AYA世代に対するケア
●教育・就労支援および、 セクシャリティや妊孕性の看護ケアが不可欠である
●病気や治療に対して、 不安やストレスを感じやすい世代であることを医療者が認識し、 温かく思いやりのある態度で接する
AYA世代のなかでも特に20歳未満の患者さんの多くは、小児または成人医療機関のどちらでも少数派になり、医療者の経験値も蓄積されにくいことが問題となります。
諸外国では思春期病棟、メンタルヘルスなども含めた総合思春期科外来などが開設されていますが、このような動きは日本ではこれからと言えるでしょう。
この世代が前向きになれるのは、同じ世代の患者さんに出会い、病気・治療とともに生きる知恵や勇気をもらう体験です。多くの患者さんに接している医療者が、個々の患者さんが求める先輩患者やピア・サポートプログラムにつなげることの意味は想像以上に大きいと思います。
10~20代を中心としたAYA世代では、不安が強くストレス耐性が低いこと、孤独感が強いことを発達上の特徴としてとらえた看護が必要です。
教育・就労:治療とキャリア形成の両立をサポートする
AYA世代のアドヒアランスには、学校・社会生活が大きく影響しています。教育・就労は若者の夢や希望と直結し、アイデンティティ形成の中核を成しているため、例えば入院や新たな治療開始の際にはその説明だけではなく、療養生活の見通しを伝えることが求められます。
また、孤独や絶望に陥らないよう人間関係・社会生活に関する心配ごとをよく聴き、対応方法を一緒に考える姿勢が求められます。
加えて、AYA世代は人間関係や生活環境の変化を伴うライフイベントが連続する世代であることを常に念頭に置き、学校・社会生活、家族・家庭、経済面の状況について節目ごとに情報を得て、他機関との連携、社会福祉サービスへとつなげる看護も必要になるでしょう。
この世代は人生経験も少ないため、少しの躓(つまず)きで絶望したり、十分に検討しないまま退学・退職などの大きな決断をすることがあるため、説明や情報提供の際には、時間をかけ丁寧に対応することが必要です。
性・セクシュアリティ・妊孕性:心理的・物理的な配慮や準備が必要
この世代の若者は性や恋愛への関心は非常に高く、また、パートナーとの親密な関係がアイデンティティ形成や孤独感の低減につながっています。逆に言えば、性機能や妊孕性(にんようせい)に影響を及ぼすような病気や、治療を要する場合の心理的影響は大変大きいと言えます。
日常のケアの留意点として、次の2点が挙げられます。
1)ケア・検査・処置・治療全般にわたるプライバシーに配慮する
近年は、さまざまなところで患者体験を見聞きすることが多くなりました。あるウェブライターの経験談には、精巣腫瘍の術前に患部側の手の甲にマジックで大きく書かれた丸印について、どちらの睾丸が病気なのか人に知らせているようで「院内を歩くのがすごく恥ずかしかった」とあります1。
このように、医療者にとってはあたりまえのことが、若い患者さんにとってはデリカシーに欠けた対応となってしまう可能性があります。
肌の露出を最小限にする、プライバシーの守られた状態での会話など、若い患者さんの羞恥心を増幅させないように配慮する基本的な看護が重要です。
どうしてもそのようなプライバシーが保てない、苦痛が大きい処置などは、若い患者さんの闘病意欲を特に損ねるものとなります。心理的準備が十分整えられるようにすることが求められます。
“病棟ルールだからAYA世代の患者さんでも同じにする”“学生らが取り囲んでの処置見学も、がまんしてあたりまえ”“たくさんの患者さんが待つ検査だから、せかしても当然”という対応などは、特に見直す必要があると思います。
2)泌尿器・産婦人科との連携を進める
泌尿器・婦人科といった診療科へ患者さんを紹介し1人で受診させる場合、その患者さんが受付から診察終了までの間どのような体験をするのかについて、送り出す側の看護師が熟知しておく必要があります。
特に未婚の患者さんは、射精やオーガズムの有無、性交回数、中絶経験など、パートナー・結婚生活の存在を前提とした問診表には強い違和感や治療への抵抗感をもつものです。
また、視診・内診も、事前にどのような体位で何をされ、どのくらいの時間がかかるのか、痛みはあるのか、服装はどうすればよいのかなど、細かな心理的・物理的準備が必要となります。
これらのことについて、送り出す側と当該科の双方で十分配慮がなされてこそ、はじめて患者さんと医療者との信頼関係が形成され、診断・治療に向き合う気持ちにつながることでしょう。
また、性機能や妊孕性に障がいがある場合、医療者に求めることは、同情や気持ちに寄り添うといった看護よりも、困難をどのように乗り越えればよいのかに関する専門的なアドバイスです。
新たな学会や専門的な研修なども行われ始めた新しい分野ですので、このような学習機会を積極的に活用し、専門性を高めることが求められています2-4。
特別な配慮が必要な世代であることを、 看護師が忘れないようにする
本来AYA世代は、若者らしい明るさや楽観主義的な考えをもち、夢や希望に向かってエネルギッシュに生きる存在です。また、若年者ほど、命よりも大切なことがあり、それに一途(いちず)になるあまり、命を削るような行動をとることもあります。
こういった時期に病気・治療に向き合わねばならないことは大きな不安とストレスとなるため、特別な配慮が必要な世代であることを医療者が認識し、患者さんの言動・反応にまどわされず、温かく思いやりのある態度で接することが必要です。
15~39歳の死亡原因の1位は自殺であり、10~20代では微増傾向が認められます5。人生経験の少ないAYA世代は病気・治療への対処方法が未熟であり、ストレスの高まりから突発的な自殺行為に走る場合もあります。
有効な治療方法がないことや、予後不良などの情報提供については、看護師が事前に情報収集を十分に行い、夢や希望をもぎ取るような直截(ちょくせつ)的な伝え方にならないようにするとともに、情報提供後の支援体制を十分に整えておく必要があります。
- 1.ギャラクシー:オモコロ2016-02-08【精巣ガン】クリスマスにきんたま取ってみた.
https://omocoro.jp/kiji/73508/(2024.2.13アクセス)
2.一般社団法人 日本生殖心理学会ホームページ.
https://www.jsrp.org/(2024.2.13アクセス)
3.日本がん・生殖医療学会ホームページ.
http://www.j-sfp.org/(2024.2.13アクセス)
4.一般社団法人 日本思春期学会ホームページ.
http://www.adolescence.gr.jp/(2024.2.13アクセス)
5.厚生労働省:令和2年版自殺対策白書 第1章 自殺の現状 3.年齢階級別の自殺者数の推移.
https://www.mhlw.go.jp/content/r2h-1-3.pdf(2021.5.20アクセス)
この記事は『エキスパートナース』2021年7月号の記事を再構成したものです。
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