職業性曝露を防ぐ3つのポイントー『がん薬物療法における職業性曝露対策ガイドライン 2019年版』より①

おさえておきたいこと

N95マスクの使用
●抗がん薬の投与時にCSTDを使用しない場合は、N95マスクを着用する
● サージカルマスクは、呼吸器防護具にはならない

投与時はN95マスク以外にも、 二重手袋と長袖ガウンを着用する

 従来のガイドラインに示された通り、CSTD使用の有無にかかわらず抗がん薬の注射剤を投与するときは、二重手袋長袖ガウンの着用が必要です。
  これに加えガイドラインでは、CSTDを使用しない場合は呼吸器防護具として、N95マスクが必要であることが明示されました(CSTDを使用する場合は不要)(表1)1

表1 HD取扱作業に必要なPPE

 そして、サージカルマスクは皮膚・粘膜への抗がん薬の接触防止、すなわち鼻・口周囲の顔面防護具にはなりますが、呼吸器防護具にはならないものと位置づけられました。

 投与以外の看護業務では、抗がん薬のこぼれ(スピル)処理、散剤の内服介助、簡易懸濁・経管注入時には、空気中に浮遊する抗がん薬の粒子(エアロゾル)を吸入するリスクがあり、N95マスクを使用し呼吸器防護をする必要があります。

おさえておきたいこと

個人防護具の使用
●抗がん薬の大半は投与後48時間以内に排泄される
●投与後48時間以内の患者の排泄物・体液の取り扱い時や、大量に発汗している際のケアでは、個人防護具(PPE)を使用する

日常業務と同様、 スタンダードプリコーションとして個人防護具を使用する

 抗がん薬投与後の患者さんの排泄物・体液には、投与後一定期間、薬剤の残留物と活性代謝物が含まれています。
 一般に薬剤の大半は投与後48時間以内に排泄されるため、その期間、患者さんの排泄物・体液、それらで汚染したリネン類に接触する際は曝露のリスクがあり、防護が必要です(表2)1

表2 HD投与患者の排泄物・リネン類の取り扱い、清潔ケアに必要なPPE

 海外の研究で、シクロフォスファミド(CPA)を投与した患者さんの入浴介助をした看護師の手袋または手から、検出下限以上のシクロフォスファミドが高い割合で検出されたという報告2があり、2019年版ガイドラインでは、従来の「排泄物・体液やそれらに汚染したリネン類の取り扱い」に加え、「投与後48時間以内の患者さんが大量に発汗している際のケア」の場合も個人防護具(PPE)が必要であることが示されました。

 ただし、日常業務においてはスタンダードプリコーションの観点から、排泄物・体液の取り扱い時や清潔ケア時は手袋などの個人防護具を使用しているため、業務上の大きな変更にはならないと考えます。

 本ガイドラインは、職業として不特定多数の患者さんの抗がん薬投与やケアに携わるうえでの「職業性曝露対策」に焦点を当て作成されたものです。
 患者指導に活用する際は、人生のほんの一時期、必要な抗がん薬投与を受ける患者さんとその家族であることを忘れずに、厳密に指導することで無用な心配を与えないよう留意しましょう。

1.日本がん看護学会,日本臨床腫瘍学会,日本臨床腫瘍薬学会編:がん薬物療法における職業性曝露対策ガイドライン 2019年版.金原出版,東京,2019.
2 .FransmanW,Vermeulen R,Kromhout H:Dermal exposure to cyclophosphamide in hospitals during preparation,nursing and cleaning
activities.Int Arch Occup Environ Health 2005;78(5):403-412.

この記事は『エキスパートナース』2020年7月号の記事を再構成したものです。
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