思い込みで行ってしまった日常的な治療・ケアが症状の悪化や事故の原因になることも。今回は術後疼痛管理における鎮痛薬の選択について解説。術後疼痛には、NSAIDsだけではなく、アセトアミノフェンやオピオイド、鎮痛補助薬の使用を考慮することが大切です。

術後疼痛対策に用いる薬剤はNSAIDsだけでよいわけではない!

正しく理解

術後疼痛には、機序の異なる鎮痛薬をあわせて使用する
●NSAIDs は腎障害や消化管障害の可能性があるため、そのようなリスクのある患者にはアセトアミノフェンのほうが安全に使用できる
●オピオイドや鎮痛補助薬などを併用することで鎮痛効果を維持しつつ、副作用を軽減できる

NSAIDsは腎機能低下や消化管障害の患者には注意が必要

 疼痛は、シクロオキシゲナーゼ(cyclooxygenase、COX)という酵素により生成されるプロスタグランディン(prostaglandin、PG)によって引き起こされます。NSAIDs(non-steroidal anti-inflammatory drugs 、非ステロイド性抗炎症薬)は末梢性にCOX系を阻害し、その結果、プロスタグランディン(E2、I2)産生を抑制します。鎮痛作用に加えて抗炎症作用もあるため、術後疼痛に適しています。

 プロスタグランディンの一種であるプロスタグランディンE2は胃粘膜の血流増加や、腎血管を拡張し腎血流を維持する作用があり、プロスタグランディンI2は粘膜産生による胃粘膜保護作用、腎血流量増加作用があります。そのため、NSAIDsによってプロスタグランディンの産生が抑制されると、消化管障害の副作用が出る可能性や腎機能が悪化する可能性があります。そのため胃潰瘍の既往のある患者には注意が必要となります(図1)。

図1 NSAIDs の副作用
NSAIDs の副作用

 また多くのNSAIDsは、消化性潰瘍、重篤な血液・心・肝・腎機能不全、高血圧、アスピリン喘息および妊婦には禁忌となっており、これらの既往歴の有無の確認が必要です。

NSAIDsが使用できない場合は、アセトアミノフェンの使用を考慮

 アセトアミノフェンはNSAIDsと異なり、中枢神経系でプロスタグランディン合成を阻害して解熱鎮痛作用をもたらしますが、末梢のプロスタグランディン合成阻害にはほとんど作用しないため、胃腸障害および腎虚血、抗血小板作用が少なく、腎臓が悪い患者にも比較的安全に使用できる薬剤です。消化性潰瘍のリスクに対しても、アセトアミノフェンは NSAIDs よりも安全性が高いと言われています。

 また、NSAIDsが禁忌となっている妊婦とともに、小児に対しても一部のNSAIDsがインフンエンザ脳炎を重症化する要因になるとの推測や、Reye(ライ)症候群*1と関連しているとされているため、より安全なアセトアミノフェンを使用したほうがよいでしょう。

 また、前述のCOXはCOX-1とCOX-2に分けられます。NSAIDsはアスピリン喘息の症例に対して禁忌であり、COX-1阻害作用が強いと喘息の発現頻度が増加します。そのため、COX-1阻害作用の弱いアセトアミノフェンのほうが安全性が高いとされています。ただし高用量(1回500mg以上)になると過敏反応を誘発することがあるので注意が必要です。

*1【Reye症候群】=インフルエンザや水痘などの感染に続発する、脳症と肝臓の脂肪変性を主な症状とする疾患。

多角的鎮痛が疼痛対策のポイント

 術後疼痛管理を行ううえで、multimodal analgesia(多角的鎮痛)という概念が提唱されています。これは質の高い鎮痛を実現するため、作用機序の異なる薬剤(NSAIDs、アセトアミノフェン、オピオイド、ケタミン、局所麻酔薬など)を組み合わせて投与する方法で、1つの鎮痛薬の投与量を増加させて鎮痛を図る場合と比較して同等かそれ以上の鎮痛効果を得ることができます。その反面、個々の鎮痛薬の量は少量になるため、各鎮痛薬の副作用の頻度を減らすことができ、患者の満足度が高まります

