますか?
③支離滅裂な思考
まとまりのない会話や不適切な会話、不明瞭な考えや非論理的な考え、話題が急に変わるなど、整理されていない思考や一貫性のない思考はありますか?
④意識レベルの変化
患者の意識レベルが下記のように評価されますか?過覚醒、嗜眠(うとうとしているが容易に覚醒)、昏迷(覚醒困難)、昏睡(覚醒しない)
(文献1より引用、一部改変)
①+②+③が該当 または ①+②+④が該当 または ①+②+③+④が該当
→せん妄ありと判定する
せん妄の対応のポイントは?
せん妄は症状であり、せん妄の背景には必ず何らかの原因(1つとは限らず複数)が存在しています。
せん妄の原因は「直接因子」「準備因子」「促進(誘発)因子」に分類されますが(図1)、これらの因子が存在しているようであれば、せん妄が生じる可能性が高いということを意識して、 患者に接します。特に促進(誘発)因子については看護師の援助によって調整が可能なものが多く、さまざまな促進(誘発)因子の除去および低減に向けて包括的に介入することによって(下記)3、せん妄の予防が可能になることが明らかにされています2。
せん妄予防のために推奨される介入3
●意識変容に気づき対応する
・有用性の証明されたツールを用いて、せん妄や認知機能のスクリーニングを可能な限りルーチンに行う
推奨:A
●睡眠の質を高める
・非薬物的な介入(騒音の低減、照明の調整、正常な睡眠覚醒サイクルの援助)
推奨:A
●薬の副作用を最小にする
・薬の総数を少なくする。特に下記の薬は回避または慎重に使用する
(ベンゾジアゼピン系、抗コリン薬、オピオイド)
推奨:C
●電解質異常や脱水を補正する
・水分出納バランスチャートを使用して、十分な水分補給を行う
推奨:A
・生化学検査を行い、電解質異常を早期に発見する
推奨:B
●コミュニケーションや見当識を向上させる
・短い文章を使用する。場所や入院の理由、本日の予定などについて可能な限り頻繁に情報を提供する。ケアの過程に患者が参加することで、医療処置に関する情報と安心を与える
推奨:B
・時計やカレンダー、なじみのある物を可能な限り部屋に配置する。頻繁な病棟や病室の変更を避ける。一貫性のあるケアを継続的に行う
推奨:B
●感覚遮断や感覚過負荷を制限する
・視覚や聴覚障害をスクリーニングする。眼鏡や補聴器などを使用する。照明を調整する。窓のない部屋を避ける。ルーチンの気管吸引など不必要な処置を避ける
推奨:A
●身体抑制をしない
・身体抑制の基準やプロトコルを使用する
推奨:A
●離床を援助する
・不動化を回避する。ベッド上安静による弊害を説明する
推奨:A
・カテーテルや静脈ラインなどの使用を制限し、不必要なルート類をなくす
推奨:B
・早期離床の基準やプロトコルを使用する
推奨:B
・セルフケアを促し、日常の活動を向上させる
推奨:B
●術後状態の最適化
・適切な鎮痛を行う。可能であればPCA(Patient-Controlled Analgesia、患者自己調節鎮痛法)を行う
推奨:B
・術後の低血圧や低酸素血症を避ける。ヘマトクリット>30%を維持する
推奨:C
●システム上の介入を考慮する
・スタッフの教育
推奨:A
・適切なスタッフの割り当て。ガイドライン(基準やプロトコル)の作成と実施
推奨:B
・ボランティアや家族の参加
推奨:C
Grade A:メタ解析またはランダム化比較試験が存在する、あるいはランダム化されていない比較試験または前向き観察研究とエキスパート間の高いコンセンサスが存在する
Grade B:ランダム化されていない比較試験または前向き観察研究が存在する、あるいは後ろ向き観察研究または症例報告とエキスパート間の高いコンセンサスが存在する
Grade C:後ろ向き観察研究または症例報告とエキスパート間の十分なコンセンサスが存在する
(文献3より引用、一部改変)
*
しかし、せん妄の原因のなかには予測や調整が不可能な因子も多く存在するため、せん妄を完全に予防することは困難です。特にAIUEOTIPSに相当する直接因子による全身状態の悪化がせん妄の原因となっている場合が多く、せん妄の早期発見が生命の危機状態の早期発見につながることが少なくありません。だからこそ、せん妄の早期発見は非常に重要なのです。よって、せん妄に気づいた際には必ず、 全身状態を悪化させている直接因子の存在を疑い(AIUEOTIPSを用いて予測する)、前回の記事で解説した内容と同様に、全身状態の観察と対応を実施していきます。
せん妄への対応は、直接因子の観察と対応が最優先となりますが、同時に促進(誘発)因子への介入(表2)も実施していきます。また、図22に示すような薬物療法の有効性と安全性についても明らかにされています。

意識変容のうち、せん妄について主に解説しました。患者のふだんの生活を理解し、差異に気づき、その人らしい生活に少しでも近づけたいと願う援助が、せん妄患者への看護の核になると考えます。
(第4回)
- 1.Wong CL,Holroyd-Leduc J,Simel DL,et al.Does this patient have delirium?:value of bedside instruments.JAMA 2010;304(7):779-786.
2.八田耕太郎:せん妄の原因,診断,治療の原則.精神科治療学 2013;28(8):
985-990.
3.Michaud L,Bula C,Berney A,et al.Delirium:guidelines forgeneral hospitals.J Psychosom Res 2007;62(3):371-383.
- 1.Robinson TN,Raebum CD,Tran ZV,et al.Motor Subtypes of Postoperative Delirium in Older Adults.Arch Surg 2011;146(3):295-300.
2.Inouye SK, Bogardus ST Jr.,Charpentier PA,et al.A multicomponent intervention to prevent delirium in hospitalized older patients.N Engl J Med 1999;340(9):669-676.
※この記事は『エキスパートナース』2016年5月臨時増刊号を再構成したものです。本記事の無断転載を禁じます。



