疾患別に、緩和ケアを実施するか否かを決めるべきではない
ところが、2017年まで、日本の保険診療制度では、緩和ケアの対象疾患を「がん(悪性腫瘍)」と「後天性免疫不全症候群(AIDS)」のみに限定してきました。
2018年にようやく、「末期心不全」が緩和ケアの対象に加わりました。
しかし、私にはこの、「臓器別に緩和ケアに関する保険診療を区別する方式」が理解できません。緩和ケアは、すべての人が受けられるべき権利(人権)という考え方が欧米ではあたりまえになりつつあります。今こそ、私たちは「緩和ケア⇒がん」ではなく、「緩和ケア⇒すべての疾患」へと意識改革を行う必要があります。
国外では近年、世界保健機関や欧州緩和医療学会(EAPC)の「プラハ憲章(2013年)」3*1 のように、数多くの国際的な緩和ケア団体が『すべての人に緩和ケアを提供することは医療者の責務』という理念を採択しています。
この理念に賛同し、私たちは2018年2月17日に千葉県鴨川市で開催された第7回千葉緩和医療学会で『鴨川宣言2018』4を採択し、「すべての年代や疾患によらず、苦痛に苦しむすべての人びとに緩和ケアを当たり前に提供できるように努力する」 という目標を参加者一同で確認しました5。
鴨川宣言 2018:すべての人に緩和ケアを
●千葉緩和医療学会は、「緩和ケアを必要とするすべての患者さんとご家族が緩和ケアを当然の権利として受けられること」を目標とします。
●この目標を少しでも実現に近づけるため、各学会員はそれぞれの専門的能力を結集し、すべての医療者と市民と共働する形で、日々努力することを宣言します。
(文献4より引用)
*1【プラハ憲章】緩和ケアを人権とするとした宣言。そのほか、医療政策・制度や医療者の研修などの課題を各国政府に発信した。
- 1.World Health Organization:National Cancer Control Programmes Policies and managerial guidelines 2nd Edition.World Health Organization,Geneva,2002:84.
2.日本緩和医療学会ホームページ:「WHO(世界保健機関)による緩和ケアの定義(2002)」定訳.
https://www.jspm.ne.jp/information/WHO/index.html(2024.4.1アクセス)
3. Radbruch L et al: Prague Charter: urging governments to relieve suffering and ensure the right to palliative care. Palliative Medicine 27(2), 101-102, 2013)
4.亀田総合病院 疼痛・緩和ケア科ホームページ:【お知らせ】鴨川宣言2018が採択されました.
http://www.kameda.com/pr/palliativecare/post-163.html(2024.4.1アクセス)
5.朝日新聞 2018年2月14日:すべての病気に緩和ケアを 千葉で医療者ら宣言採択へ.
https://www.asahi.com/articles/ASL2F5R30L2FUBQU01Q.html ? iref=pc_
extlink(2019.5.20アクセス)
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この記事は『エキスパートナース』2019年7月号の記事を再構成したものです。
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