がん薬物療法で使用される抗がん薬は、発がん性、催奇形性または他の発生毒性、生殖毒性のあるHazardous Drugs(ハザーダスドラッグ/以下、HD)です。

 抗がん薬の調製、投与、廃棄、投与後の患者さんの排泄物の取り扱いなどの際には職業性曝露のリスクがありますが、日本ではその安全管理に放射線管理のような法的根拠がなく、対策は各病院などに任されています。

 このような現状から、多職種で組織的に職業性曝露対策に取り組む必要があり、2015年に『がん薬物療法における曝露対策合同ガイドライン』が発刊され、改訂版として2019年版1が発刊されました。

 2016年、米国の薬局方ではHDの適切な取り扱い指針である「USP General Chapte〈800〉」2を公布、厳しい安全管理対策が明文化され、2019年12月からは法的強制力をもつものとなりました。

 2019年版のガイドラインは、こうした海外の潮流も参考に、医師・薬剤師・看護師から構成されるメンバーで検討し、作成されました。以下に、看護師が知っておくべき3つのポイントを紹介します。

おさえておきたいこと

CSTDの使用
●抗がん薬の調製・投与時は閉鎖式薬物移送システム(CSTD)を使用する
●すべての抗がん薬無菌調製へのCSTD使用に180点が加算される

CSTDは、 外部の汚染物質の混入と、 抗がん薬が外に漏れるのを防ぐ

 抗がん薬は調製時だけではなく、静脈内投与においても輸液バッグへのスパイク、プライミング、接続の脱着などの場面で曝露のリスクがあります。

 局所投与においても、現場での抗がん薬の調製やその介助、シリンジ間の薬液の移し替えなどの場面に曝露のリスクがあります。いずれにおいても、こぼれ(スピル)に遭遇するリスクもあります。

 閉鎖式薬剤移送システムである「CSTD」3は、これらのリスクから医療従事者を防護するための器具で、抗がん薬の調製・投与の際に、外部の汚染物質が混入することを防ぐと同時に、液状あるいは気化/粒子(エアロゾル)化した抗がん薬が外に漏れ出すことを防ぐ構造を有しています。

 前述の「USP General Chapter〈800〉」2では、「剤形が許す場合、抗悪性腫瘍HD投与時、CSTDを使用しなければならない」と強い表現で明示され、CSTDは投与時の曝露対策として不可欠なものと位置づけられています。

肝動脈化学塞栓療法や局所投与時にも活用できる

 日本では現在、調製・投与用と、投与専用のCSTDが販売されており、これらは肝動脈化学塞栓療法(TACE)や膀胱注入などの局所投与時にも活用することができます。

 また、平成28年度の診療報酬改定で、すべての抗がん薬無菌調製に対するCSTD使用に180点が加算されましたが、現在のところ投与部分への加算はなく、投与時にCSTDを使用する場合、費用は病院負担となることが普及の障壁になっています。
 しかし、2015年のガイドライン発刊後、曝露対策に関する医療従事者の意識は高まり、投与用のCSTDを導入する施設は確実に増加しています。

1.日本がん看護学会,日本臨床腫瘍学会,日本臨床腫瘍薬学会編:がん薬物療法における職業性曝露対策ガイドライン 2019年版.金原出版,東京,2019.
2.USP:USP General Chapter〈800〉Hazardous Drugs—Handling in Healthcare Settings.
https://www.usp.org/compounding/general-chapter-hazardous-drugs-handling-healthcare(2024.5.8アクセス)
3.日本がん看護学会監修,平井和恵,飯野京子,神田清子編:がん看護実践ガイド 見てわかる がん薬物療法における曝露対策.医学書院,東京,2016:44.

職業性曝露を防ぐ3つのポイントー『がん薬物療法における職業性曝露対策ガイドライン 2019年版』より(7月22日配信予定)

この記事は『エキスパートナース』2020年7月号の記事を再構成したものです。
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