人工呼吸器の一種で、挿管せずマスクで呼吸管理ができるNPPV(非侵襲的陽圧換気)。今回は、NPPV の対象となる患者について解説します。

「NPPV(非侵襲的陽圧換気)のポイント」の連載まとめはこちら

Q. NPPVの対象となる患者は?

Answer
酸素療法の効果が不十分な呼吸不全の患者です。なかでも心原性肺水腫(急性心不全)やCOPD増悪の患者ではきわめて有効性が高いことが知られます。気管支喘息急性増悪やARDSにおいても一定の有効性が期待されますが、気管挿管の遅れが致命的となる可能性がありますので、十分なモニタリングのもと、すみやかに気管挿管を施行できる体制のもとでNPPVを行うのがよいでしょう。

NPPVを使用する患者は?

 NPPVは気管挿管を要さずに、マスクなどのインターフェイスを介して陽圧換気(陽圧人工呼吸)を行う治療です。前述のように酸素療法では不十分な呼吸不全(急性、慢性)を対象とします。

 一般的には呼吸不全はCO2貯留のあるⅡ型呼吸不全と、CO2貯留のないⅠ型呼吸不全に分かれます。このうちⅡ型呼吸不全は主に有効肺胞換気量の低下を主病態とするため、換気量の増加をすることのできるNPPVによる換気補助が有効です.

 また、NPPVは気管挿管を用いない呼吸管理ですので、意識障害や上気道狭窄など気道確保が必要な状態では適応になりません。また、ショックを呈するような超重症病態でははじめから気管挿管が推奨されるでしょう。あくまでもNPPVは患者の協力が得られることが前提となります。

疾患別の適応と効果

 本邦のガイドラインに示されているNPPVの有効性についてのエビデンスをに示します。
 ただし、現在ではコロナ禍以降本領域のエビデンスが更新されてきていますので、詳細については成書をご覧いただくことをお勧めします。

表1 主要疾患に対する NPPV の推奨度とエビデンスレベル

急性呼吸不全
●COPD 急性増悪
推奨度:A
エビデンスレベル:Ⅰ
●心原性肺水腫
推奨度:A
エビデンスレベル:Ⅰ
●免疫不全に伴う急性呼吸不全(成人)
推奨度:A
エビデンスレベル:Ⅱ
●肺結核後遺症を含む拘束性胸郭疾患の急性憎悪
推奨度:A
エビデンスレベル:Ⅳ
●人工呼吸器離脱に対する支援
推奨度:B(COPD以外はC)
エビデンスレベル:Ⅱ
●喘息
推奨度:C1(経験が少なければC2)
エビデンスレベル:Ⅱ
●胸郭損傷
推奨度:C1(経験があればB)
エビデンスレベル:Ⅱ
●重症肺炎(COPD)
推奨度:C1
エビデンスレベル:Ⅱ
●重症肺炎(COPD以外)
推奨度:C2
エビデンスレベル:Ⅳ
間質性肺炎
推奨度:C1
エビデンスレベル:Ⅳ

慢性呼吸不全
●肥満低換気症候群
推奨度:B
エビデンスレベル:Ⅲ
慢性心不全におけるチェーンストークス呼吸
推奨度:B
エビデンスレベル:Ⅰ
●神経筋疾患
推奨度:B
エビデンスレベル:Ⅱ
●COPD(慢性期)
推奨度:C1
エビデンスレベル:Ⅰ
●拘束性換気障害
推奨度:A
エビデンスレベル:Ⅳ

(文献1を参考に作成)

表2 エビデンスレベルと推奨度

エビデンスレベル
Ⅰ:システマティックレビュー、メタアナリシス
Ⅱ:1つ以上のランダム化比較試験
Ⅲ:非ランダム化比較試験
Ⅳ:分析疫学的研究(コホート研究や症例対照研究による)
Ⅴ:記述研究(症例報告やケースシリーズによる)
Ⅵ:患者データに基づかない、専門委員会や専門家個人の意見

推奨度
A:行うよう強く勧められる
  強い根拠があり、明らかな臨床上の有効性が期待できる
B:行うよう勧められる
  中等度の根拠がある、または強い根拠があるが臨床の有効性がわずか
C1:科学的根拠は少ないが、行うことを考慮してもよい
  有効性が期待できる可能性がある
C2:十分な科学的根拠がないので、明確な推奨ができない
  有効性を支持または否定する根拠が十分ではない
D:行わないように勧められる
  有効性を否定する(害を示す根拠がある)

(文献2より引用)


 従来、このような場合は挿管による人工呼吸管理が検討されましたが、挿管チューブは生体にとって異物となりますから、人工呼吸器関連肺炎(ventilator associated pneumonia、VAP)を代表とする感染症の合併が起こりえます。さらに、異物を気道内に留置することで生じる不快感を緩和するためには、鎮痛・鎮静が必要になります。

 NPPV最大のメリットは「気管挿管をしないこと」であり、これらの点を解消 ・ 軽減することができます。一方、確実な気道確保という観点では、挿管よりも劣ります。

1.日本呼吸器学会 NPPVガイドライン作成委員会編:NPPV(非侵襲的陽圧換気療法)ガイドライン(改訂第2版).南江堂,東京,2015.
https://www.jrs.or.jp/publication/file/NPPVGL.pdf(2025.8.21アクセス)
2.前掲書1:vii.

※この記事は『エキスパートナース』2014年10月号特別付録を再構成したものです。当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載および複製等の行為を禁じます。