頭蓋内圧亢進が進むと起こる脳ヘルニアについて、症状やメカニズムを紹介。意識障害、瞳孔所見、バイタルサインなどの観察ポイントや、適切な対応方法もわかりやすく解説します。

観察のポイント

脳ヘルニア
●脳ヘルニアの種類と発生部位
●意識レベル(JCS/GCS)
●異常肢位の種類
●瞳孔所見
●バイタルサインの変動
↓気づきたいポイント
●急激に意識レベルが低下している
●刺激を与えるとのけぞるような姿勢をする
●瞳孔不同や、対光反射の消失を認める
●不規則な呼吸をしている
●血圧が高くなっている

脳ヘルニアの症状・徴候は?

 私たちヒトの脳は頭蓋骨という硬い骨で囲まれており、外部からの衝撃に対して守られています。それに対して、頭蓋骨の中は「脳実質」「脳血管」「脳脊髄液」などで満たされ、一定の圧で納められている閉鎖空間となっています(図1-①)。

 ここに、頭蓋内に出血腫瘍などの新たな病変が出現すると、頭蓋内の圧力は逃げ場がなく、上昇していきます。頭蓋内圧が亢進すると、初めは静脈血液や脳脊髄液が頭蓋内から排除されたり、頭蓋内への流入が抑制されたりすることで、急激な頭蓋内圧の上昇を防ごうとする代償作用が生じます。しかし、病変がさらに拡大すると代償作用が限界に達し、脳組織の萎縮が生じたり、頭蓋内圧の低い部分へ脳組織が押し出されたりします(図1-②)。このような、脳組織が本来あるべき場所から押し出された状態を「脳ヘルニア」といいます

図1 脳ヘルニアのイメージ

脳ヘルニアのイメージイラスト

脳ヘルニアの事例

●転倒後、意識レベルが低下している
●痛み刺激を与えると、のけぞるような姿勢をとる
●右眼の瞳孔が散大しており、対光反射が消失している
●バイタルサインに過呼吸、血圧上昇、徐脈を認める

事例が起こったのはなぜ?

■「外傷性硬膜下血腫」を原因とした“テント切痕ヘルニア

「外傷性硬膜下血腫」を原因とした“テント切痕ヘルニアのCT画像

①意識レベル:JCS「Ⅲ-100」
②異常肢位:痛み刺激を与えたときにのけぞるような姿勢(=除脳硬直
③瞳孔所見:瞳孔不同、右の対光反射消失
④バイタルサイン:(呼吸)中枢性過呼吸、(血圧)上昇、(脈拍)除脈
●これらの情報から、脳幹を圧迫する脳ヘルニアが疑われる
●CT画像により、血腫により脳組織が圧迫され、増大に伴い、圧迫を受けた組織が押し出され、脳ヘルニアに移行(テント切痕ヘルニア)したことが確認された
●転倒時の頭部打撲により頭蓋内で出血(硬膜下血腫)が起こったことが推察された

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●脳ヘルニアを疑って画像を見るポイント
midline shiftがないかを画像で見る際のポイントを紹介しています。

脳ヘルニアのメカニズムと鑑別のポイント

1)脳ヘルニアの生じやすい部位

 脳ヘルニアは、頭蓋内の脳組織が押し出されやすい「①大脳鎌下」「②テント切痕部」「③大後頭孔」の3か所で生じます(図2)。

2)脳ヘルニアの分類

 押し出される部位や偏位する方向(図3)によって5種類に分類され(表1)、発生する部位や進行度によって症状や予後が大きく異なります。

3)脳ヘルニアの症状

 さらに、脳ヘルニアの進行度によってバイタルサインに変化が生じます(表21。脳ヘルニアの症状を観察するうえでのポイントとして、圧迫される部位による症状の把握とバイタルサインの時系列変化を理解しておくことが重要です。

図2 脳ヘルニアが起こりやすい部位

脳ヘルニアが起こりやすい部位のイラスト

図3 脳ヘルニアの部位

脳ヘルニアの部位を説明するイラスト

表1 脳ヘルニアの分類と症状

脳ヘルニアの分類と症状の表

脳ヘルニアの例

■脳梗塞・脳浮腫による脳ヘルニアの例

脳梗塞・脳浮腫による脳ヘルニアのCT画像

●梗塞像や脳浮腫が拡大することで頭蓋内圧が亢進し、中脳が圧迫される危険性がある
●中脳が圧迫されると鉤ヘルニア(③)へ移行する。徴候として、意識障害や異常呼吸、異常肢位(除脳硬直)、病側の対光反射消失・散大が出現する

■脳腫瘍による脳ヘルニアの例

脳腫瘍による脳ヘルニアのMRI画像

●腫瘍が増大することで、慢性頭蓋内圧亢進症状である頭痛・嘔吐が出現した
●腫瘍が中脳を圧迫することで鉤ヘルニア(③)へ移行が進み、右の瞳孔径が散大、意識障害が出現した
●血圧が上昇し、クッシング現象が出現しはじめた

■脳出血による脳ヘルニアの例

脳出血による脳ヘルニアのCT画像

●橋出血により血腫が橋を圧迫し、意識障害や呼吸障害、眼症状が出現した
●血腫が増大し、圧排が上方へ進行する場合には上行性ヘルニア(④)へ、下方へ進行する場合には大後頭孔ヘルニア(⑤)へ移行し、生命の危機になる危険性がある

脳ヘルニアの観察ポイント

 脳ヘルニアは急激に症状が増悪することが多く、早期発見のポイントとして神経症状バイタルサインの変化に気づくことが重要です。

1)意識障害

 脳ヘルニアによる意識障害は脳幹の障害によって生じます。そのため覚醒の維持(目を覚まし続けること)が困難になります。障害部位により、Japan Coma Scale(JCS)において表1のような特徴がみられます。
 なお、意識障害が生じると舌根沈下によりいびき様呼吸を呈することがあります。夜間など睡眠時にいびきをかく患者では、意識障害による異常呼吸との鑑別が重要です。

2)異常肢位(除皮質硬直・除脳硬直)

 痛み刺激を与えたときに除皮質硬直や除脳硬直といった異常肢位を認めます(図4)。除皮質硬直は大脳半球広範の障害により、除脳硬直は中脳・橋の障害により認めます。
 これらの異常肢位は、意識レベルの評価スケールであるGlasgow Coma Scale(GCS)の「最良運動反応(M、best motor response)」における「3点(除皮質硬直)」「2点(除脳硬直)」に相当します。

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