 NSAIDs以外の経口の鎮痛薬としては、アセトアミノフェン、強オピオイドの経口用モルヒネ散、弱オピオイドのトラムセット®配合錠、鎮痛補助薬のノイロトロピン®、リリカ®、タリージェ®などがあります。ただし適応症が慢性疼痛しかないものがあるため、注意が必要です(表1)。

表1 NSAIDsとその他の鎮痛薬

※各薬剤添付文書、製薬会社のデータを参照して作成。
※1回使用量は適応症によって異なるため詳細は添付文書を参照してください。

■NSAIDs
商品名ロキソニン®錠・細粒(錠:60mg、細粒:10%)
 /ロキソプロフェン Na錠・細粒(錠:60mg、細粒:10%)
一般名:ロキソプロフェンナトリウム
特徴:副作用軽減のためのプロドラッグ(代謝されることで薬効を発揮)
1回使用量(成人):60mgを1日3回(頓用の場合、1日60~120mg)
腎機能低下による減量:重篤な腎障害には禁忌。無尿の透析患者には減量必要なし
作用発現時間:30分以内
作用持続時間:約7時間
半減期:ロキソニン®錠・細粒…1.3時間(活性本体)
 /ロキソプロフェン Na錠・細粒…約29分
最高血中濃度到達時間:ロキソニン®錠・細粒…約50分(活性本体)
 /ロキソプロフェン Na錠・細粒…約1.23時間

商品名セレコックス®(100mg、200mg)
一般名:セレコキシブ
特徴:COX-2選択性が高く、胃潰瘍の副作用が少ない
1回使用量(成人):初回400mgを投与。2回目以降は1回200mgを1日2回(投与間隔は6時間)
腎機能低下による減量:重篤な腎障害には禁忌。無尿の透析患者には減量必要なし
作用発現時間:15~30分、28分(海外)
作用持続時間:6時間後で43.6%が効果あり
半減期:約7時間(100mg)
最高血中濃度到達時間:約2.0時間(200mg)

■オピオイド(麻薬)
商品名フェンタニル注射液(0.1mg/2mL、0.25mg/5mL、0.5mg/10mL)
一般名:フェンタニルクエン酸塩
特徴
●鎮痛作用はモルヒネの約100倍 
●μ(ミュー)受容体(μ1、μ2)に作用
1回使用量(成人):術後疼痛は0.02~0.04mL/kg/時で点滴静注
腎機能低下による減量:腎機能正常者と同じ
作用発現時間:ただちに~数分
作用持続時間:―
半減期:約8.6時間(静脈内24時間持続投与)
最高血中濃度到達時間:投与終了直後

商品名ケタラール®静注用・筋注用(静注用:50mg/5mL、200mg/20mL、筋注用:500mg/10mL〈ともに全身麻酔〉)
一般名:ケタミン塩酸塩
特徴
●皮膚、 筋肉等の体表面の疼痛に対して強い鎮痛効果(NMDA受容体*2を阻害し、オピオイドの鎮痛耐性に拮抗) 
●内臓痛に対しては弱く、幻覚・興奮作用をもつ 
●呼吸循環抑制作用は少ない
1回使用量(成人):静注用:1~2mg/kg、筋注用:5~10mg/kg
腎機能低下による減量:腎機能正常者と同じ
作用発現時間:30秒~1分(静注)
作用持続時間:5~10分(静注)
半減期:約4時間(静注)
最高血中濃度到達時間:約20分(筋注)

