発症前の状況をさらに詳しく聞く

 受診3日前は、近所の仲のよい友人たちと高尾山にハイキングに行き、夕方に自宅に戻ったとのことでした。高尾山登山は友人たちとの毎年の恒例行事で、本人もとても楽しんで帰ってきたようです。

 高尾山は東京郊外にある標高599mの山であり、主にハイキングに最適な場所として東京近辺の住民に気軽に利用されています。リフトを利用して標高462mまでは登ることができるため、大変な登山ではありません。高尾山の登山道は十分に整備されていて、特に森林や動物との接触はないとのことでした。

 ハイキングに行ったときは大きな問題はなかったとBさんは話していました。ハイキングには娘は同行していませんでした。ハイキングから帰ったときは娘が玄関で出迎え、そのあと夕食、入浴し就寝しましたが、帰宅後は普段と変わった様子はなかったとのことでした。

悪化し続ける経過と失禁は疲労だけでは説明できない

 本人の普段の生活を詳細に聞いたことにより、患者さんの全体像が明確になってきました。もともとは生活・文化水準も高く、快活で健康だったご婦人が、ある日を境に元気がなくなり、2日という急な経過で悪化したことになります。家族はハイキングの疲労からくる倦怠感と考えています。

 確かに、症状発症の前後に関連が疑われるものは、ハイキングくらいと考えられます。ハイキング自体は特段危険な行動でもなく、家族の言うとおり単に疲労と考えてもよいのかもしれません。

 しかし、疲労だけで2日間で一直線に悪化し続ける経過は説明がつくでしょうか。

 また、失禁をしたということも懸念されます。救急対応としては、見逃してはいけない病態をまず念頭に置くことが基本であり、病状の悪化の程度から単に疲労で片づけることは好ましくないでしょう。

 この時点では病態が仮にあったとしてもその決定的な情報はつかめなかったため、次のステップとして身体診察を行って、より判断の材料を増やすことにしました。

頼れるナースはここに気づく!

●受診3日前にハイキングに行った。
●ハイキングの翌日から元気がなくなり、2日間で急に悪化した。
●普段はない失禁がみられた。
→ここまでの情報では絞り込めない。身体診察をチェック!

ナースの臨床推論【第8回】全身倦怠感と食欲低下[Step2]フィジカルアセスメント[Step3]気になる情報をさらに深める

この記事は『エキスパートナース』2018年10月号特集を再構成したものです。
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