がん終末期の患者にむやみに痰を吸引することで、かえって苦痛が増すことがあります。排痰の苦痛を緩和するケアや、患者家族への対応など、看護師が知っておきたいポイントを解説します。

がん終末期ケアのNG

むやみに痰の吸引をしてはいけない
〈理由〉かえって苦痛を増強させる場合があり、口腔内や気道を傷つけるなどのリスクもあるから

終末期患者の喘鳴の原因とは?

 看護師は、喘鳴(ぜんめい)や痰の絡まりが生じている患者さんに対して、吸引による排痰を行います。しかし、このような日常的なケア行為が、終末期患者さんにとっては強い苦痛になる場合があります。

 吸引を行う基準となる「喘鳴」ですが、終末期の患者さんにおいてはその原因が「機能的原因」と「器質的原因」に分けられます(表1)。

表1 終末期患者の喘鳴の原因
機能的原因
誤嚥
●胃食道逆流
●痰の喀出力低下

器質的原因
●気道粘膜への腫瘍浸潤
●肺炎
●肺うっ血

がん終末期における痰の吸引によるリスクとは?

 なかでも機能的原因により起こることが比較的多く、うち誤嚥の頻度が高いとされています1。なぜかというと終末期の患者さんは、全身衰弱に伴い嚥下力と咳嗽反射が低下して容易に誤嚥してしまうからです。そして誤嚥性肺炎を併発し、気管分泌物が多くなります。

 その状況で吸引による排痰を頻回に行ってしまうと、強い苦痛をもたらす処置になってしまいます。さらに、終末期においては出血傾向や粘膜の脆弱化が見られ、容易に口腔内や気道を傷つけ、出血させてしまうことがあります。

排痰の苦痛を緩和するケアとは?

 よって、気道分泌物の除去を目的とした吸引は、患者さんの負担と症状改善とを考慮しながら必要性を判断し、行っていきましょう。そして、飲食時には誤嚥防止に努め、排痰の苦痛を緩和する吸引以外のケアも行います(表2)。

表2 排痰の苦痛を緩和する看護ケア
★POINT:無理に吸引による排痰を促さず、息苦しさの緩和に焦点を当てる

体位の工夫
●肺うっ血による喘鳴は、ファウラー位や座位をとることで改善することがある
●死前喘鳴時は患者の安楽な体位を保持する
●舌根沈下があると喘鳴が強くなるので、側臥位にしたり、顔を横に向けたりすることで改善することがある

口腔ケア
●終末期呼吸苦のある患者は口呼吸となっていることが多く、口腔内が乾燥しやすい。乾燥により痰の粘性が高くなると排出しにくいため、適宜、口腔内の保湿をする
●加湿器などを使用して、乾燥を予防する

環境調整
●室温は低めが望ましい
●風を送ると空気が動くことで吸い込みやすくなり、呼吸困難が軽減する
●乾燥予防のため加湿器を使用する際には、室温が高くなりやすいので注意する

 ただし、意識のある患者さんでは痰の貯留が強い苦痛となっている場合もあります。喘鳴の原因を適切にアセスメントして、吸引処置による苦痛と効果のバランスを考えていくことが大切です。

死前喘鳴とは?

 死期が迫り、意識レベル低下に伴う嚥下反射の抑制により唾液分泌が蓄積することや、衰弱により有効な咳嗽ができずに気道分泌物が増加することで起こる喘鳴を、死前喘鳴といいます。“死前喘鳴”と“通常の喘鳴”との鑑別をすることは難しいですが、全身状態や予後予測から、ある程度は鑑別できます。

 死前喘鳴と判断した場合、苦痛を和らげることへ焦点を当てるようにし、無理に吸引などで排痰を促すことはせず、息苦しさを緩和させるように、ケアの方向性を考えます(図1)。

図1 死前喘鳴の場合の治療・ケアの移行
死前喘鳴の場合の治療・ケアの移行

家族への対応のポイント

 ご家族は、喘鳴が続くことで「おぼれているように息が苦しいと思った」「窒息するのではないかと心配だった」という不安を感じることがあります。ご家族が痰の吸引を依頼してくることもあります。

 そのときには、何とかよくなってほしいというご家族の思いを受け止めたうえで、吸引がときに咳嗽を誘発し全身のエネルギー消費につながってしまうこと、また咳嗽により頻回な吸引が必要となり1患者さんの苦痛を強くしてしまう可能性があることを伝えていきましょう。

 また、死前喘鳴が出現するころになると、全身衰弱に伴い、 意識が低下してきます。そのため、 患者さんにとっては苦痛ではないということをわかりやすく説明し、そばにいることで、ご家族のつらさが緩和されるように配慮することが大切です。

 さらに、表2で示したケアはご家族と一緒にできるため、そのようなケアを提供していくことで、ご家族が役割を実感できる支援につながります。

まとめ

●吸引による苦痛と効果のバランスを見きわめる
●死前喘鳴であれば吸引は極力避ける
●「苦しそうで心配……」という家族の思いを受け止め、苦痛を緩和するケアを一緒に行う

1.田村恵子 編著:がんの症状緩和 ベストナーシング.Gakken,東京,2010:110,113.
1.恒藤暁 編:最新緩和医療学.最新医学社,大阪,1999:127-129.
2.日本緩和医療学会 ガイドライン統括委員会編:進行性疾患患者の呼吸困難の緩和に関する診療ガイドライン(2023年版).金原出版,東京,2023:47-49.

次回の記事:【第2回】SpO2値のみを基準にしたがん終末期患者への高流量酸素投与はNG!(9月16日配信予定)

※この記事は『エキスパートナース』2015年6月号特集を再構成したものです。当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載および複製等の行為を禁じます。