*2【NMDA受容体】=イオンチャネル型グルタミン酸受容体の一種。

■オピオイド(非麻薬)
商品名ソセゴン®注射液(15mg〈30mg製剤は麻酔〉)
一般名:ペンタゾシン
特徴
●鎮痛作用が強力で、術後やその他の疼痛に対しても多用されている
●習慣性があり、依存症が早くて1か月から起こることもある
●急性期の痛みに対してのみ使用するなど、使用は最低限にとどめる
●κ(カッパー)受容体(一部μ受容体)を介した鎮痛作用
1回使用量(成人):1回15mgを3~4時間毎に皮下注または筋注
腎機能低下による減量:腎機能正常者と同じ
作用発現時間:15~20分(筋・皮下注)
作用持続時間:3~4時間(筋・皮下注)
半減期:約1.28時間(0.5mg/kg筋注)
最高血中濃度到達時間:10~30分(筋注)

商品名レペタン®(0.2mg、0.3mg)
一般名:ブプレノルフィン塩酸塩
特徴
術後・各種がん・心筋梗塞における鎮痛に使用
●μオピオイド受容体親和性が高く、強力かつ長時間の鎮痛効果
1回使用量(成人):1回0.2~0.3mg(体重あたり4~6μg/kg)を必要に応じて6~8時間毎に筋注
腎機能低下による減量:腎機能正常者と同じ
作用発現時間:20分(筋注)
作用持続時間:9時間(0.2mg)/11時間(0.3mg)
半減期:2~3時間
最高血中濃度到達時間:5分以内(筋注0.3mg)

商品名トラムセット®配合錠/トアラセット®配合錠(オピオイド〈トラマドール〉37.5mgとアセトアミノフェン325mg)
一般名:トラマドール塩酸塩 /アセトアミノフェン
特徴
●弱オピオイド鎮痛薬
●トラマドールは、オピオイド受容体作用とモノアミン再取り込み抑制作用
●治療困難な非がん性慢性疼痛、抜歯後の疼痛に保険適用(アメリカでは急性期の疼痛にしか適用がない)
●服用開始時に悪心が多くみられるため、適宜、制吐剤を状況に応じて併用
1回使用量(成人):非がん性慢性疼痛では、1回1錠を1日4回(投与間隔として4時間以上。最高用量は1回2錠、1日8錠)
腎機能低下による減量:12時間ごとに1回2錠を超えないこと(米国添付文書より)
作用発現時間:30分(抜歯)
作用持続時間:4.2~4.5時間
半減期:トラマドール:5~5.5時間、アセトアミノフェン:約3時間
最高血中濃度到達時間:トラマドール:1~2時間、アセトアミノフェン:約1時間

■アセトアミノフェン
商品名アセリオ®静注液(1,000mg/100mL)
一般名:アセトアミノフェン
特徴
●作用機序は明らかになっていないが、主に中枢に作用して鎮痛・解熱作用を発現
●NSAIDsで生じる腎機能障害、消化管障害、抗血小板作用などの問題が少ない
●NSAIDsとは少し作用機序が異なるため、NSAIDsと併用することで効果が期待できる
1回使用量(成人):疼痛は1回300~1,000mg(最高4,000mg/日。体重50kg未満は60mg/kg/日まで)。投与間隔は4~6時間以上
腎機能低下による減量:CCr≦30では注意して投与(用量を減量し、投与間隔を延長)
作用発現時間:投与後直後
作用持続時間:4~6時間
半減期:2.5時間
最高血中濃度到達時間:投与終了直後

商品名アセトアミノフェン錠・細粒・シロップ・ドライシロップ(錠:200mg、300mg、500mg、細粒:20%、シロップ:2%、ドライシロップ:20%、40%)、カロナール®細粒(20%、50%)など
一般名:アセトアミノフェン
特徴
●作用機序は明らかになっていないが、主に中枢に作用して鎮痛・解熱作用を発現
●NSAIDsで生じる腎機能障害、消化管障害、抗血小板作用などの問題が少ない
●NSAIDsとは少し作用機序が異なるため、NSAIDsと併用することで効果が期待できる
1回使用量(成人):1回300~1,000mg(投与間隔は4~6時間以上。最大投与量は4,000mg/日)
腎機能低下による減量:1回300mg(解熱)、500~600mg(鎮痛)を1日3回毎食後~1日4回毎食後と寝る前または6時間ごと(できるだけ食後)
作用発現時間:15~30分
作用持続時間:4~6時間
半減期:2.4時間
最高血中濃度到達時間:約27分

