『がん患者さんのための栄養治療ガイドライン 2025年版』について、企画された背景やガイドラインの構成・内容、基本的な見方をわかりやすく解説。患者さんへの栄養指導や療養支援に役立てるために、看護師がおさえておきたいポイントを紹介します。
- ●『がん患者さんのための栄養治療ガイドライン』が企画された経緯
●本ガイドラインの構成と内容、基本的な見方
●本ガイドラインを活用するために看護師がおさえておきたいこと
・薬物療法はCTCAEを用いた評価をふまえて栄養治療の方法・方針を決定
●食事は単なる栄養摂取ではなく、人生の楽しみ
『がん患者さんのための栄養治療ガイドライン』が企画された経緯
がん患者さんにおける栄養治療は非常に重要です。栄養治療によって、体力の維持、がん治療の副作用の軽減、治療効果の最大化、生活の質(quality of life:QOL)の向上などが期待されます。
日本栄養治療学会(JSPEN、旧日本臨床栄養代謝学会)は、2022年に『日本臨床栄養代謝学会 JSPENコンセンサスブック① がん』、2024年に『がん患者診療のための栄養治療ガイドライン2024年版 総論編』を発刊しました。こういった活動を通じて、がん治療には栄養に関するさまざまな多くの話題があることが明らかになりました。
また同学会では、2024年にPatient Advocacy委員会を正式に立ち上げました。Patient Advocacy(ペイシェントアドボカシー)とは、患者さんの視点から医療の課題を解決するために、政策や制度を改善する活動を指します。
比企直樹前理事長、市川大輔理事長、竹内裕也理事のもと、がん患者さんの声に耳を傾けながら、がん治療における栄養の役割をわかりやすく解説し、よりよい栄養治療をともに考えるために、『がん患者さんのための栄養治療ガイドライン 2025年版』(以下、「本ガイドライン」)作成を決定しました。
がん患者の声をもとに本ガイドラインの「Q」を作成
これまで医療系の学会は、病気や治療法の情報を患者さんに伝えてきましたが、最近は学会と患者さんが連携し、一緒に医療をつくり上げる時代となっています。患者さんの声は、研究や治療へのアクセス向上など、医療のあらゆる場面で重要性を増しています。
本ガイドラインでは作成にあたり、認定NPO法人キャンサーネットジャパン(岩瀬哲理事長)の協力を得て、がん患者さんや市民の方々にWebアンケート調査を行い、「Q(クエスチョン)」として取り上げる46項目を選定しました。そして、何をどのように伝えるか、EBM(evidence based medicine:根拠に基づく医療)やコンセンサス(専門家による同意)に基づいた議論を行い、誰にとってもわかりやすい「Answer」と「解説」をめざして作成しています。また、がん患者さんや市民の方々の目線となるよう、認定NPO法人希望の会(轟浩美理事長)から意見を受け取り、本ガイドラインに反映させたのち発刊しています。
がん治療において、栄養は薬や手術と同じように重要な治療の一環です。本ガイドラインでは、がんの予防から、がん治療中のこと、治療が難しい場合における緩和ケアまで、栄養治療を幅広く取り上げています。ぜひ本ガイドラインを手に取り、栄養治療の意義を理解し、実際の治療や、がん患者さんや家族の治療・生活に役立ててもらえることを願っています。
本ガイドラインの構成と内容、基本的な見方
46のQが6つの章に分かれて解説されている
本ガイドラインは、「1章 がんにならないために」「2章 がんになったら」「3章 薬物療法が始まったら」「4章 手術が決まったら・手術をしたら」「5章 がん治療後について」「6章 緩和医療において」の6章に分けて、がん治療のさまざまな場面で求められる栄養治療について具体的に記載しています。全部で46のQがあり、食事や栄養、口腔ケアやリハビリテーションに関連したQが多くを占めています(表1)1。
表1 『がん患者さんのための栄養治療ガイドライン』の主な構成
巻頭
●がん患者さんへのアンケート調査
●栄養治療とは?1章 がんにならないために
Q1 がんを予防するにはどうしたらよいですか?
