おさえておきたいこと

AYA世代の基本知識
●AYA世代とは、 思春期から若年成人の人を示す言葉
●20歳を超える患者は増加傾向にあり、 成人医療に携わる看護師にとって重要性が増していく

目的により、下限年齢は13~15歳、 上限年齢は20代や30代とされている

 日本でAYA世代は、Adolescent and Young Adult(アドレセント アンド ヤングアダルト)の略称として使用されています。

 広く用いられるようになったのは、「第3期がん対策推進基本計画」(平成30年3月9日閣議決定)において小児がんおよび高齢者のがんとは別に、15~39歳の「AYA世代のがん」について言及されてからと思われます

 近年は、がんに限らずさまざまな疾患群でも、AYA世代という用語が用いられるようになってきました。

 AYA世代の年齢区分は世界的に統一されたものはありません。下限年齢を13歳とした英国のがん患者支援団体では、TYA(Teenagers and Young Adults)という呼び方をしている場合もあります

 また、発達心理の観点から、大人になりつつある大人(Emerging Adult)という概念も提唱されており、看護学領域の論文でもEmerging Adultを採用しているものも多くあります。

 AYAの年齢幅を見てみると、下限年齢は小児医療を卒業し、成人医療への移行時期を目安にした、社会的理由に基づいたものが主であり、学会・団体の目的によって13歳、14歳、15歳とされています。 上限は独身者の割合が多い25歳、29歳という場合に加え、生殖医療の適応上限年齢である39歳とする医学的理由を採用していると言えます

発症時期や治療・観察の継続性によって、 3つの患者像に分かれる

 厳密に言うと、AYA世代には表1に示す3種類の患者群が存在します。がん看護ではさらに、「④家族性腫瘍の若年期発症の患者」も問題となるでしょう。

 このうち、15歳未満で発症した慢性疾患患者は、毎年10万人前後が小児慢性特定疾患として登録され、児福祉法に基づいた医療費助成を受けています。

 医療の進展に伴い生存率も向上しているため、20歳を超える患者さんも増加傾向にあり、成人医療に携わる看護師にとって今後重要性が増す対象群と思われます。

表1 AYA世代の患者群
おさえておきたいこと

AYA世代が抱える医療上の問題
●医療が必要な期間が、小児期から成人期にわたることでさまざまな問題が生じる
●小児・成人医療の各領域での専門性の不足や、 社会保障システムの問題により、ケアが困難になりやすい

小児科ではがんや生活習慣病の知識が、 成人医療では小児慢性疾患の知識が不足

 特に、表1-①表1-②の20代を超えた慢性疾患患者への医療を、小児科が提供し続けることにはさまざまな限界があります。その1つが、がんや生活習慣病のリスクや、妊娠・出産に伴う問題への対応などの、成人期の一般的な健康問題に関する専門性の不足です。

 一方、小児慢性疾患の多くが希少疾患であり、成人医療のなかに専門医がおらず、小児科にとどまらざるを得ない場合もあります。
 また、学校や社会福祉、家族への看護も含めたトータルケアを手厚く提供する小児医療から、本人主体の成人医療へ移行することの精神的負担は大きく、転科・転院によるノンアドヒアランスや医療機関からの脱落、ひいては後遺症・合併症が増悪するというリスクもあります。

成人期に入り、 医療費助成制度が受けられなくなってしまうことがある

 AYA世代のがんを含む慢性疾患の医学的な課題は、希少疾患が多いために画期的な治療方法を開発するだけの研究費が公的資金・企業からも投入されず、AYA世代に特化した臨床試験の数が限られることにあると思います。

 また、現行の社会保障システムが小児と成人・高齢者に分断されており、この世代の患者さんが必要とする社会福祉サービスにもさまざまなほころびがあります

 例えば、小児期発症の慢性疾患患者では、児童福祉法により小児慢性特定疾病として16疾患群788疾病が治療費助成*1の対象となっていますが、指定難病333疾病に接続できない疾患も多数存在します(疾患群・疾病数は2023年1月時点)。
 そのため、18歳または20歳以降は医療費助成を受けられなくなるということになり、継続治療が必要な若者にとって大きな負担となっています6-9

【特定医療費(指定難病)助成制度】対象疾病における医療費の患者負担軽減を目的に、認定基準を満たした患者の治療にかかる医療費の一部を助成する制度。

1.厚生労働省:がん対策推進基本計画の概要(第3期).
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000196974.pdf(2021.2.13アクセス)
2.National Health Service:NHS Cancer Services for Teenagers&YoungAdults.
https://www.england.nhs.uk/commissioning/wp-conte nt/uploads/sites/12/2015/12/nhs-canc-serv-tya.pdf(2021.5.20アクセス)
3.Arnett JJ:Emerging adulthood.A theory of development from the late teens through the twenties.Am Psychol 2000;55(5):469-480.
4.Aubin S,Barr RD,Rogers P,et al.:What should the age range be for AYA oncology?.J Adolesc Young Adult Oncol 2011;1(1):3-10.
5.Betz CL,O’Kane LS,Nehring WM,et al.:Systematic review:Health care transition practice service models.Nurs Outlook 2016;64(3):229-243.
6.小児慢性特定疾病情報センターホームページ.
https://www.shouman.jp/(2024.2.13アクセス)
7.大澤眞木子:小児慢性特定疾患と指定難病.医学のあゆみ 2016;258(12):1111-1116.
8.難病情報センターホームページ.
https://www.nanbyou.or.jp/(2024.2.13アクセス)
9.厚生労働省:第31回社会保障審議会 参考資料1 小児慢性特定疾病対策に関する参考資料.
https://www.mhlw.go.jp/content/12602000/001045774.pdf(2024.2.13アクセス)

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この記事は『エキスパートナース』2021年7月号の記事を再構成したものです。
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