■鎮痛補助薬
商品名リリカ®OD 錠・カプセル/プレガバリンOD錠・カプセル(OD錠:25mg、75mg、150mg、カプセル:25mg、75mg、150mg)
一般名:プレガバリン
特徴
術後神経障害性痛の第一選択薬
●使い始めはめまい、眠気、下痢などの副作用が出ることがある
●腎機能に応じて減量が必要
1回使用量(成人):初期量25mg1日1回~1回75mgを1日2回、1日300mgまで漸増(最高用量は1日600mg)
腎機能低下による減量:腎機能に応じ、減量(くわしくは、添付文書参照)
作用発現時間:24分(抜歯)、24時間未満(神経障害性疼痛)
作用持続時間:12時間以上
半減期:約6時間
最高血中濃度到達時間:約1時間

商品名ノイロトロピン®(4単位)
一般名:ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液
特徴
術後神経障害性痛に効果が期待できる
●NSAIDsとは違った作用機序をもつ(下行性疼痛抑制系賦活作用)
●ワクシニアウイルスを接種した家兎の炎症性皮膚組織から抽出した非タンパク性の生理活性物質
●適応症に限りがあるが、併用の効果が期待できる
1回使用量(成人):1日4錠を朝夕2回に分割
腎機能低下による減量:腎機能正常者と同じ
作用発現時間:―
作用持続時間:―
半減期:―
最高血中濃度到達時間:―

■局所麻酔薬(アミド型)
商品名:キシロカイン®注(局所麻酔用)(注射液:0.5%、1%、2%、シリンジ:0.5%、1%)
一般名:リドカイン塩酸塩
特徴
●あらゆる局所麻酔に使用される
●注射薬だけでなく、ゼリーや貼付剤などさまざまな剤形がある
アドレナリン添加製剤は作用時間延長や中毒が起こりにくくなるが、指趾、陰茎、耳介には使用できない
1回使用量(成人):基準最高用量はリドカイン塩酸塩として1回200mg
腎機能低下による減量:腎機能正常者と同じ
作用発現時間:10~45秒(1% 0.1~0.4mL)
作用持続時間:6~25分(1% 0.1~0.4mL)
半減期:約2.3時間
最高血中濃度到達時間:約12分(2%20mL)

1.厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課 編:医療用麻薬適正使用ガイダンス~がん疼痛治療における医療用麻薬の使用と管理のガイダンス~.
https://www.mhlw.go.jp/bunya/iyakuhin/yakubuturanyou/dl/iryo_tekisei_guide2017a.pdf(2025.4.25アクセス)
2.栗田宗次:鎮痛剤ペンタゾシンの依存性について.日本医事新報 1983;No.3078:180.
3.厚生労働省:重篤副作用疾患別対応マニュアル 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs、解熱鎮痛薬)によるじんま疹/血管性浮腫.
https://www.pmda.go.jp/files/000240124.pdf(2025.4.25アクセス)
4.星恵子:エキスパートに学ぶNSAIDsの正しい使い方 3.内科領域におけるNSAIDsの使用法と注意点.Modern Physician 2012;32(11):1355-1358.
5.井上莊一郎,竹内護:エキスパートに学ぶNSAIDsの正しい使い方 7.NSAIDs経静脈製剤の使用法と注意点.Modern Physician 2012;32(11):1378-1381.
6.成田年,池上大悟,酒井寛泰:知っておきたいNSAIDsの正しい知識 2.NSAIDsの薬理.Modern Physician 2012;32(11):1307-1313.

この記事は『エキスパートナース』2017年5月号特集を再構成したものです。
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