Q2 がんのリスクになる食事は何ですか?2章 がんになったら
Q3 なぜがんになると体重は減るのですか?
Q4 サルコペニアの合併はがん患者さんに影響しますか? など3章 薬物療法が始まったら
Q14 がん治療中、体重は維持したほうがよいですか?
Q15 抗がん薬による治療が始まったらどのような食事を摂ったらよいですか? 食べていけな
いものはありますか? など4章 手術が決まったら・手術をしたら
Q36 手術前に運動はしたほうがよいですか?
Q37 手術後の食事はどうしたらよいですか? など5章 がん治療後について
Q43 がん治療後、慢性的な痛みがありますが運動してもよいですか?
Q44 がん治療後の筋肉量減少、筋力低下に効果的な運動や食事はありますか? など6章 緩和医療において
Q46 緩和ケアやQOLの改善が中心となった患者さんの食事はどのようなものがよいですか?(文献1を参考に作成)
患者自身が取り組めることを「Answer」として提示
がんになったときに留意すべき栄養治療については、「Q6 がんになったら食事はどんなことに気をつけたらよいですか?」に記載しています。Answerは、「がんと告げられると不安になると思いますが、症状がなければ食事は神経質にならなくても大丈夫です。栄養状態を良好に維持することが大切ですので、栄養指導を受けたり、食事の雰囲気を変えてみるなど工夫しましょう」としています2。
また、薬物療法が始まるにあたって留意すべき栄養治療については、「Q15 抗がん薬による治療が始まったらどのような食事を摂ったらよいですか? 食べていけないものはありますか?」で解説しています。Answerは、「抗がん薬による治療中に食べていけないものはありません。治療による味覚障害や口内炎などによって食事摂取量が減少することがあるので、食べやすいものを選んで、少量ずつ摂取しましょう」と答えています3。
さらに、実際に薬物療法を行っているときに留意すべき栄養治療については、「Q22 がん治療が始まった後の食事にはどんなことを注意したらいいですか?」で説明しています。Answerは、「治療による副作用などにより食欲が低下し、十分な摂取ができなくなることがあります。まずは、自分の好みに合うものを自分が食べられそうなタイミングで少量でも摂取することを心がけ、絶飲食にはならないように気をつけましょう」としています4。
食事の色や食事環境などを総合的にとらえることが重要
「がんになったから」「薬物療法が始まるから」という理由で、特別に摂取したほうがよいもの/摂取しないほうがよいものを探し求めがちですが、そのようなものは明らかにはなっていません。一方、がんや薬物治療によるさまざまな症状・有害事象が出現すると、食事を摂取しにくくなる場合があります。症状に合った摂取しやすい食事が大切ですが、うまくいかないことや、食事に固執しすぎることで、ストレスやさらなる食欲低下につながることもあります。
経口摂取を増やすには、食事自体以外にも色や環境など、食べるための総合力が増すような取り組みも大切です。些細なことでもかまわないので(むしろ些細なことからのほうがよいので)、医療従事者に相談することを本ガイドラインではお勧めしています。
本ガイドラインを活用するために看護師がおさえておきたいこと
食欲不振や栄養摂取困難は多職種で連携して対応
がん患者さんは手術や薬物療法、放射線治療などの影響で食欲不振や栄養摂取の困難が生じやすく、体重減少や栄養不良に陥ってしまうことがあります。これにより免疫力の低下や治療効果の減少、回復力の遅延などが起こる可能性があり、生活の質は低下します。
本ガイドライン作成にあたって行ったWebアンケート調査では、手術後は栄養食事指導が一般的に実施されているためか、薬物療法中の食事や栄養について、多くの質問が寄せられました。
また、口腔ケアやリハビリテーションに関する質問も多くありました。口腔ケアについては周術期口腔機能管理加算があり、手術だけでなく、薬物療法や放射線治療、緩和ケアにおいても積極的な算定が期待されています。
