DNAR指示が有効なのは心停止時のみであることを覚えておこう

 一概に医師・看護師がDNARを正しく理解していないと言い切ることはできませんが、少なくともこの調査結果を踏まえ、DNAR指示があることを理由に、患者が、病状の変化や悪化に応じた適切な治療やケアを受ける権利が奪われることのないように、私たち医療者が正しくDNARを理解したうえで、医療チームで方針を検討することが大切であると言えます。

 このように、DNAR指示のもとに、安易な治療やケアの手控えや不開始が行われることを防ぐため、日本集中治療医学会倫理委員会は、『Do Not Attempt Resuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告』(4 以下、『DNAR指示の勧告』とする)の第1項において、「DNAR指示は心停止時のみに有効である。心肺蘇生不開始以外はICU入室を含めて通常の医療・看護については別に議論すべきである」と明記しています。

「心停止時」を「急変時」にすり替えるのは危険

 さらに、「DNAR指示が出ているから急変しても治療は行わない」というテーマには、もう1つの大事な問題が含まれています。それは、「急変」が何を指すのか不明確なことです。これも臨床場面ではよく経験することではないでしょうか。

 例えば、心不全症状が増悪し、投与する酸素の量が増えてきている状況を「急変」と捉える人がいるかもしれません。または、心停止もしくはそれに近い状況を「急変」と認識している人もいるでしょう。このように、「急変」という用語は非常に曖昧な表現です。

 DNARは、心停止時のみに有効な指示であるため、ここでの急変は、「心停止」でなくてはいけません。『DNAR指示の勧告』においても、この点について、「心停止を「急変時」のような曖昧な語句にすり替えるべきではない」と注意喚起しています3

『DNAR指示の勧告』注13
 心停止を「急変時」のような曖昧な語句にすり替えるべきではない。DNAR指示のもとに心肺蘇生以外の酸素投与、気管挿管、人工呼吸器、補助循環装置、血液浄化法、昇圧薬、抗不整脈薬、抗菌薬、輸液、栄養、鎮痛・鎮静、ICU入室など、通常の医療・看護行為の不開始、差し控え、中止を自動的に行ってはいけない。

DNARの“正しい”定義

●DNARとは、心停止時に心肺蘇生を実施しないこと。
●DNAR指示が出ていても、心停止時以外は(急変時などでも)通常通り医療行為を行う。

1.日本集中治療医学会倫理委員会:日本集中治療医学会評議員施設および会員医師の蘇生不要指示に関する現状・意識調査.日集中医誌 2017;24:227-243.
2.日本集中治療医学会倫理委員会:日本集中治療医学会会員看護師の蘇生不要指示に関する現状・意識調査.日集中医誌 2017;24:244-253.
3.日本集中治療医学会倫理委員会:Do Not Attempt Resuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告.日集中医誌 2017;24:208-209.

迷う場面のDNAR指示の考え方【第2回】「DNARだからもう緩和医療にシフトしよう」は間違い!

この記事は『エキスパートナース』2017年9月号特集を再構成したものです。
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