意識障害は頭蓋内外のさまざまな原因で発生し、意識混濁と意識変容に分類されます。意識障害の特徴や原因を、看護師向けにわかりやすく解説します。

ポイント

●意識障害は、「意識混濁(清明度の異常)」と「意識変容(質の異常)」に分けられる
●意識障害は頭蓋内・外のさまざまな要因で起こる
●いずれにしても“生命危機のサイン”であるため、迅速な対応が必要

意識障害は重大かつ複雑

 「息苦しいです」「お腹が痛いです」。私たち看護師はふだんこのような“症状の有無”を聴きながら患者に接しています。
 
 通常であれば、患者は自身の身体に異常が生じた際に、自覚した異常を正確に私たちに伝えてくれます。しかし、これは“患者に意識障害がない”という前提に成り立ちます。意識障害のある患者は、身体の異常を自身で訴えることができないだけではなく、生命の危機状態に瀕している場合も多く、意識障害は生命危機の徴候と同義として認識する必要があります。

 さらに、意識障害のある患者は、同時に呼吸や循環や代謝などにも障害をきたしている場合も多く、また意識障害の原因は中枢神経系のみとは限らず、高度な観察力が求められます。

意識障害とは?

 このような重大かつ複雑な意識障害を理解するためには、まず「意識とは何か」を理解する必要があります。意識とは「awareness of self and environment(自分自身と周りの環境について気づいている状態)」1と定義されます。

 通常、人は自身と周りの環境を正確に理解し、何らかの刺激があればそれに対応します。例えば、誰かに質問されればそれに気づき、質問の内容を認識し、回答することで会話が成立します。このような状態を意識清明(alertness)といいます。

 意識は、自身と周りの環境にどの程度気づいているかという覚醒(清明度)と、どのように気づいているかという意識内容(質と拡がり)の 2つの側面から構成されます(図12。これらのいずれか、または両方が障害された状態を、意識障害といいます。

図1 意識を構成する「覚醒」と「意識内容」
意識を構成する「覚醒」と「意識内容」
(文献2を参考に作成)

意識障害の分類

1)意識混濁とは?

 意識を構成する2つの側面のうちの1つ、覚醒(清明度)に異常が生じた意識障害を「意識混濁」といいます。
 刺激をしても反応が乏しくなっている状態が特徴的で、Mayo Clinicの分類によると、「傾眠」「昏迷」「半昏睡」「昏睡」に分けられます。

意識混濁
●刺激をしても反応に乏しい
●「傾眠」「昏迷」「半昏睡」「昏睡」に分類される(Mayo Clinicの分類)

傾眠
●刺激を与えないと閉眼して眠ってしまう状態
●呼びかけや身体を揺すると容易に覚醒し、指示に従うことができる
昏迷
●強い刺激を与えるとかろうじて開眼し、指示にある程度反応できる
●十分には覚醒させることができない状態
半昏睡
●強い刺激を与えると、回避しようとしたり、顔をしかめるなど、ある程度合目的な反応を示す状態
●指示に応えることはできない
昏睡
●強い刺激(痛覚刺激)を与えても、除脳硬直の姿勢をとるなどの反射的な動き以外、反応がみられない状態
●自動的な動きは消失

2)意識変容とは?

 意識を構成するもう1つの側面のうち意識の内容(意識の質)に異常が生じた意識障害を「意識変容」といいます。
 意識変容は単独で現れることは少なく、 多くの場合に意識混濁が同時に存在します。せん妄は最も代表的な意識変容であり、一過性の覚醒度の変化(意識混濁や過覚醒)に、注意力障害・失見当識・幻覚・妄想・不穏・興奮などを伴います。

意識変容
●多弁・多動、精神運動興奮、不安・幻覚・妄想などが合併している
●多くの場合に意識混濁が同時に存在
●せん妄が代表的

せん妄
一過性の覚醒度の変化(意識混濁や過覚醒)に、注意力障害・失見当識・幻覚・妄想・不穏・興奮などを伴う

意識障害の原因とは?

 意識障害の原因は、脳卒中や脳腫瘍など「病変が頭蓋内に存在する一次性(原発性)脳障害」と、循環・呼吸障害や代謝異常など「病変が頭蓋外に存在する二次性(続発性)脳障害」に分けられます(表1)。

表1 意識障害の原因

一次性(原発性)脳障害
①脳血管障害
脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)、一過性脳虚血発作(TIA) など
②頭部外傷
硬膜外血腫、硬膜下血腫、脳振盪、脳挫傷、びまん性軸索損傷 など
③頭蓋内感染症
髄膜炎、脳炎、脳膿瘍 など
④脳腫瘍
原発性(神経膠腫、髄膜腫)、転移性脳腫瘍、悪性リンパ腫 など
てんかん
単純部分発作、複雑部分発作、全般発作、けいれん重積状態
⑥その他
水頭症、多発性硬化症、自己免疫疾患(SLE、ベーチェット病ほか)など

二次性(続発性)脳障害
①循環障害
不整脈、心不全、心筋梗塞、ショック、神経調節性失神、貧血 など
②呼吸障害
低酸素血症、CO2ナルコーシス、過換気症候群、窒息 など
③糖代謝障害
低血糖糖尿病性昏睡(高血糖)
④電解質異常
ナトリウム異常、カルシウム異常、マグネシウム異常 など
⑤肝障害
アンモニア血症、肝性昏睡 など
⑥腎障害
腎不全、尿毒症、尿細管性アシドーシス など
⑦内分泌異常
甲状腺機能亢進・低下、副甲状腺機能、副腎機能、下垂体機能
⑧ビタミン欠乏
ビタミンB1(ウェルニッケ脳症)、ビタミンB12 など
⑨中毒
アルコール、睡眠薬、麻薬、向精神薬、抗てんかん薬、一酸化炭素 など
⑩感染症
敗血症
⑪体温異常
熱中症、偶発性低体温、悪性高熱症 など
⑫精神疾患
うつ病、統合失調症、ヒステリー など

 治療のためには早期に意識障害の原因を明らかにすることが必要ですが、意識障害は原因を問わず、 救急対応を必要とするような緊急事態であることが多いため、看護師の初期対応がきわめて重要となります。

(第1回)

1.Posner JB,Saper CB,Schiff ND,et al.Plum and Posner’s Diagnosis of Stupor and Coma.4th ed.New York:Oxford University Press;2007:3-37.
2.千葉茂,田村義之:老年期の意識障害 せん妄を中心として.老年精神医学雑誌2009;20(11):1256-1264.

※この記事は『エキスパートナース』2016年5月臨時増刊号を再構成したものです。本記事の無断転載を禁じます。