リハビリテーションについては、入院中は広く行われていますが、外来では行いにくい現状もあります。これらをふまえ、看護師はがん治療の質向上のために、医師や管理栄養士、薬剤師、歯科医師、歯科衛生士、リハビリテーションの専門職などと連携して活動することが期待されています。
薬物療法はCTCAEを用いた評価をふまえて栄養治療の方法・方針を決定
薬物療法中はCTCAE*1による有害事象評価と対応が不可欠です。薬物療法の実施にあたっては、有害事象がCTCAE Grade1以下であることが大切です。また、薬物療法1クールにおける最悪値がCTCAE Grade3以上であれば、薬を減量します。したがって、薬物療法実施前に、看護師をはじめとする多職種でCTCAEに基づいた有害事象評価を行い、実施や減量の議論に参加することが望まれます。
薬物療法における栄養治療については、臨床的に問題がなく薬物療法の実施が可能なGrade1であっても、皮膚ツルゴール反応の低下を認めるような脱水があれば経口水分補給を増加し、不定期または間欠的に便秘があれば食事の工夫を行います。栄養治療は「悪くなってから」ではなく、がん診断時・薬物療法開始前から、いつもそばにあるものなのです。
また、薬物療法の実施が困難であるGrade2と評価した場合は、食事をとりやすいように変更し、飲みやすい経口栄養剤(oral nutritional supplement:ONS)をとり、経口摂取が難しければ点滴を実施するなどの介入が重要です(表2)5。
*1【CTCAE】common terminology criteria for adverse events、有害事象共通用語規準。現在のver5.0が最新版となっている。
表2 CTCAEに基づく、主な有害事象の定義とその評価基準
CTCAE v6.0 Term 日本語/CTCAE v6.0 AE Term Definition 日本語【定義】
●味覚不全/食物の味に関する異常知覚。嗅覚の低下によることがある
Grade 1
食生活の変化を伴わない味覚変化
Grade 2
食生活の変化を伴う味覚変化(例:経口サプリメント);不快な味;味の消失
Grade 3・4・5 -●口腔粘膜炎/口腔粘膜の潰瘍または炎症
Grade 1
症状がない、または軽度の症状;治療を要さない
Grade 2
経口摂取に支障がない中等度の疼痛または潰瘍;食事の変更を要する
Grade 3
高度の疼痛;経口摂取に支障がある
Grade 4
生命を脅かす;緊急処置を要する
Grade 5
死亡
●悪心/ムカムカ感や嘔吐の衝動
Grade 1
摂食習慣に影響のない食欲低下
Grade 2
顕著な体重減少、脱水または栄養失調を伴わない経口摂取量の減少;静脈内投与による治療を要する
Grade 3
カロリーや水分の経口摂取が不十分;経管栄養/TPN/入院を要する
Grade 4・5 ー●嘔吐/胃内容が口から逆流性に排出されること
Grade 1
治療を要さない
Grade 2
外来での静脈内輸液の開始を要する;内科的治療を要する
Grade 3
経管栄養の開始/TPN/入院を要する
Grade 4
生命を脅かす
Grade 5
死亡●脱水/体から過度に水分が失われた状態。通常、高度の下痢、嘔吐、発汗により起こる
Grade 1
経口水分補給の増加を要する;粘膜の乾燥;皮膚ツルゴールの低下
Grade 2
静脈内輸液を要する
Grade 3
入院を要する
Grade 4
生命を脅かす;緊急処置を要する
Grade 5
死亡●下痢/排便頻度の増加や軟便または水様便の排便
Grade 1
便の固さや排便回数の変化
Grade 2
ベースラインと比べて4-6回/日の排便回数増加;ベースラインと比べて人工肛門からの排泄量の中等度増加;身の回り以外の日常生活動作の制限;便の固さや排便回数の変化の年齢相応の正常日常活動への軽度/中等度の影響(小児)
Grade 3
ベースラインと比べて7回以上/日の排便回数増加;入院を要する;ベースラインと比べて人工肛門からの排泄量の高度増加;静脈内投与による治療を要する;身の回りの日常生活動作の制限;年齢相応の正常日常活動への高度の影響(小児)
Grade 4
生命を脅かす;緊急処置を要する
Grade 5
死亡●便秘/腸管内容の排出が不定期で頻度が減少、または困難な状態
