終末期のバイタルサインがどのように変化していくのかについて解説。最期の3日間でのバイタルサインの変化や、心停止前、がん終末期など、亡くなる前に見られるサインを紹介します。
終末期のバイタルサインの変化とは?
人が亡くなる2週間前からのバイタルサインの詳細な経過は、がん患者で1本の研究があります1。それによると、最期の3日間で特に「血圧は収縮期・拡張期ともに低下」「酸素飽和度は90%以下」「体温はわずかに上昇」し、「呼吸数は変化がなかった」ことが報告されています。これは特異度80%以上で、感度は低く35%以下でした。
一方、亡くなる最期の日でも、多くの人がバイタルサインは正常であったことも報告されています。
実際に皆さんはどのように予測し、ご家族を呼んでいますか? 看護師や救急隊の中では飽和度(saturation)の頭文字をとって“サット(sat)”と呼ぶのがはやっているようですが、その“サット”が80%を切ったらご家族を呼ぶ、あるいは血圧が低下してきたらなど、経験的に判断している人も多いでしょう。
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心停止前のバイタルサインの変化とは?
実際の患者さんでの研究で、「心停止した患者の70%は、心停止前の8時間以内に呼吸器症状の増悪所見を呈している」という論文2があります。このときの呼吸数は、29±1回/分でした。呼吸状態は死の当日8時間前には悪化するようです。
がん終末期のバイタルサインの変化とは?
日本では森田3が、100人の終末期のがん患者の身体的変化が、死の平均何時間(カッコ内は中央値)前に起こるか明らかにしています。
死前喘鳴は57(23)時間、下顎呼吸は7.6(2.5)時間、四肢チアノーゼは5.1(1.0)時間、橈骨動脈触知不能は2.6(1.0)時間でした。このうち死前喘鳴は、他の兆候より先行していました。
また終末期のがん患者を対象に、亡くなる前48時間以内の死亡を予測した研究があります。血圧低下の場合、「収縮期血圧が20mmHg以下、拡張期血圧が10mmHg以下」という指標と、「酸素飽和度が低下の場合、SpO2が90%以下」という、血圧・SpO2の2つの指標が同時に起これば、ほぼ48時間以内に亡くなることを明らかにしています4。
約95%の確率で起こり、感度は81.4%と高いものです。 一番初めに述べた研究と同じ進行がん患者を対象とした研究では、3日以内の死亡でバイタルサインに関する徴候は、チェーン‒ストークス呼吸、死前喘鳴、橈骨動脈触知不能、下顎呼吸が起こるという報告1です。しかし、これらの徴候がなくても、3日以内に死亡する場合もあることが記述されています。
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がん終末期以外の死亡につながるバイタルサインの変化とは?
がん患者以外ではどうでしょうか?一般病棟での前向き研究では、バイタルサインでの異常は、「GCS(グラスゴーマスケール)が2ポイント以上低下する意識障害」「血圧低下90mmHg以下」「呼吸数6回/分以下」「酸素飽和度90%以下」「徐脈30回/分以下」が死亡率と関係があったこと、そのうち最も頻度が高かったのは低酸素51%、血圧低下17.3%5でした。
また、一般病棟で医療チームが教育を受けることで院内急変患者のリスクに気がつくか等を調査した介入研究6をみると、死の間際ではないのですが、急変前に873人の中で異常なバイタルサインがあったのは155人(18.7%)という結果でした。
その異常とした基準は、「呼吸数6回/分以下」「呼吸数30回/分以上」、酸素吸入いかんにかかわらず「酸素飽和度は90%以下」、「脈拍50回/分以下」「脈拍130回/分以上」、「収縮期血圧90mmHg以下」「収縮期血圧200mmHg以上」でした。
そして、異常なバイタルサインが現れた場合の院内死亡率は13%で、異常がない場合の死亡率は5%でした。異常なバイタルサインの早期発見は重要といえるでしょう。【第16回】で説明した「NEWS」等を活用することが望まれます。

がん終末期のバイタルサインでは呼吸と意識レベルが重要
以上より、終末期の患者さんで家族を呼ぶと判断するのは、「NEWS」でいう呼吸数8回/分以下や25回/分以上、酸素飽和度91%以下はめやすといえるでしょう。そのほかの“スコア3”も参考になるかもしれません。
がん患者は、当日まで正常なバイタルサインの方も多く、意識レベルや死前喘鳴がめやすになるようです。また、がん患者は予後予測も可能になってきているといえます(「PaPスコア」「PPI(Palliative Prognostic Index)」7。そのスケールのうち、バイタルサインで重要視されているのは呼吸困難、意識レベルです。日本では森田が『死亡直前の看取りのエビデンス』8を出版し、特にがん患者の分野の研究を牽引しています。
しかし、他の疾患ではまとまった研究は少ないようです。
近年は複雑な経過をたどり、血圧が低下したからと家族を呼んでも持ち直したりすることも多いように思います。もっとこの領域の研究が増えると、臨終に間に合わなかったと思うご家族が減っていくのかもしれません。
また、亡くなるときにそばにいなくても、十分看病した、患者とともにあったとご家族が思える状況に援助することも、看護師の大切な役割でしょう。
- 1.Bruera S,Chisholm G,Dos Santos R,et al.:Variations in vital signs in the last days of life in patients with advanced cancer.J Pain Symptom Manage 2014;48(4):510-517.
2.Schein RM,Hazday N,Pena M,et al.:Clinical antecedents to in-hospital cardiopulmonary arrest.Chest 1990;98(6):1388-1392.
3.Morita T,Ichiki T,Tsunoda J,et al:A prospective study on the dying process in terminally ill cancer patients.Am J Hosp Palliat Care 1998;15(4):217-222.
4.Hwang IC,Ahn HY,Park SM,et al.Clinical changes in terminally ill cancer patients and death within 48h:when should we refer patients to a separate room?.Support Care Cancer 2013;21(3):835-840.
5.Buist M,Bernard S,Nguyen TV,et al.:Association between clinically abnormal observations and subsequent in-hospital mortality:a prospective study.Resuscitation 2004;62(2):137-141.
6.Fuhrmann L,Perner A,Klausen TW,et al.:Effect of multi-professional education of staff on recognition and management of patients at risk.Resuscitation 2009;80(12):1357-1360.
7.Hui D,dos Santos R,Chisholm G:Clinical signs of impending death in cancer patients.Oncologist 2014;19(6):681-687.
8.森田達也,白土明美:死亡直前と看取りのエビデンス.医学書院,東京,2015.
※この記事は『エキスパートナース』2017年1月号特集を再構成したものです。当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載および複製等の行為を禁じます。