がん化学療法に伴う急変(オンコロジック・エマージェンシー)を解説。腫瘍崩壊症候群・敗血症・間質性肺炎の原因や早期発見のサイン、看護師が押さえておきたい対応・予防のポイントをまとめています。

 がんの局所浸潤や全身転移などの病状の進展と化学療法や放射線治療など治療に伴う急性反応で、時間・日の単位で急速に進行し、早急に対応しなければならない状態をオンコロジック・エマージェンシーと言います。
 この章では化学療法に伴うもののなかで、「①腫瘍崩壊症候群」「②敗血症」「③間質性肺炎」について述べます。

起こりがちな急変徴候

●電解質異常(尿酸、カリウム、リン、カルシウム)
●尿量減少
●徐脈、頻脈
●テタニー(筋肉の痙攣、脱力感、しびれ)
⇒急速な電解質異常で生命を脅かす腫瘍崩壊症候群を疑おう!

腫瘍崩壊症候群の原因とは?

 腫瘍崩壊症候群とは、治療による腫瘍崩壊に伴って細胞内物質が大量に血中へ放出されることによって起きる、高尿酸血症、高カリウム血症、高リン血症、低カルシウム血症などの、生命を脅かす可能性がある電解質異常です(図1)。

図1 腫瘍崩壊症候群のイメージと影響

腫瘍崩壊症候群のイメージと影響のイラスト

 腫瘍崩壊症候群は、特に“急速に増殖し”“腫瘍量が多く”“化学療法に感受性が高い”腫瘍の治療に伴って起こりやくなります。また、化学療法の開始後12~72時間以内に発症することが多いです。発症リスクの高い疾患を表11に示します。

表1 腫瘍崩壊症候群の発症リスクの高い疾患

血液腫瘍
・急性白血病(特にリンパ性)
・Burkittリンパ腫*2 など

固形腫瘍
・胚細胞腫瘍
・小細胞肺がん など

その他
・LDH高値
・循環血液量の減少
・腎障害の存在 など

(文献1より引用)
*2【Burkittリンパ腫】=バーキットリンパ腫、悪性リンパ腫の一種。

腫瘍崩壊症候群の早期発見・対処のポイントは?

①観察

 リスクの高い疾患(表1)の治療開始後72時間程度は、以下を重点的にチェックしながら早期発見に努めます。

●体重
●in-outバランス
●バイタルサイン
●検査値:血清電解質や腎機能、尿酸値など(表22
●心電図波形:不整脈(徐脈、心室頻拍、心室細動、T波の先鋭化、QT間隔の短縮、QRS幅の増大など)
●関連症状:悪心・嘔吐、脱力感、しびれ、筋肉の痙攣、徐脈、頻脈、尿量減少、浮腫など

表2 腫瘍崩壊症候群の検査データ(診断項目)

尿酸
検査値:≧476μmol/L(8mg/dL)
ベースラインからの変化:25%以上の上昇
K
検査値:≧6.0mmol/L or 6mEq/L
ベースラインからの変化:25%以上の上昇
P
検査値:≧1.45mmol/L
ベースラインからの変化:25%以上の上昇
Ca
検査値:≦7mg/dL(1.75mmol/L)
ベースラインからの変化:25%以上の低下

(文献2より引用)

②症状への注意

 患者や家族に、上記の腫瘍崩壊症候群に関連した症状を説明し、症状出現時にはすみやかに報告するよう指導します。

③治療

 治療は、電解質異常の補正を行いながら、血圧や尿量の維持を図ります。
 腎不全、著しい高カリウム血症・高尿酸血症・乏尿などで、通常の治療では対処不能の場合は血液透析を行います。

腫瘍崩壊症候群の予防・予測のポイントは?

 治療開始前にも、腫瘍崩壊症候群を起こしやすい疾患(表1)かどうかを評価して、起こすリスクについてアセスメントします。
 また、腫瘍崩壊症候群が発症した場合は急速に悪化する可能性があるため、次の方法から発症を予防することが最も重要です(図21

図2 腫瘍崩壊症候群に対する予防(治療)薬剤

腫瘍崩壊症候群に対する予防(治療)薬剤の解説図
(文献1を参考に作成)

①尿量の確保

 十分な輸液(K・P・Caフリーの輸液)を行い、尿量は80~100mL/m2/時を維持します。必要に応じて利尿薬を用います。

②高尿酸血症を防ぐ薬剤の投与

 高尿酸血症による急性腎不全を予防するため、尿酸を低下させる以下の薬剤を使用します。なお、疾患やその悪性度やステージ、LDH値などによって発症のリスクを判断し、高リスクと考えられるときや、すでに高尿酸血症を発症している場合にはラスブリカーゼを使用します。

 「低リスク」と考えられる場合は、アロプリノール(ザイロリック®)の内服投与を行います。尿酸の産生を減少させる薬剤ですが、効果が現れるまで数日かかります。

 「高リスク」と考えられる場合は、ラスブリカーゼ(ラスリテック®)の静注投与を行います。尿酸を直接分解する尿酸酸化酵素であり、すでに存在する高尿酸血症に対しても効果があります。ラスブリカーゼはアロプリノールより効果発現が早く、投与4時間程度で効果が現れます。過去の投与によって中和抗体が産生された報告や、再投与にて重篤なアレルギー症状が発現したという報告があり、過去にラスブリカーゼを投与された患者への再投与は慎重投与となっています。

起こりがちな急変徴候

●好中球数減少
●感染頻度が高い身体部位の感染徴候
●発熱
⇒DIC、ARDS、MODSにつながりやすい敗血症を疑おう!

敗血症の原因とは?

 敗血症は感染による全身性の炎症性反応で、化学療法後の好中球減少時期に起こりやすいです。敗血症が進行しているときは、低体温になることもあります。

 毒素(エンドトキシン)によって血圧低下末梢循環不全が起き、敗血症性ショックにつながり、播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation、DIC)、急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome、ARDS)、多臓器不全症候群(multiple organ dysfunction syndrome、MODS)に進行する恐れがあり、死に至る危険性が高くなります。敗血症のリスクファクターを表3に示します。

表3 敗血症のリスクファクター

●好中球減少症とその持続
*好中球数が落ちる、化学療法開始後7~14日目は特に注意!
●免疫抑制状態
糖尿病・腎臓、肝臓、心血管系、肺疾患の合併症
●65歳以上の高齢者
中心静脈カテーテルなど留置中
●皮膚と粘膜の統合性障害

敗血症の早期発見・対処のポイントは?

①観察と症状への注意

 好中球数はがん化学療法開始から7~14日目に最低値に至ることが多いため、患者や家族にその時期に感染しやすいことを説明し、症状(表4)出現時には必ず連絡するよう指導します。
 また、好中球減少時には感染頻度が高い部位(口腔内、咽頭、副鼻腔、肺、腟・肛門周囲、皮膚、尿路、カテーテル刺入部)の症状や身体所見を注意深く観察することが重要です。

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