Grade 1
不定期または間欠的な症状;便軟化薬/緩下薬/食事の工夫/浣腸を不定期に使用
Grade 2
緩下薬または浣腸の定期的使用を要する持続的症状;身の回り以外の日常生活動作の制限;年齢相応の正常日常活動への軽度/中等度の影響(小児)
Grade 3
摘便を要する頑固な便秘; 身の回りの日常生活動作の制限;年齢相応の正常日常活動への高度の影響(小児)
Grade 4
生命を脅かす;緊急処置を要する
Grade 5
死亡●食欲不振/食欲の低下
Grade 1
摂食習慣の変化を伴わない食欲低下
Grade 2
顕著な体重減少や栄養失調を伴わない摂食量の変化;経口栄養剤による補充を要する
Grade 3
顕著な体重減少または栄養失調を伴う(例:カロリーや水分の経口摂取が不十分);静脈内輸液/経管栄養/TPNを要する
Grade 4
生命を脅かす;緊急処置を要する
Grade 5
死亡●体重減少/体重の減少。小児ではベースライン成長曲線より小さい
Grade 1
ベースラインより5-<10%減少;治療を要さない
Grade 2
ベースラインより10-<20%減少;栄養補給を要する
Grade 3
ベースラインより≧20%減少;経管栄養またはTPNを要する
Grade 4・5 ー(文献5を参考に作成)
有害事象は連続的にとらえて、栄養治療に反映する
薬物療法の有害事象は連続的にとらえる必要があります。状態に応じて、食事形態や内容の工夫、食事療法によるONSなどの経口摂取の促進、口腔ケア、経口補水液(oral rehydration solution:ORS)の投与、補完的中心静脈栄養(supplemental parenteral nutrition:SPN)、静脈栄養(TPN*2、PPN*3)といった、連続的・包括的な栄養治療が望まれます(図1)。
*2【TPN】total parenteral nutrition:中心静脈栄養
*3【PPN】peripheral parental nutrition:末梢静脈栄養

栄養治療は“If the gut works,use it.(腸を使えるときは使え)”が原則である一方で、悪心や嘔吐があ
り経口摂取が不十分となっている場合は、静脈輸液や末梢静脈栄養を優先することも考慮します。食べることや食べさせることが、がん患者さんやその家族のストレスにならないよう配慮しなければなりません。あくまでも、「食べたいときに、食べられるものを、食べたいだけ」が基本です。
そのためには看護師や管理栄養士、薬剤師、医師、歯科医師、歯科衛生士などの連携や、NST(栄養サポートチーム)介入は不可欠です。
食事は単なる栄養摂取ではなく、人生の楽しみ
最後になりましたが、がん患者さんを対象としたWebアンケート調査では、「子どもや家族に料理をつくれない」という声が悩みとして多くみられました。栄養に関する困りごとは幅広く、がん患者さんが自分らしく生きていくには、就労支援や家事就労の目線も必要で、医療従事者もそこに対応することが期待されています。
食事で得られるものは栄養だけではありません。五感で味わって心で楽しむものです。ぜひ、看護師の力で、栄養治療をがん治療の力にしてください! すべては患者さんのために、です。本ガイドラインを参考に、がん患者さんに適切な栄養治療が提供されることを願っています。
「医療・看護の知っておきたいトピック」の記事一覧
- 1.日本栄養治療学会編:がん患者さんのための栄養治療ガイドライン.金原出版,東京,2025.
2.前掲書1:28.
3.前掲書1:52.
4.前掲書1:69.
5.日本臨床腫瘍研究グループ:有害事象共通用語規準 v6.0 日本語訳JCOG 版.
https://jcog.jp/assets/CTCAEv6J_20260301_v28_0.pdf(2026.7.20アクセス)
6.前掲書1:72.
この次に読まれている記事
そのほかの連載記事はこちら
※この記事は『エキスパートナース』2025年9月号記事を再構成したものです。当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載および複製等の行為を禁じます。

